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オルガとゾルタ

 アンヌには先にアーリッシュのところへ行ってもらい、シャーリーは部屋にいったん戻りグラベルたちが待つ馬車へと行った。


「シャーリー様、どうされたのですか」

「これをとってきました」


 アンヌが不思議そうに聞くのでシャーリーは剣を見せた。アンヌの視線はシャーリーの顔と剣を何度も往復している。

 グラベルとアーリッシュも着替えを済ませて動きやすい服装をしている。

四人が乗り込むと馬車はすぐに動き出した。かなり急がせているのだろう。馬車は激しく揺れていた。


「シャーリー様、最近稽古はされていないのでは?」

 アーリッシュが心配そうに聞いてくる。


「冬風邪が流行る前はハンスとケリーを相手に練習はしていたので腕は鈍っていないはずです」

「分かりました。それだけ聞ければ安心です。グラベル様、無理はされないように」

 アーリッシュに言われて少しムッとした顔をしたグラベル。それを見てアンヌは首を傾げた。

「アンヌ様もくれぐれも無理はしないように、シャーリー様か私のそばに絶対にいてくださいね」

 アーリッシュはアンヌにも注意をしている。その迫力にアンヌは首を何度も縦に振った。


 何度か馬車を乗り継ぎルブリン領に入ったのは二日後だった。通常では一週間ほどかかる距離を昼夜問わず馬車をとばした結果だ。グラベルとアーリッシュの焦りが手に取るようにわかる。

 シャーリーとアンヌは出来るだけ体力を消耗しないようにと馬車の中で眠るように言われたが落ち着かなくてよく眠れたのか分からない。ただ言えるのはオルガとゾルタにこれ以上の罪を犯してほしくないということだ。そんなことをしても悲しむ者が増えるだけだ。


 ルブリン領の領主であるクオタバ子爵に挨拶をするため屋敷を訪れたシャーリーたちはそこでリズバルク伯爵と会った。


「グラベル様、シャーリー殿、アンヌ殿もどうかされたのか?」

「リズバルク伯爵、説明は後で。先にクオタバ子爵と話をしたいのだが」

 グラベルがそういうとクオタバ子爵邸の侍従が子爵へ取り次いでくれグラベルは奥の部屋へと歩いていく。

 リズバルク伯爵とシャーリーたちは別の部屋に案内された。グラベルとアーリッシュがクオタバ子爵に話をする間にシャーリーはリズバルク伯爵に説明しておくようにグラベルに言われた。


「やはり、ソフィーの侍女はあのオルガでしたか」

 リズバルク伯爵は予感していたのかもしれない。陛下が即位するまでリズバルク伯爵は先王の側近として仕えていたのだ、オルガのことを知っていてもおかしくない。


「陛下からオルガとゾルタを助けてほしいと言われています」

「ルーカスと陛下に刃を向けたのはゾルタだ。それでも一部の者しか見ていないし、陛下が箝口令をしいたのでこの話は漏れていない。これ以上の罪を犯さなければ、陛下の判断で何とか出来るかもしれないが、もし何かしたらそれは隠し通せるものでもない」

「この領地のどこかにいると思われます。急いで探さないと」

「リンゲル領からの逃げ出したのは確かだが、その途中で行方が分からなくなっている。ベルク諸侯と騎士団がその行方をさがしているはずだが、出来ればその前に見つけたい」


 ベルク諸侯たちは陛下に刃を向けた者たちを探している。そのベルク諸侯たちに見つかるのは拙いのだろう。この領地にいるかもしれないというだけで、どこにいるのか見当もついていない。だが、何としても見つけなければいけない。それとも、二人はまだ陛下を襲うつもりでいるのだろうか。シャーリーはなんとなくアンヌを見るとリズバルク伯爵をじっと見ていた。そのリズバルク伯爵は近くにいた騎士に何か告げている。


「リズバルク伯爵、クオタバ子爵の許可はいただけた。すぐにここを出たい」

「グラベル様 大丈夫ですか」

 シャーリーは領地で何かあれば領主の責任になる。その場合、どうなるのか心配していた。

「私たちはルブリン領の薬草畑の視察に来た。それ以外で何かあってもクオタバ子爵は何も知らない」

 シャーリーはここにいるメンバーを見た。みな薬草畑に関係している。視察という名目は十分に当てはまる。シャーリーとアンヌは大きく頷く。


「グラベル様、心当たりがあります。まずはそこへ行きましょう」

 リズバルク伯爵が先を急ぐ、リズバルク伯爵とアーリッシュが馬で先導しグラベルたちは馬車で目的の場所まで行く。

 リズバルク伯爵に案内された場所はルブリン領の端にある農村だった。

数件の家が立ち並び、それから少し離れたところに大きめの屋敷があった。リズバルク伯爵は馬を降り迷わずそこへ歩き出す。

 グラベルたちも馬車から降りてリズバルク伯爵に続く。


「リズバルク伯、ここは?」

 グラベルが先を歩くリズバルク伯爵に聞く。

「オルガの母親の実家です。爵位をはく奪され領地も取られたオルガの両親はここに帰ってきていました。両親は心労がたたって一年もたたないうちに亡くなったと聞いています」

 門で来訪を告げると奥から初老男性が出てきた。

 リズバルク伯爵はその男性にオルガとゾルタのことを聞いていたが、数日前に一度帰ってきたがすぐに出て行ったらしい。


「ここにはいないようですね。次、行きましょう」

 リズバルク伯爵が次に向かったのはその屋敷の隣の林の中を少し歩いた先にオルガたちの両親の墓があるという。

 リズバルク伯爵を先頭にグラベル、シャーリーとアンヌ、その後ろのアーリッシュがついて行くが、更に離れてリズバルク伯爵が連れてきた騎士団たちがひっそりと付いてきているのが見える。

 シャーリーはそっと後ろを確認して距離を測る。

「アンヌ様、絶対に私から離れないでくださいね」

 シャーリーはまっすぐリズバルク伯爵を見ながらアンヌに話しかける。

 アンヌも何かを察したようで小さく「分かったわ」と言って大きく息を吸っていた。

 林を抜けると小高い丘にでた。そこにはいくつかの墓が立っていてその一つに枯れかけた花が添えられていた。リズバルク伯爵は迷わずそこへ行く。


「ここがオルガたちの両親の墓です」

「リズバルク伯爵はここを知っていたのか」

 グラベルがリズバルク伯爵に聞いていた。

 その間、シャーリーとアーリッシュは周囲を見渡す。

「オルガたちの両親が亡くなったときに一度来たことがありました」

 グラベルとリズバルク伯爵の話は続いている。アンヌも不安そうに周囲に視線を動かしていた。

「シャーリー様、いますね」

 アーリッシュが囁くようにシャーリーに言う。シャーリーもそれに答えるように話す。

「はい。ですが、一人しかわかりません」

「おかしいですね。二人一緒だと思ったのですが」

「アンヌ様、グラベル様のそばにいてください」

 シャーリーはそういうと剣に手をかけた。

 アンヌがグラベルのそばに歩き出したとき、黒い服を着た人影が動いた。

 シャーリーとアーリッシュの視界の先から現れたのは若い男だ。手には剣が握られている。

 アーリッシュが男の手にある剣を叩くように打つ。続けてシャーリーも剣を叩くと男の手から剣が落ちた。

 後ろの隠れていた騎士団たちが走ってくる。その時、視界の端を動くものが見えてシャーリーは振り返る。

 グラベルへと向かうのが若い女だと分かった。リズバルク伯爵がグラベルの前にでる。その横でアンヌもグラベルを庇うように両手を広げて立っていた。

 シャーリーは急いでリズバルク伯爵の隣に立つ。

「アンヌ様、後ろへ」

 リズバルク伯爵は剣を抜くことはしないで立っている。シャーリーは剣を構える。

「もう、止めないか。ご両親も悲しむ」

 リズバルク伯爵の言葉に若い女は小刀を手に涙を流している。

「両親は何もしていない」

「知っている」

 リズバルク伯爵の声が静かに響く。

 女はオルガだろう。手が震えていた。シャーリーは自分の剣を鞘に納めオルガのそばまで行き手にしている小刀をとる。

 アーリッシュが近づいてその小刀をシャーリーから受け取る。その間にアンヌがオルガのそばまで来て手を握っていた。

「帰りましょう。あなたを待っている人がいます」

 シャーリーはオルガに語り掛けた。

 オルガはシャーリーを見ていたがその瞳はどこか遠くを見ているようにも見えた。


 クオタバ子爵の屋敷に戻りグラベルが挨拶をしている間、シャーリーとアンヌは温室を見せてもらっていた。

 オルガとゾルタは逃亡の恐れはないが、馬車の中で待っていて、リズバルク伯爵が連れてきた兵士たちが見張っている。


「この薬草は見たことがないですね」

「これはどんな薬効があるのですか?」

 シャーリーとアンヌが温室にある薬草をあまりにも必死に見ていたので管理しているという老人からノートを渡された。

 そのノートに二人で質問して聞いた話をしっかりと書き込んでいた。


「リズバルク伯爵、あなたは狡いな」

 声がして振り返るとグラベルとリズバルク伯爵、もう一人身なりの良い男性が立っていた。多分、クオタバ子爵だろうか。

 シャーリーとアンヌが頭を下げる。

「狡いとはどういうことですか」

 リズバルク伯爵はよくわからないと言った顔をしている。その横でグラベルが苦笑いをしていた。


「シャーリー殿ですか。初めまして。そちらはロイザック伯爵家のアンヌ殿でしょうか」

「初めまして、クオタバ子爵様」

 シャーリーとアンヌが挨拶をするとまたしても狡いと言った。

「リズバルク伯爵殿、あなたは王宮の薬剤師、二人もお抱えになっている。酷いではないですか。シャーリー殿、今度は私の領地の薬草畑にもご指導いただけますか」

 シャーリーとアンヌがリズバルク伯爵を見ると珍しく照れていた。

「アンヌ殿は私の婚約者ではありませんよ。クオタバ子爵、誤解のないように」

「そうですか」

 クオタバ子爵はリズバルク伯爵を横目で見て笑っている。

「それよりも、この間お話したことは考えてもらえただろうか」

 リズバルク伯爵は真剣な眼差しでクオタバ子爵を見た。

 グラベルが息を飲むのが分かった。

 シャーリーは何か理解した。マーガレット王女のことだ。

 どうするのだろうとクオタバ子爵を見ていると口元から笑みがこぼれた。


「シャーリー殿、アンヌ殿、春になったら薬草畑を見ていただけないでしょうか。それで手を打ちましょう」

 シャーリーとアンヌは話が見えなかった。

「クオタバ子爵、それは賛成と受け取っていいですか」

 グラベルが確認している。シャーリーはそういうことかと納得する。

「元から、反対したいわけではありませんよ。リズバルク伯爵は二人も薬剤師を抱えて少し対抗意識を持っていただけですから」

「クオタバ子爵様、春になったらまた来ます。その時、薬草畑を見せていただけますか?」

 アンヌが答えている。シャーリーも隣で頷く。

「馬車の中のものはどうなるのですか?」

 帰ろうと馬車に向かう途中、クオタバ子爵が聞いてきた。一瞬、緊張が走る。中に乗っているのが誰か知っているのだ。

「それは……」

グラベルが答えに困っているとクオタバ子爵が遠い親戚だと言った。

「陛下 が決めることなので私の口からは答えられないが善処出来るように私からも働きかけるつもりです」

「お願いします」

 丁寧に頭を下げられた。

 陛下はきっと悪いようにはしないはずだ。

 シャーリーたちはその後、リズバルク伯爵の屋敷で一泊してから王都へ戻った。

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