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薬室長と薬剤師たち

 シャーリーがグラベルの事務室に来て、これからのことを説明した。


 試験は公平を期する為薬室長から出題される。

試験までの二週間の準備期間として与えられ、その間に試験範囲の勉強をする。

 グラベルはその講師をするよう薬室長に言われている。

 準備期間が終わった後、薬室長から出題される筆記試験を受け、それが合格点に達していれば、実技試験へと続く。

 筆記試験は主に薬剤師の試験内容から出題されること。実技試験は数種類の薬草から一つ選び、その薬草の下準備を一人でする。実技試験は約二週間を想定している。


「どうする?」

 一通り説明を終えた後、再度確認をする。

「大丈夫です。やります」

 シャーリーは、はっきりと答える。


「試験が終わるまで、自宅に帰っていては時間がもったいないだろ。暫くここに住んでもいいがどうする?」

「他の薬剤師様はどうされているのでしょうか」

「薬室長は責任者だから王宮内に部屋を与えられている。他の薬剤師はこのあと紹介するが二人とも王宮に勤める者が住んでいる寮があってそこに部屋を持っている。私は王宮の一画に部屋を持っているが、シャーリー殿はそこに住むのがいいだろ」

「グラベル様と同じ部屋ですか?」

「部屋は別だ。王宮の南西に位置する一画を私の自由にしていいと陛下からお許しを頂いているので、そこの部屋で寝泊りしている。部屋は幾つかあって、私の側近たちもそこに部屋を持っている。余っている部屋はあるから使うといい」

 シャーリーは少し悩んでいるようだ。

「誤解されませんか?」

「それは大丈夫だ。私の侍女もそこに部屋を持っている」

 陛下は誤解するかもしれないなと密かに思う。

「小さいが図書室もある。私が集めた薬草や薬に関する書物だ。もし良ければそれも読むといい。勉強の参考になるだろうから」

「いいのですか?」

「その為にはそこに住んだほうがいいと思ったがどうだ」

「よろしくお願いします」

 シャーリーはやっと納得した。


「では、薬室長に挨拶しよう」

 グラベルは席を立ち部屋を出る。薬室を囲むようそれぞれの部屋があり、一番大きな部屋を薬室長の事務室だ。

 ドアをノックすると中から声が聞こえた。

 グラベルはドアを開けて部屋に入る。その後ろからシャーリーも入ってきた。それを確認して薬室長の側まで行く。

「薬室長、先日お話ししていたシャーリー殿です」

「グラベルのところに押しかけてきた子ね」

 茶色のウェーブの髪が揺れている。笑いを堪えているようだ。

 シャーリーは薬室長の言葉に自分のした事を自覚した様子で顔を赤らめた。

「アンリエットです。ここで薬室長をしています」

 薬室長はシャーリーに試験内容を簡単に説明して、試験範囲となる本を数冊シャーリーに渡す。

「筆記試験はこの中から出題します。しっかり覚えるように。グラベル、頼みましたよ」

「はい」

 シャーリーとグラベルが同時に返信をした。


 その後、シャーリーとグラベルにそれぞれ紙を渡すと、その中から数種類の薬草を準備すると言われた。実技試験の内容だ。その紙には約五十種類程の薬草の、名前が書かれている。グラベルは結構ハードだと感じた。

 筆記試験の日程を告げられ、グラベルとシャーリーは一旦、グラベルの事務室に戻る。


「筆記試験は何とかなりそうですね」

 グラベルはシャーリーの手元の本を見て言う。それは既にシャーリーが読み終えているものばかりだ。シャーリーもそれが分かっているようで、薬草が書かれている紙を真剣に見ていた。

「薬草の下準備はした事はないですよね」

 ここに来てからもそこまで教えていなかった。

「本を読んだくらいです」

「それなら、準備期間は実技試験の内容を重点的に練習しよう」

「はい。よろしくお願いします」


 同僚二人は部屋に居なかったので薬草畑にでもいるのだろう。挨拶はまた今度でもいいかとグラベルは思った。

「取り敢えず、家に帰って荷物を取りに行きましょう」

「はい」


 薬室を出て、グラベルが使っている部屋へ向かう。

「一階にこの前会ったアーリシュとヨハンの部屋がある。二階南側一番奥の部屋を私が使っていて、反対の奥二つは侍女たちが使っている。その間の部屋は空いているので好きなところを選んでいい」

 シャーリーに選ばせるとグラベルの部屋の一つ間を空けた部屋を使うことになった。その後、シャーリーの家に着替えなどを取りに行き、新しい部屋に運んだ。

 グラベルとシャーリーが荷物を取りに行っている間に部屋の掃除やベッドなど必要な物を侍女たちが用意してくれていた為思っていたより早く終わった。


「同僚たちも、戻っているころだから、挨拶に行こう」

 遅めの昼食を摂った後、再度薬室に戻る。

 同僚二人は薬室のボードの前で話し込んでいた。

「ローレンス、カルロ。この間話していたシャーリー殿だ」

 グラベルはシャーリーにローレンスとカルロを紹介した。

「試験受けるって? 大変だと思うけど、頑張ってね」

「凄く勉強しているって聞いたよ。きっと大丈夫だよ」

 少し緊張気味だったシャーリーだが、二人からかけられた言葉で安心したのか今日初めて笑顔が出る。


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