第30話 甘すぎる僕のお姉ちゃんとの舞台準備
『んじゃ、まずオレ様たちがやる人形劇の内容だが、「ブレーメンの音楽隊」だ』
席に座っている僕たちに向かって、ブルースさんがそう告げた。
「ああ、それなら、あたしも知ってるわね」
「私も、子供の頃好きだったよ。陸くんは?」
「う~ん、特別好きってわけじゃなかったけど……」
各々が感想を漏らすが、大体似たような反応だった。
さすがに、これだけ有名な話だったら、誰もが一度は聞いたことがある話だろう。
念のため『ブレーメンの音楽隊』を大まかにあらすじを説明すると、ざっとこんな感じだ。
ある日、年を取ってしまったロバは仕事を失ってしまい、飼い主の元から脱走してしまう。
行くあてのないロバは、ブレーメンにある音楽隊に入隊しようと考え、街を目指すのだがそこで自分と同じような境遇のイヌ、ネコ、ニワトリと出会い、彼らとともに旅をすることになった。
そして、途中で休憩をしようとした民家を見ると、家の中には泥棒がおり、ごちそうを食べながら盗んだ金貨を数えて大はしゃぎしていた。
そこで、ロバたちは力を合わせて、寝ている泥棒たちを脅かして退治し、ロバたちは金貨やごちそうを手に入れて、幸せに民家で暮らしたそうだ。
めでたし、めでたし。
「ねぇ、昔から思ってたんだけど、肝心のブレーメンにはたどり着けなかったのに、どうしてタイトルが『ブレーメンの音楽隊』なのかしら? なんなら、音楽隊にもなってないわよね?」
「う~ん、それは、みんな音楽隊になりたいって思ったのがキッカケで集まった仲間だからじゃないかな?」
華恋の疑問に対して、私見を述べる姉さん。
「ああ、なるほど」
華恋も、そこまで深入りはしてなかったのか、姉さんの意見をあっさりと受け入れた。
僕もちょっと気になっていた事ではあったので、今度時間があれば調べてみよう。
それはともかく、内容を全員が知っているとなると、人形劇としての流れもなんとなくイメージはできる。
「オッケー、あたしたちも、それなら何とか練習すればできそうね」
華恋の言うように、知らない内容の劇よりかは幾分やりやすいはずだ。
もしかしたら、汐先輩も僕たちのことを配慮して、劇の内容を選んでくれたのかもしれない。
『で、まず決めておきたいのは配役だな』
ブルースさんは、座っている僕たちを一瞥する。
「配役って、人形の役ですよね?」
僕はブルースさんに質問しながら、頭の中で考える。
『ブレーメンの音楽隊』に出てくるキャラクターは大まかに分けて、ロバ、イヌ、ネコ、ニワトリかな?
「よく考えなさいよ、陸。泥棒の役とかも入れなきゃいけないでしょ?」
「あっ、そっか」
すっかり忘れていた。
脇役の人たちも、ちゃんと動かさないけないのか。
『それだけじゃねーぜ。舞台を作るとなりゃあ、効果音や仕掛けを動かさないといけない人間だって出てくる。それも全部自分たちでやるんだ』
「なるほど……」
なんとなく、ただ人形を汐先輩みたいに上手く動かせるかどうかだけを心配していたけど、人形劇にも色々とやらないといけないことが多いらしい。
「となると、やっぱり人が少なすぎるんじゃない?」
不安げに尋ねた華恋の意見は尤もだ。
『そうだなぁ。去年はオレ様も舞台に立ったからいいとして、兄弟と嬢ちゃんを入れても、前と一人少ねえ状態だからな』
ブルースさんの言う通り、去年の人形演劇部の人数すら下回っている状態で舞台を進行していこうとなると、なかなかハードルが高いかもしれない。
せめて、あと一人いてくれたら、とりあえずは汐先輩も手配をしやすいだろうに――。
と、その時。
ぞわり、と生暖かいような気配を察してしまう。
僕は、その気配をするほうへと、視線を向ける。
そして、そこには当たり前のように、姉さんがいた。
「ふふふ、そっか~。それなら、仕方ないよね~」
「……姉さん?」
あっ、マズい。
これ、ややこしくなるパターンだ。
残念ながら、僕のこういう予想は当たることが多い。
そして、案の定、椅子から立ち上がって、姉さんが僕たちに告げた。
「決めた! やっぱりお姉ちゃんもみんなと一緒に――」
「駄目よ。あなたは私たちの大事な生徒会長なのだから」
「ひぃあ!」
まさに入部宣言をしようとした姉さんの栗色の髪を、背後に立っていた女子生徒が優しく撫でた。
「は、波瑠ちゃん……?」
「そう、あなたのことをと~っても大事にしてる波瑠ちゃんよ」
平然と姉さんの受け答えをしたのは、副会長の仁科波瑠さんだった。
「こんにちは、弟くん。悪いけど、君のお姉ちゃんに、すこ~しだけ意地悪するわね」
そして、冗談っぽく、波瑠さんは魅惑的な唇をつりあげた。
……意地悪?




