それぞれの薬草園 後編
グラベルが手をまわしたのもあるが、薬室の管理官でもあるリズバルク伯爵もことが大きくなる前に抑え込みたいと考えていたようで翌日には話ができていてシャーリーたちはグラベルたちと話をした二日後にはトルンへ行く馬車の中にいた。
「では、シャーリー様と私は領主と薬草畑の候補地を巡って何かを見つければいいのですね」
アンヌがハンスに確認をしている。
「調べていただきたいことはどんな農民がいるかということです。家族構成や人数、あと責任者を何人か選定しているようですのでその者の容姿や特徴なども調べていただけると助かります」
「責任者の容姿や特徴が何に役立つのかしら」
アンヌは理由が分からないと不思議そうな顔をしている。ハンスは伝えていいのか迷ってシャーリーを見る。
「アンヌ様でしたら大丈夫です。伝えてください」
シャーリーはハンスを促す。
ハンスは一呼吸置いてからアンヌに説明をした。
「では、その責任者が怪しいと言うことね。それはアラン様が言っていたように薬草の育て方などの情報も渡そうと考えているのよね」
「考えられることです」
「分かったわ。それは許されることではないもの。しっかり調べてくるわ」
〇〇〇
トルン領主の館につくと領主が出迎えてくれた。
「シャーリー様、アンヌ様。ようこそトルンへ。さあ、どうぞこちらへ」
目の前に現れた領主は色黒でそれほど背も高くないがかなり太っていてどっしりとした印象を与える人物だった。しかし、視線はどこかせわしなく動き、こちらの様子を探っているようにも見えた。
「突然、申し訳ございません。薬室管理官のリズバルク伯爵からもお聞きになられているかと思いますが、薬草畑の準備をするための最終調査にまいりました」
シャーリーが代表して挨拶をする。
シャーリーの挨拶に気をよくした領主は早速、薬草畑の候補地へと案内しようと別の馬車を用意させていた。
今回の訪問はあくまでも薬草畑の準備のための調査だ。それは領主を油断させるために用意された内容で、薬草畑をこのトルンで作るとはまだ決まっていない。
「領主殿、私達は屋敷周辺の調査をしたいのですがよろしいですか」
ハンスが了解をとろうと告げた言葉に領主は一瞬顔を強張らせた。
「何を調べるのですか」
「収穫した薬草を保管する場所や搬出する場所を決めたいと思います。必要であれば倉庫などの建設も手配したいのでそれを調べさせていただけますか。もちろん、必要な建物などの建設費は王宮から出ますのでご心配なく」
ハンスも薬草畑を作る前提で話を進めるとさらに気をよくした領主は顔をほころばせた。
「そうでしたか、それならどうぞお調べください」
領主はシャーリーとアンヌを連れて、薬草畑の候補地を回り、その間ハンスとケリーは屋敷周辺の調査をすることになった。
シャーリーとアンヌに護衛が数人付いてきていたがその者たちにもハンスとケリーから様子を探るように伝えていたので、シャーリーとアンヌは主に薬草畑の責任者候補たちに詳しい話を聞きながら周辺の調査をしていく。
「領主様、あの建物な何ですか?」
薬草畑の予定地にはいくつかの建物があり、明らかに以前からある物ではなくここ最近建てられたものだと分かる。
「あそこは収穫した作物を保管するための倉庫です」
「拝見させていただいてもいいですか」
「どうぞ」
領主に案内され建物の一つへと近づいていく。思ったより大きい。中に入ると倉庫を兼ねた住居と言っていいくらいだ。
「こちらにどなたか住まれているのですか?」
アンヌが領主の気を引いている間にシャーリーは建物の中を確認する。いくつかの小部屋に分かれていてその一番奥の扉を開けると外へ出ることが出来た。建物の陰に隠れていて分からなかったが、目の前には川が流れていて、川の端には船が止められていた。
シャーリーはそっと扉を閉めて、別の小部屋を調べるふりをした。
先程の船に乗っていた布は見たことがある柄だった。かなり以前、シャーリーが次期当主として必要な知識を得るために勉強していた時だ。だがそれが何なのか思い出せなかった。
最近、薬草畑のことばかり考えているのでそれ以外の情報を目にする機会が減っていた。シャーリーは王宮に帰ってから調べようと手帳の隅に先ほど見た柄を書き込んだ。
アンヌと領主の元へ戻るとアンヌは領主と話し込んでいた。
「シャーリー様、どうでしたか」
アンヌが聞いてくる。
「とてもいいです。小部屋がいくつかあって、棚を設置すれば貯蔵庫にも活用できます」
「素敵ね。ここは竈もあるから薬も作れるといま話していたところよ」
アンヌが壁側に設置された大きな竈を見ながら言う。シャーリーもその竈をみて頷いた。
「ここで薬草を作って、そのまま薬つくりまで出来ますね。フォアボルド領とリンゲル領でやっていることがすぐに出来ます」
「早速帰って、どの薬草から育てるのか決めないといけませんよね」
アンヌは何か掴んだようだ。
シャーリーとアンヌはそのまますべての候補地を見て回り屋敷に戻った。
「それでは、薬室へ戻り今日のことを報告します」
来た時と同様シャーリーが帰り際の挨拶をする。
「グラベル様とリズバルク伯爵にもよろしくお伝えください」
ハンスとケリーが調べた内容を聞き領主は薬草畑の候補地に決まったつもりでいるようだ。
ハンスは建物周辺を、ケリーは建物の外を念入りに調べて運搬経路を調べ上げていた。というより忍び込む算段を考えていたようだ。
帰りの馬車の中でどこからなら人目につかないで屋敷に入り込めるかと話していた。
「領主の屋敷に忍び込むのですか?」
アンヌは目を丸くしながら聞く。
「私たちが忍び込むのではなく、領主のお友達がどこから入るのかを調べていたのですよ」
ハンスは少し丁寧に説明する。
「そういうことね」
アンヌも理由が分かって破顔する。
「私も領主様から聞き出したわ。領主様はベスキドのことをやたらと詳しかった。きっと何かあるのよ」
アンヌは自分も目的を果たしたと得意げに話す。
「あっ。ベスキド!」
船にあった布はベスキドの国旗の一部だ。
「ベスキドがどうかしたの?」
アンヌはシャーリーの顔を覗き込んだ。
ベスキドはモージェルよりさらに西に行った大国で強大な軍事力を誇っている。あの領主はベスキドと繋がっているのだろうか。もしベスキドと戦いにでもなったらこの国、ベルファルトに勝ち目はない。
「シャーリー様、どうかされたのですか」
ケリーが心配そうに聞いてきた。
「薬草畑に傍に建物がありましたよね。その裏手はクフ川で、そこに船が繋がれていたの。その船の中にベスキドの国旗があった」
「ええ!」
「それは本当ですか」
ハンスは身を乗り出して聞いてくる。
「間違いないわ、黄色地に獅子の柄でしょう」
シャーリーはベスキドの国旗の特徴を言う。
「そうです」
ハンスは馬車の中で座りなおした。
「もし、領主が本当にベスキドと繋がっていたらかなり拙いです」
ハンスは独り言のように言っている。そのそばでケリーは御者に急ぐように告げていた。
「急いでグラベル様に報告しなければ」
ハンスが呟く。その言葉の重みを感じてシャーリーは怖くなった。




