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結婚式

 秋の風が吹くころ、シャーリーは控えの間で椅子に座ってやっと落ち着けると一息ついた。


 朝早くからサラとメアリーに磨き上げられ、ウェディングドレスに着替えた。

 鏡に映る見慣れない自分の姿に不思議な感じがして呆然としてしまった。いつも薬草に囲まれた生活のためここ数年ドレスは着ていなかった。ドレスってこんなに窮屈なモノだったのだと思い出した。


 今日はグラベルと自分の結婚式だ。


「シャーリー様。カーネル伯爵様がいらっしゃいました」


 サラが告げると父がやってきた。


「幸せになりなさい」


 父から聞くとは思えなかった言葉が出てきて驚く。


「そんなに驚くことか……。確かに私は娘の気持ちなど考えていなかったのかもしれない。皇太后様からもお叱りを受けた」


 居心地の悪いのか視線が彷徨っている父を見て、皇太后様から何を言われたのかと気になるが父の考えは少しでも変わったのかと疑問になる。


「娘を自分の欲の為に使うなと言われた。それを言われて初めて自分が家のためだけにお前を使っていたのだと気づいた。悪かったな」


 父の束縛から逃げ出したくて王宮の薬室に入った。何とか一人でも生きていけるようにと必死になっていた以前の自分に聞かせてあげたいと思った。やっと解放されたと思えて涙が溢れてきた。


「シャーリー様。お化粧が…」


 サラとメアリーが慌てて涙を拭いてくれ、化粧を直してくれた。

 呼吸を整えて待っているとグラベルがやってきた。


「そろそろ時間だが、準備は出来たか?」


 部屋に入ってきたグラベルの姿に見とれているとサラが代わりに答えてくれた。


「準備出来ました」


 メアリーに手を引かれて立ち上がり、その手はグラベルの手に渡った。


「さあ、行こうか」


 グラベルに促されて頷いて部屋を出た。


 陛下からは盛大に結婚式をと言われたがそれは断った。それでも王宮の教会で式をしてその後のパーティーでは主だった貴族たちが招待されている。

 こういうことに慣れていない自分は教会の扉の前で緊張して、その後の記憶があまりなかった。グラベルに手を引かれ神官の前まで行き、ひたすら記憶してきた言葉を忘れないように何度も呟いていたような気がした。


 その後、広間では陛下から集まった貴族たちに紹介された時、ローレンス様やカルロ様を見かけてやっと落ち着いてきた。


 周囲を見渡すと、薬草畑の関係であった人たちの顔ぶれであふれていた。カルロ様の隣にはカタリーナ様もいてラウエン伯爵は王妃様のそばにいて笑顔だった。


 カルロは陛下からの褒美の爵位と領地を辞退しようとしていたが、リズバルク伯爵に説得され受けることになった。

 陛下からの授与式が終わった直後、ラウエン伯爵はカルロ様とカタリーナ様の婚約を決めた。来年の春にはカルロ様の領地に屋敷が完成する。それを待って二人は結婚式をする予定だ。

 少し照れくさそうにするカルロ様の隣には満面の笑みのカタリーナ様の姿が印象的だった。


 薬室と大学にはローレンス様とカルロ様には縁談の話が殺到したが、カルロ様が婚約したことが判明するとカルロ様に来ていた縁談はローレンス様へ届くようになった。ローレンス様は結婚する気持ちがなく、縁談を断るつもりだが仕事が忙しくてそのままになっている。


 薬室に積み上げられて縁談の手紙を見てイザベラは倉庫でも立てようかと冗談を言っていた。イザベラの話だと今、国内で一番優良株がローレンス様らしい。

 陛下からの褒美に加え、ベスキド王からの礼状と褒美、更に薬室長という肩書にグラベルの信頼も厚い。

 イザベラのところにもローレンス様への縁談の話が来るようで断るのが大変だと言っていた。


 それでも、ローレンス様はどこ吹く風で大量に積み上げられた縁談の手紙を放置して薬草の世話をしている。シャーリーとイザベラはそんなローレンス様も素敵だと思っている。


「シャーリー。ありがとう」


 グラベルにお礼を言われて何のことかと考えた。


「シャーリーが薬室に来て必死に頑張っている姿を見て、自分も頑張らないといけないと感じたんだ。ずっと、逃げてばかりいたがこんなにも出来るのだと自分自身、驚いている。私が頑張ることで陛下や王妃様に迷惑をかけるのではないかと思っていたがそうではなかった。それに気づかせてくれたありがとう」


 シャーリーはグラベルに何かをしようと思っていたわけではなかった。ただ必死に自分の居場所を探していたのかもしれない。手に仕事をつけて家を出ていくために。それがこんな効果をもたらしていたのには気づいていなかった。


 この広間に集まってくれた人たちのほとんどが、薬室に来てから知り合った人たちだ。いつの間にかこんなにも大勢の人たちと関わっていたのかと改めて感じた。


 次々に訪れる人たちに挨拶をしながら、時には薬草の話や薬の話になって、今日が結婚式だったことを忘れそうになる。


「すごいな」


 グラベルに言葉にも感心が現れている。

 こうも自分たちに関わっている貴族たちがいるとは思わなかったのだろう。それに今日は陛下とイザベラが招待状を出している。二人は自分たちが関わってきた貴族たちが誰なのか知っていたことに驚く。


「見られていたんだな」

「そのようですね。ここまで私たちに関係のある人たちばかりに驚きです」

「この恩はしっかりと返していかないといけないな」

「仲間がいますから、きっと大丈夫ですよ」


 シャーリーは広間に集まった人たちを眺めた。


「そうだな」


 グラベルの安心しきった声が聞こえた。

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