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初めての大仕事 中編

 トルン領主が諮問会議にかけられてから一週間がたった。

 エレノアの実家でグラベルがクフ川周辺を捜査していた時、捕まえたのがモージェルの兵士だった。

 ベスキドの囚われている王妃はベスキドの前王の娘で婚姻を結ぶことで同盟関係にあったらしい。それも、元々いた王妃を廃妃にしてまで嫁がせた王族の姫を今度はその兄が連れ去り同盟を破棄してきたとモージェルの兵士が言っていた。


 モージェルはベスキドの攻撃を恐れて、ベスキドがこの国の情報を欲しがっているのを知り、トルン領主を使って情報を聞き出そうとしていたようだが西の要塞、マーシア諸侯の部下が捕らえたベスキドの兵士に聞いた話ではモージェル王は自らベスキドに同盟を求めたらしい。その結果、モージェル王は先の王妃と皇太子を覗く王子をベスキドに差し出した。その為、ベスキド王も実妹をモージェル王の王妃にと送り出したが、モージェル王は先のはやり病で崩れた国内を立て直すどころかベスキドに頼ってきたらしい。


 怒ったベスキド王は実妹である王妃を家臣命令して自国に連れ帰り、代わりに人質として保護していた先の王妃と王子たちをモージェル王へ突き返した。

 焦ったモージェル王はベスキドがベルファルト国のことを知りたがっていると聞いて、今度はベルファルト国の情報を盾にベスキドにすり寄ろうとしていたことが分かった。


 その為、グラベルはマーシア諸侯でベスキドの兵士に詳しく話を聞くため、数日前に旅立っていった。


「しばらく王宮を留守にする」

 トルン領が国直轄の領地に決まったと知らせに来てくれたリズバルク伯爵が呟く。


「どこかに行かれるのですか?」

「西の要塞だ」

「モジュールですか」

「モジュールはまだ先の病の被害が大きく、完全には立て直しが出来ていない。ベスキド王が同盟を破棄してまで王妃を連れ帰ったのはそれが原因だと分かった。モージェル王の統治能力に疑いを持ち始めているのだろ。今の状況からするとモージェル王はこちら側の追及を逃れることは出来ないのと、ベスキドを頼ることも出来ずにいる。今回のことを見逃せばモージェル王は今後も同じようなことを仕出かしてくることは目に見えている」

「グラベル様も一緒ですか」

「陛下の名代で会うことになるからグラベル様が行かれることになる。私はその補佐としてついて行くことが決まった」

「試験までには戻られますよね」

 シャーリーは心配になって聞いてみた。

「必ず戻る。それまでローレンスを頼む」

 ローレンスがリズバルク伯爵に何かを訴えているがそれに気が付かないふりをしてシャーリーに頼んでくる。

「早く帰ってきてください」

 シャーリーも少し弱気になってくる。とてもではないが今のローレンスをどうにか出来る自信がない。


 現在カルロとマース、アンヌの三人がトルン領へ行き、薬草畑の準備をしている。エレノアは薬室に留まってくれてアランと一緒に医局の薬つくりをしてくれていた。


 ローレンスとシャーリーはリズバルク伯爵から秋に開校する大学の生徒を募集し、試験を行うのでその準備をするように言われた。

 約二年ごとに行われていた薬剤師の試験の代わりになるものだと聞かされて、シャーリーは前回の試験問題を見て、どんな問題にするのかを考えていた。


「どうしたらいい?」

 泣き顔のローレンスを横目に、シャーリーは前回の薬剤師の試験問題を見ていた。確か教本があって、その中から出題するとシャーリーが受けた試験の時に聞いた記憶がある。それならと教本に手を伸ばす。

「シャーリー」

「ああ、もう煩いです。ローレンス様、決まったことですからさっさと作りましょう」


 ローレンスはというと、試験すべての行程を考えるのとその準備をするようにと言われて先ほどから不安を口にしていた。どうしてかというと、薬室長はこの試験には関わらないと言われたからだ。

正式にローレンスが薬室長に任命されるのは二週間後だが、すでに薬室長としての仕事をローレンスがしているのだ。


 今回の試験は筆記試験、実技試験、面接。

 試験内容は今までの薬剤師の試験と同様でいいと言われている。筆記試験問題もそうだが、実技試験で使う薬草も手配しなければいけない。

 面接は管理官のリズバルク伯爵、薬室長のローレンス、大学の学長に就任予定のグラベルとなぜかシャーリーも入っている。自分が入っている理由が分からないが、ローレンスがこんなんで大丈夫だろうかと心配になってくる。


「ローレンス様、急ぎましょう。時間がありません」

 シャーリーは再び試験問題を考え始めた。試験問題を何とか作りつつ、実技で使う薬草の準備を始める。

 数日前に募集をかけた大学の薬学部と医学部の両方には定員をはるかに超えた人が応募してきていると聞いた。


「シャーリー様、この薬草はこれで足りますか?」

 見るに見かねたアランとエレノアが薬つくりの合間に試験で使う薬草の準備を手伝ってくれていた。

「足りないです。定員は五十人ですからその倍の人数分を用意してください」

「その倍って百人ですか?」

 アランが唖然としている。

「昨日の時点で応募が二百人を超えたと連絡が入っています。筆記試験でどれだけ残るか分かりませんが、一応」

「僕たちの時もかなり多かったと思ったのですが、それ以上ですね」

「この国、初の大学ですから。それも王弟のグラベル様が作られた大学ということで関心が大きいようです」

「う~ん。確かに魅力的ではあるけど、そんなに簡単なものでもないのにね」

「魅力的?」

 エレノアが首を傾けている。

「皇族のグラベル様と顔を合わせる機会があるかもしれない。それに陛下にもお近づきになれるかもしれないと、野心を持ったものなら考えるだろ」

「あ~。そちらですか」

「なんだと思った?」

「薬剤師として商売がしたいのかと」

「そういう人もいる。しかし、みんながそうだとは限らないよ。そこはしっかりと見ていかないと」

「どう見分ければいいのか見当もつきません」

 エレノアが言うとアランも同じ気持ちだったのか腕を組んで考え込んでしまった。


「ただいま戻りました」

 マースとアンヌが籠に入った薬草を抱えて薬室に入ってきた。

「おかえりなさいって、どうしたのですか?」

 エレノアが振り返ると青ざめて疲れ切った表情の二人が立っていた。

「これトルン領で農民が自分たち用に作っていた薬草を分けてもらってきた。カルロ様がローレンス様とシャーリー様に見てもらうようにって」

 マースがやっとのことで籠をテーブルに置き、傍の椅子に座る。アンヌも力尽きたのかテーブルに手を添えながら椅子に座った。

 エレノアが慌てて薬草茶を二人に出している。

「カルロ様は?」

 シャーリーはカルロの姿が見えないことに疑問を感じた。

「トルンの薬草畑の責任者の方いましたよね」

 アンヌがシャーリーに問いかける。

「はい。五人ほどでしたか。その方がどうしたのですか?」

「ふっ、あの人たちダメだってカルロ様が怒って」

 アンヌの言葉を引き継いでマースが話し始めた。

「カルロ様が怒った?」

「責任者の三人かな、それが全然だめで、農民たちを怒鳴り散らすだけで、指導どころかこちらが要求する内容と違ったものを農民たちに伝えていた。それも、間違っていると思っていない」

「思っていない?」

 それまで会話を聞いていたアランが聞いていた。

「自分の考えが正しいと思い込んでいる。なんどカルロ様が伝えても聞こうとしなかった」

「それで、カルロ様は今、どこへ?」

 シャーリーはカルロのことが気になった。

「カルロ様はこのままではいけないと仰って、資料をとりに大学に戻りました。すぐこちらに来られるはずです。私たちは先にこのことと、薬草をローレンス様とシャーリー様に見せるようにと言われて先に帰ってきました」

 アンヌは少し元気が出たのか、顔色に赤みが差してきた。

「カルロが怒っていたんだね」

 ローレンスがマースとアンヌに確認をしている。

「はい」

「分かった。その件はカルロが帰ってきてから話すことにする。二人はトルンの状況の報告書の作成を始めておいて。陛下からは逐一報告を挙げるように言われている。二人が作成したものをカルロに確認してもらってから、陛下に報告に行くから」

 マースとアンヌは持ってきた籠を手に自分たち専用の机がある部屋に行く。

「カルロ様はこの状況をどうされるのですか?」

 エレノアがシャーリーに聞いてきた。

「昔、ホルック領で薬草畑を任せる人の試験をしたことがありました。その時、カルロ様は薬草を大切に扱う人を選んでいましたよ」

 シャーリーがその昔、カルロがやっていたことを思い出した。多分、今回もその方法をとるのだろう。

「責任者と言う立場はそれだけで偉いわけではない。そこを履き違えると下の者が苦労する。それではいい薬草は作れないよ」

 ローレンスがエレノアに伝える。

「そうですね」

 エレノアがいうとアランも頷く。


〇〇〇

「シャーリー、この日程で試験をすることにした」

 ローレンスが部屋からでてきて書類を見せてくれた。

 試験会場は大学、筆記試験は予定通り二週間後。午前と午後に分かれて二日行われる。計四回、試験問題は不正があってはいけないのですべて別の問題を作成する。

 実技はその一週間後になっていた。こちらも試験会場は大学で、泊まり込みの試験となる。

「リズバルク伯爵から言われた日程通りですね」

 エレノアとアランが覗き込んできた。

「追加の薬草を急いで作ります」

 アランが薬室を飛び出していった。その後を追いかけるようにエレノアも薬室を出て行った。

「シャーリーは大学にいるカルロに連絡をしておいてくれ、僕はこのことを陛下に報告してくるよ」

「分かりました」

 シャーリーは急いでカルロに手紙を書いた。

 カルロはトルンの責任者たちを解雇して新たに別の人を責任者につけた。薬草畑に必要な知識も一から教え込むと言って大学に籠って準備している。アンヌとマースは試験準備のため大学に泊まり込み準備を始めていた。

 リズバルク伯爵とグラベルはまだ帰ってきていないが、試験までには帰ると言っていたのを信じて待つ。

上手くいっているはずだ。そう信じて。

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