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スウィート・シスター・ライフ! ~甘すぎる僕のお姉ちゃん~  作者: ひなた華月
第5章 甘すぎる僕のお姉ちゃん
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第50話 甘すぎる僕のお姉ちゃんと僕のけじめ

「姉さん! 姉さん!」


 僕はベッドで苦しそうにしている姉さんに大声で呼びかけた。


 僕が冷静だったら、もっと優しく呼びかけていたかもしれないけれど、そんなことに頭が回らないくらい、今の僕は動転していた。


「……はぁ、はぁ……、りく……くん?」


 でも、呼びかけたことが功を奏して、姉さんはやっと僕の存在を確認して、ほんの少しだけ口角をあげる。


「ごめ……んね? もう、朝、だよね……ご飯……作らなきゃ……」


 姉さんは布団をずらして上半身だけ起き上がらせたものの、かなり苦しそうな表情をしていた。布団の中も姉さんの体温がこもっていたのか、僕のところまで熱気が伝わってくる。


「何言ってるんだよ、姉さん!! そんな状態で……。ごめん、少し触るよ」


 断りを入れてから姉さんの額に触ると、湿った汗の感触と、平熱以上の体温が僕の手のひらに伝わってきた。


「ひどい熱……」


 そう思った途端、僕の頭の中で昨日の出来事がフラッシュバックした。



 雨の中、全身濡れて僕を探してくれた姉さんの姿。



 もう季節は春だったというのに、風が冷たかった夜。



 そして、昨日はご飯を食べたらすぐに、姉さんは自分の部屋へと戻っていった。



「姉さん……まさか、昨日から体調が悪かったんじゃあ……」


 思い返してみれば、心当たりがありすぎる。


 すると、姉さんは焦点の合わない目を僕に向けると力のない笑みを返した。


「うん……ごめんね。一晩寝たら治ると思ったんだけど……」


 と、姉さんはなお、ベッドから立ち上がろうとした。


 だが、布団から出ようとしたところで、また身体がふらついて、僕のほうへと倒れこむような態勢になってしまう。


「ね、姉さん!」


 僕が慌てて、姉さんの肩を掴むと、僕たちの顔の距離はほんの三十センチほどになった。


「えへへ……ダメだね、お姉ちゃん。今日は陸くんの大事な日なのに……」


「なに、言ってんだよ姉さん……」


 こんなときでも、姉さんから発せられる言葉は僕のことばかりだ。


「いいから、横になって……」


 とにかく、姉さんのこの状況を少しでも良くしないと。


 そう考えた僕は、まず、僕は起き上がろうとする姉さんを何とか寝かしつけて、リビングへと向かった。


 そして、救急箱の中に体温計に冷却シート、常備薬があることを確認するとコップ一杯に水を入れて姉さんのところまで戻った。


 このときは、暢気にも「ちゃんと体調が悪くなったときの準備をしておいてよかった」と思っていたけれど、よく考えれば、それも姉さんがしてくれていたことなのだろう。


 きっと、僕に何かあったときの為に。


 これは、自分を買いかぶっているわけじゃない。


 だって、僕はこれでもかというくらい、思い知らされてしまったからだ。



 姉さんが、僕のことを、どれだけ大切にしてくれていたのかを。



 ずっとずっと、傍にいてくれたから分かるのだ。



「姉さん、はい、これ、飲んで」


「ありがとう。ん、ん……はぁ……」


 そして、僕が持ってきた常備薬と水を飲んだ姉さんが、ほんの少しだけ顔色がよくなったことに一安心する。


 だけど、体温計で熱を計ってみると、案の定、熱は38度以上あった。


「姉さん、他に何かしてほしいことってある?」


 冷却シートを姉さんの額に貼りながら、僕は姉さんに尋ねた。


 本来なら、姉さんは「大丈夫だよ」と笑顔で返すのだろうが、さすがの姉さんも、このときばかりは僕の言うことを素直に受け止めてくれた。


「そう……だね……。ちょっと、パジャマが汗で気持ち悪い……かも」


「うん、わかった」


「えっと……りく、くん……悪いんだけど……」


 と、姉さんは少し恥ずかしそうにしながら、僕に告げた。


「下着も……取ってくれると嬉しい……かな」


「えっ? あ、ああ……そうだよね……」


 一瞬、躊躇してしまったけれど、当然と言えば当然だ。姉さんは何も変なことは言っていないし、僕が恥ずかしがることなんて、何もないじゃないか。


 なので、僕は言われた通り姉さんの洋服が入っている箪笥から、パジャマと下着を取り出した。下着は、できるだけ見ないようにしてパジャマの中に包んで渡した。


「ありがとう、りくくん……」


 しかし、姉さんは僕の羞恥心を知ってか知らずか、ちゃんとお礼を言ってくれた。


「でも……ブラは大丈夫だよ。私、寝るときにはつけてないから……」


「あっ、そ、そうだよね! 姉さん、この前もつけてなかった……じゃなくて! ご、ごめん……」


 そういえば、姉さんが勝手に僕のベッドに侵入してきたときはブラをしてなかったなぁ、なんてことを思い出してしまい、また赤面してしまう僕。


「ふふっ、変な陸くん」


 しかし、そんな僕のあたふたする様子が面白かったのか、くすくすと笑いを零す姉さん。それを聞いて、僕はちょっとだけいつもの姉さんに戻ったようで安心する。


 しかし、姉さんの次の行動に、またしても僕は動揺してしまった。


「……ん。よいしょ」


 なんと、姉さんは僕の前で、パジャマを脱ぎ始めたのだ。


 突然のことで固まってしまう僕だけれど、このまま部屋を出ていくのも何だか違うような気がしたので、顔を逸らすだけでそのまま留まってしまった。


 不謹慎だと思っても、服が身体と擦れる音に反応してしまう。


 姉さんが着ていたパジャマは、比較的薄いシャツのようなもので、ボタンをとっていく雰囲気も、下のズボンを脱ぐ音も鮮明に聞こえてくる。


 そのたびに、瞼を閉じる筋肉がぴくぴくを動いてしまう。


 僕の馬鹿! 変な想像をするな!


 だけど、そんな僕の理性とは裏腹に、瞼の裏には姉さんの煽情的な姿が浮かんでしまっていた。


「……りくくん?」


「ひゃ、ひゃい!?」


 突然、姉さんから呼ばれてしまって奇声を上げてしまい、思わず目を開けてしまった。


 しかし、姉さんはもう僕が用意した淡いピンク色と花の柄が入ったパジャマを着用していた。


「……ありがとう、りくくん。えへへ」


 そう笑顔で言ってくれる姉さん。


「でも、りくくんに風邪をうつしちゃ悪いから、もうりくくんはお姉ちゃんに近づかないほうがいいかも」


「でも……」


「お姉ちゃんは、大丈夫だから、ね?」


「本当に、もう何もしてほしいことはない?」


「うん」


 姉さんは、今日一番の力がこもった声で返事をした。


「……じゃあ、また何かあったらすぐに僕を呼んでね。《《僕は自分の部屋にいるから》》」


 それだけ告げて、僕は姉さんの部屋から出ていこうとした。


「待って、りくくん」


 しかし、姉さんは僕を呼び止めた。



「陸くん、『《《自分の部屋にいる》》』ってどういうこと?」



 ――さすがに、姉さんも僕の発言におかしいことに気が付いたようだ。



「《《今日の公演会》》、《《どうするつもりなの》》?」



 それは、ほんの少しだけ、期待を込めているような質問だった。



 だけど、僕の答えは変わらない。


「……休むよ。こんな状態の姉さんを一人で置いていく訳にはいかない。華恋かれんしお先輩には、ちゃんと説明するから」


「だ、駄目だよ!」


 姉さんは、がばっとベッドから立ち上がろうとしたけれど、やっぱり全然本調子じゃなくて、ふらついた状態で上半身を起き上がらせることでやっとだった。


「お姉ちゃんのせいで……りくくんに迷惑かけたくないもん……。ね、私は一人でも大丈夫だから、心配しないで」


 姉さんなら、必ずそう言うだろうと思っていた。


 だけど、僕は心を鬼にして、姉さんに現状を伝えなくてはいけない。


「姉さん、それに、これは僕と姉さんだけの問題じゃないんだ。公演会には沢山の子供が来るんだよ? 万が一、僕も姉さんと同じように風邪を引いていたら、その子供たちに、うつしてしまうかもしれないじゃないか。そんな危険がある状態で、僕は公演会に行くことなんてできない」


「そ、それは……」


 生徒会などの仕事をしている姉さんには、この僕の理屈は十分に理解できるはずだ。


「それに、姉さんが熱で倒れたのは僕の責任だよ。そんな中、姉さんを放っておくなんて、僕には無理だよ」


りくくん……」


 だからこそ、姉さんは僕の話を聞いて、全てを理解したのだろう。


「ごめんね……りくくん……お姉ちゃん、せっかくりくくんが頑張ってきたのを、台無しにしちゃった……」


 ぎゅっと、布団を握りしめて震える姉さん。その瞳からは、ポタポタと涙がこぼれ始めていた。


「姉さん……」


 だから僕は、これ以上、姉さんが自分を責めないように、こう告げた。


「姉さん。大丈夫だよ。僕が頑張ってきたことは、無駄になんてならない」


「えっ……?」


 正直、僕の考えた計画が、どこまで現実味を帯びているのかは分からない。


 だけど、決して不可能ではないはずだ。


 ただ、その代わり、協力してもらわなければいけない人たちが何人もいる。


「姉さん、ひとつだけ、僕の頼みを聞いてくれないかな?」


 そう言って、僕は一つだけ、姉さんに協力してもらうことにした。


 いや、姉さんというよりは、あの人に協力してもらう、というのが正解かもしれない。


 でも、確信はある。


 あの人ならきっと、僕や姉さんの力になってくれるはずだから。


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