表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/93

薬室長ローレンス

 薬室に戻ったローレンスとシャーリーは薬室長から言われて薬室長たちが調べてきたトルンの領地のことをもう一度、読み返していた。


「シャーリーとアンヌが今日見てきた領地と違っている個所をひとつ残らず書き出しておいて」


 薬室長はそれを言うと急いで手紙を書いていた。エレノアは薬室長から言われた薬を作っている。そこへリズバルク伯爵とアンヌが戻ってきた。


「薬室長、トルンのことで問題が起きたとか」

「そうです。トルンはベスキドと繋がっているらしいのです。今、シャーリーとローレンスに以前と違う個所を調べてもらっていますが、私とローレンスが調べていた時は確かにモージェルとの繋がりの痕跡がありました。これはどういうことでしょうか」


 薬室長たちが調べていた時はモージェル製の農機具などがいくつかあったという。その為トルンはモージェルと何らかの交易をしているのだと考えられていた。

しかし、シャーリーたちが調べてきた内容はモージェルではなくベスキドとの繋がりが見えた。


「モージェルはベスキドの属国になったのです。表向きは一つの独立した国として成り立っているように見せかけていますが」

「属国になった?」


 薬室長が怪訝そうにリズバルク伯爵を見た。


「リズバルク伯爵、私から説明しよう」


 グラベルがハンスとケリーと一緒に戻ってきた。


「モージェルの王妃がベスキドに人質に取られている。周囲の反応を窺っているため正式に属国と宣言していないだけで、モージェルはベスキドの言いなりだ。トルンがどちらと繋がっていようが背後にベスキドがいることは間違いない」


 シャーリーは調べていた資料から顔をあげてローレンスを見た。


(大丈夫)


 ローレンスは声を出さないでシャーリーに伝えてきた。グラベルはシャーリーとローレンスの手元を見る。


「今、二人には私たちが調べてきた時と今日の状況との違いを見つけてもらっています」

「シャーリー、ローレンスどんな小さなことも見逃さない様に拾い出してほしい」


 薬室長がシャーリーとローレンスのことを伝えるとグラベルも二人の情報を欲しいようだった。シャーリーは手元の資料に目を落とす。ここに何かが隠されているのだろうか。

アンヌがシャーリーの隣に座り積まれた資料の一つに手を伸ばす。


「私も手伝います」

「何かあるはずだよ。僕たちが視察に行った時に見てきた内容とさっきシャーリーたちの報告書を呼んだ時違和感を覚えたんだ。きっと何かある」


 ローレンスの言葉にシャーリーとアンヌは力強く頷く。

 シャーリーも馬車の中で自分の見てきた内容とローレンスたちの報告書に何か引っかかるものがあった。


「リズバルク伯爵、ハンスとケリーに今夜からトルンの監視を任せようと思います」

「騎士団には私から連絡を入れておくから連れて行くといい」


 リズバルク伯爵はハンスとケリーに言うと二人はすぐに薬室を出て行った。


「グラベル様、マーシア諸侯に早馬を出します。それと砦の兵士を増員させましょう。私は陛下の報告に行ってきます」

「リズバルク伯爵、私も一緒に」


 グラベルとリズバルク伯爵が薬室を出ていく。急に慌ただしくなったと思ったらまた静けさが戻ってきた。シャーリーたちの書類をめくる音とエレノアが薬を作る音だけが薬室を占める。


「薬室長、薬が出来ましたがどうすれば……」

「その薬とこの手紙をナイジェル医師に届けて」

「分かりました」


 エレノアは不思議そうに薬室長から手紙を受け取ると薬と手紙を籠に入れていく。


「ナイジェル医師に暗号よ。あそこの騎士団に王宮の警護の強化をしてもらうためのね」


 エレノアが薬室長から頼まれた薬と薬室長が先ほど書いていた手紙がセットになると暗号になるらしい。これは王宮内で何かあったときに外へ連絡する手段として使われているものだと薬室長は教えてくれた。


「エレノアはしばらく王城から出ない様に。もちろん、シャーリーとアンヌも同じよ」

「ローレンス、これからのことはローレンスに決めてもらうからしっかりと考えなさい。何かあれば手助けするから」

「ローレンス様が決められるのですか」

 アンヌが聞き返す。


「次の薬室長はローレンスよ。今回はその練習と言ったところかしら」

 薬室長は呑気に言っているがローレンスは顔が強張っていた。


「ローレンス様、大丈夫です。私たちもいますから」


 シャーリーはローレンスにだけ聞こえるように言うとローレンスは何度も小さく頷いていた。緊張しているのか。こんなローレンスは見たことがなくて驚いた。


 エレノアは薬と手紙を入れた籠を持って薬室を出て詰め所にいる兵士に籠を渡しに行った。

薬室長はサイモン医師のところへ行くと薬室を出て行った。


「ローレンス様、そういえば薬草畑の候補地の傍に真新しい建物があったのですが、ローレンス様が行かれた時もありましたか?」

「えっ。 どこの薬草畑?」


 ローレンスが視線を上にしながら唸っていた。


「この辺りです」


 シャーリーは地図を見せながらクフ川の傍を指さした。


「僕たちが視察に訪れたのは三ヶ月前だけど、その時は確か建物はなかったな。クフ川の傍は丈の大きい草が生い茂っていて川の周辺は何も見えなかったから」

「クフ川周辺すべてですか?」


 トルンの領地に東西に流れるクフ川周辺がすべて草で覆われていたとしたら、川を使って領地へ入り込むときに人目を避けることも出来る。

 シャーリーは新しい地図を持ってきてテーブルに広げた。


「ローレンス様たちはどの場所を視察されたのですか?」


 シャーリーはペンをローレンスに渡し書いてもらう。

 アンヌも傍でローレンスが書き込んでいく場所を凝視した。


「シャーリー様、これは!」


 ローレンスが書き込んだ場所とは違うところをシャーリーたちは案内されていた。

 シャーリーたちが馬車に乗って領主に案内されたのはクフ川の西側でローレンスたちが視察したのは東側だった。


「トルンの隣の領地はどこでしたか?」

 シャーリーははっきりと思い出せなかった。

「トルンの北側は私の家の領地です」

 兵士にナイジェル医師への荷物を渡して帰ってきたエレノアが言う。


「エレノア様のご自宅ですか!」

 シャーリー思ってもみなかった言葉に動揺した。

「何かあったのですか」

「エレノア様のご実家の領地にはクフ川は流れていますか?」

 シャーリーは疑問に感じたことを聞く。

「領地の端ですが流れています」


「そのクフ川の周辺は現在、どうなっているか分かりますか?」

「クフ川の周辺ね……」

 エレノアは目を瞑り必死に思い出しているようだ。アンヌとローレンスはもう一度地図を見ていた。

 クフ川はモージェルからこの国の中を通り抜け、更に隣の国を通って海にでる。もしクフ川を使ってモージェルからトルンへ何かを運ぶとしたらトルン以外の領地で見つかる可能性もある。そんな危険を冒すだろうか。


「あの辺りは小高い丘があって、その周辺は湖になっているからあまり人は立ち寄らないけど。年に何回かは水鳥の捕獲をするために村人たちが船を出して立ち入ることはあります」

「いつ?」

 アンヌが真剣な眼差しでエレノアに詰め寄る。

「えっと、確か、もうすぐだと思います。渡り鳥なので夏前には飛び立ってしまうのでその前に捕獲すると聞いたことがあります」


 エレノアがアンヌの勢いに押されながら答えていた。

「ローレンス様、このこと使えるかもしれません」

「そうだね、グラベルが帰ってきたら相談してみよう」

「えっ? 何があったのですか?」

 エレノアはわけが分からなく驚いていた。


 その後、グラベルたちが戻ってきて、エレノアはグラベルと一緒に実家に戻り、クフ川の周辺の捜査をすることになった。

 ローレンスとシャーリー、アンヌが薬室に残りトルンの領主に今後のことを説明すると言う理由で薬室に呼び出す。


「うまくいくでしょうか」

 アンヌが心配そうに言う。

「私たちはあくまでも足止めです。クフ川を行き来している船が目撃されています。そこをグラベル様たちか、ハンスとケリーが捕まえられればトルンが何処と繋がっているのかはっきりするでしょうから」

「何かあれば私も加勢するから心配しなくていい」

 傍で聞いていたリズバルク伯爵が笑みを浮かべる。

 シャーリーたちはその顔を見て安心して門でトルン領主を出迎えるため待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ