第37話 ツンデレな僕の幼なじみとの関係
色々と誤解されていそうだったので、おばさんには僕の事情を説明したのち、姉さんが帰ってくるまでの時間、しばらく華恋の家にお邪魔することを正式に認めてもらうことにした。
「そんなに気を遣わなくていいわよ。昔はよく遊びに来てくれてたんだし、華恋から誘ったんでしょ?」
「違う! ……ことも、ないでも、ないけど! ちゃんと理由があったってわかったでしょ!?」
「はいはい、もう……素直じゃないところはお父さんそっくりなんだから。陸くんも、苦労するだろうけど、うちの子をよろしくね」
「はぁ……」
僕の曖昧な返事にも、おばさんはどこか満足気な表情を浮かべていた。
昔からそうだけど、おばさんの言葉がたまに僕にはよく分からないときがある。
そういう発言をするとき、大概、華恋が怒っていることが多いのだけど……。
ともかく、おばさんの介入により当初の予定通り人形演劇の練習をすることになった。
色々とゴタゴタになってしまった僕たちだったけれど、練習に入るとお互い真剣になってしまい、気が付けば夕方も過ぎ、華恋の部屋に飾られた時計は7時を指していた。
「ねえ、陸くん。良かったらご飯も用意するわよ? そっちのほうが華恋も嬉しいわよね?」
「おおおおお、お母さんッ!」
そんな親子のやりとりがあったけれど、僕は少し考えてそれを辞退した。
「ごめんなさい、きっと姉さんが夕食を用意してくれてると思うので」
「そう……じゃあ、また紗愛ちゃんとも一緒に来てね」
笑顔で僕を見送ってくれたおばさんと、何故か顔を逸らしてブツブツと言っている華恋に見送られて、僕は明坂家を後にした。
別れる寸前に、華恋から「人形劇、絶対成功させるわよ!」と告げられ、僕もそれに応えるように力強く頷いた。
そのことが嬉しくて、僕は少しだけ頬を緩ませて帰宅する。
そして、鍵のかかっていた家のインターフォンを押すと『はーい、陸くん?』と明るい声がスピーカーから聞こえてきた。
「ごめん、姉さん。鍵忘れて出かけたから、開けてくれないかな?」
『そうなの? ちょっと待っててね』
そう言った姉さんは、すぐに玄関の鍵を開けて僕を出迎えてくれた。
「ごめんね、陸くん。お姉ちゃんも気付かなかったよ。でも、私が帰って来ててよかった。先に陸くんが帰ってきちゃってたら困っちゃうもんね」
えへへ、とエプロン姿で迎えてくれた姉さんには、余計な心配をかけないように僕が華恋の部屋にいたことは黙っておくことにして、家の中へと入っていくと、リビングからは僕のお腹を刺激する匂いが漂ってきた。
「今日はね、唐揚げにしてみたの。もう少しでできるからちょっと待っててね」
その後、姉さんは僕に背中を向けながら調理を再開し始める。
「陸くん、華恋ちゃんとのお出かけはどうだった?」
フンフ~ン、と鼻歌を歌いながら姉さんが聞いてきたので、僕はそんな姉さんの後ろ姿を見ながら答える。
「えっと、喫茶店の手伝いが凄く大変でさ。でも、華恋はちゃんと注文も取れてて、お客さんともよく話してて――」
それから、僕は今日一日の出来事を姉さんに話した。
もちろん、華恋の家にお邪魔したことは意図的に誤魔化したけれど、一緒にケーキを食べたことを話すと、姉さんは「今度、私も食べに行こうかな! 陸くんがお世話になったお礼も言っておきたいし」と笑顔で話していた。
本当に、何気ない姉弟同士の会話。
僕たちがこんな関係になったのは、一体いつからだろうか?
姉さんが僕の姉さんになったのは、つい最近のはずなのに、最初から僕たちは『姉弟』として生まれてきたような錯覚を覚えてしまう。
でも、それがきっと、姉さんの望む家族の形なのだろう。
――陸と、こういうことだって……。
ふいに、いつもと違う雰囲気を纏っていた華恋の顔が思い浮かんでしまう。
そして、華恋の心臓の音が伝わるくらいの距離で、僕たちは見つめあった。
その瞬間、確かに僕は、華恋に対して、今まで意識をしなかったような感情が生まれたのは間違いない。
でも、それを言葉にするには、今の僕はあまりにも中途半端で、形容しがたいものだった。
逆に、華恋はあのとき、一体僕に何を伝えたかったのだろうか?
きっと、いつものように僕をからかっただけだろう。
でも、万が一の可能性として、華恋が僕が想像してしまったような関係になりたいなんて言ってくれたとしたら――。
――僕は、華恋になんと答えるのだろうか?
「……姉さん、あのさ」
「んー? どうしたの、陸くん?」
可憐な表情で、僕に微笑んでくれる姉さんに、僕は言った。
「……僕も、何か手伝おうか?」
そう告げると、姉さんは少し嬉しそうな顔をして、
「あはっ、陸くんってばどうしたの? でも、そうだね。せっかく陸くんがそう言ってくれたし、お皿の準備をしてもらおうかな」
と、僕でもできる簡単な手伝いを指示してくれた。
僕は姉さんの言われた通り、食器棚から必要な食器を準備していく。
ちょうど姉さんと背中合わせになったことで、僕の心はなぜか穏やかになったのだった。




