Prologue 甘すぎる僕のお姉ちゃんとの出会い
「初めまして、きみが陸くんだね?」
玄関でそう呟いた女の人は、お辞儀した頭をゆっくりと戻して僕にそう言った。
ぼくは何も答えることができなかったけれど、隣にいた父さんが、そんなぼくの態度を咎めることはなかった。
そして、女の人は靴を脱いで、重たそうに持っていたキャリーバックと共に、僕の家へと足を踏み入れる。
すると、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、ぼくに近づいてくる女の人。
栗色の長い髪が揺れるたびに、キラキラと光が舞っているようだった。
その間も、女の人は丸い瞳でぼくをじっと見つめていた。
中学校の制服を着た彼女の姿は、まだ小学五年生だったぼくには、とても大人に見えた。
にこっ、と微笑みかけてくる唇も。
スカートから覗くすらりとした足も。
とても美しくて、綺麗だった。
自然と早くなる胸の鼓動が、ぼくの身体を振動させる。
「陸くん……」
もう一度、甘い声でぼくの名前を呼ぶ。
そして、ぼくと同じ視線になるように屈んで、こう告げた。
「今日から、私のことはお姉ちゃんって呼んでね」
そう言って、女の人はぼくの頭を優しく撫でる。
とても優しくて、温かい女の人の手。
ぼくは恥ずかしくて視線を逸らしてしまう。
きっと、ぼくはこの日のことを、一生忘れることはないと思った。
〇 〇 〇
これが、ぼくの新しいお姉ちゃん。
紗愛お姉ちゃんとの初めての出会いだった。