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残党 前編

 やはり、二年目といってもフォアボルドとリンゲルに二人ずつ派遣していて、去年手伝いに来てくれたグラベルは陛下の代理を務めているので、薬室を手伝うだけの余裕はない。それでいて去年と同じ王都の薬を作るとなると大変だった。


「五人いないことになるからな」


 アランは遠くを眺めながら手元は結晶化した薬をひたすら砕いている。


「少ないです」


 マースも呟きながらこちらは火にかけた鍋をかき混ぜている。時々中身を確認しているので失敗することはないが、目は虚ろだ。

 限界が近いのだろうか。休ませたほうがいいのは分かっているが、薬つくりが間に合っていない。

残った薬剤師とハンスとケリー、ローレンス、薬室長まで出てきて薬つくりをしている。

 ハンスとケリーはもともとシャーリーの護衛にとグラベルおいてくれてのだが、二人とも薬剤師見習いたちに交じって勉強してついには薬剤師の試験まで受かってしまった。

 二人とも騎士だ。いずれ騎士団に戻るはずなのだ。大丈夫かと聞いたら、騎士団でも薬に詳しいと役に立つからと笑っていた。

 確かに他の領地に行くときも兵士たちが護衛についてきてくれる。そんな時ハンスとケリーがいると話が簡単に通り、動きやすいのは確かで二人とも楽しんで薬を作っている。ハンスとケリーは力があるということで固まって結晶化した薬を砕いて粉になったものをシャーリーとアンヌで出来た薬を袋に詰め、籠に入れて兵士たちに持たせる。


「シャーリー」


 薬を乗せた場所を見送り、薬室に戻ろうとしたとき誰かに呼ばれた。振り返るとリズバルク伯爵が血まみれの人を抱えて立っていた。


「リズバルク伯爵、どうされたのですか?」


 シャーリーとアンヌが近づく。


「アンヌ、誰にも知られないようにサイモン医師をシャーリーの部屋まで連れてきてほしい」


 険しい表情のリズバルク伯爵の腕の中の血まみれになっていたのはルーカスだった。後ろを見ると、陛下の侍従のギルバートが陛下を抱えて歩いてくる。二人も怪我をしているようで、陛下は腕を抑えていた。ルーカスは気を失っているようでぐったりしていた。

 アンヌは両手で口元を覆い、声を出さない様にしていたが、すぐに向きを変えて医局へ走っていった。


「シャーリー、すまない。誰にも知られたくないのだ」

「こちらへ」


 シャーリーは小さく頷き出来るだけ人に会わないような道を選んで、部屋のある一画まで案内した。

すぐにサラとメアリーが空いている部屋を用意してくれたのでリズバルク伯爵はそこへルーカスを寝かせた。

 サイモン医師と侍女がやってきてルーカスの服に鋏を入れて脱がせていく。サラがお湯と水を運んできた。

 サイモン医師はリズバルク伯爵から事情を聴いている。その間にアンヌは医局の侍女と一緒にルーカスの止血と体を拭いていた。

 陛下は隣の部屋に入ってもらう。シャーリーはメアリーと一緒にその部屋にお湯と水を持って入るとギルバートが陛下の服を脱がせていた。

 シャーリーが陛下の怪我の状態を確認する。剣で切られたようだ。傷口は大きいが深くはない。傷口を丁寧に水で洗っているとサイモン医師がやってきた。


「傷口を見せください」

「あの者は大丈夫か?」

「出血が多いですが、命に関わることではないです。しばらく安静にする必要はありますが」


 サイモン医師は陛下の傷口を見て、更にギルバートの傷も確認してシャーリーに薬を渡す。


「これを二人の傷口に塗って包帯を巻いておきなさい。私はあちらの治療をしてくる」


 そういうともう一度ルーカスがいる部屋へと戻っていった。

 シャーリーとメアリーが陛下とギルバートの傷口に薬を塗り包帯を巻いていく。


「あの者は、薬室の薬剤師だと聞いた。私を庇ったために怪我を負った。申し訳ない」


 陛下は目を伏せる。


「何があったのかお聞きしても?」


 シャーリーは答えてもらえないかもしれないと思いながら聞いた。


「レヌアイ子爵の残党だよ。ソフィーの侍女はソフィーとグラベルが婚約を発表したころに屋敷を出ていたがその後行方が分からなかったのだ。侍女はソフィーに毒草を与えて、更にグラベルの妃候補へ毒を送るのをソフィーに唆していたと証言する者がいたから、ソフィーを処刑したときにも探したのだが見つけられなかった」

「もしかして、その侍女を探すために視察に出かけられたのですか?」

「それだけではないのだがな」


 陛下はため息をついた。落胆と言っていいのだろうか。目を瞑ってしまった。ソフィーの侍女は乳姉妹だと古くからレヌアイ子爵の屋敷にいるものたちが証言していた。


「シャーリー様、私から」

 

 治療を終えたギルバートが話しかけてきた。メアリーは後片付けをして部屋を出ていく。


「陛下を恨んでいたようです。無念を必ず果たすと以前、同じ屋敷に勤めていた者が聞いていました。そこで陛下は囮になって誘き出そうとしましたが、不意打ちに攻撃されて、陛下を庇ったルーカス殿が怪我をしました」


 陛下を襲ったのはノゲルの部下とソフィーの侍女だが逃げられたという。ソフィーに毒草を教えたのはノゲルとその部下、そしてソフィーの侍女だ。

 二人を捕まえるために、陛下はリンゲル領のいるように装っている。そのため、陛下の侍従のリチャードと騎士団が残っているらしい。

 リズバルク伯爵はルーカス怪我の状態を見て治療は王宮のほうがいいと判断して、陛下とともに極秘で王宮に帰ってきたという。

 確かに医師の少ないリンゲル領より、王宮にはサイモン医師がいるので安心だろう。それに警護も厳重だ。


「ソフィーはグラベルと結婚できないのは私のせいだと恨んでいたらしい。私を毒殺しようとしていたからな。そのソフィーの一番近くにいて関わっていたのが侍女だ。だが、ソフィーの行動を考えるとグラベルとの結婚を認める訳にはいかなかった。」

「行動ですか」


「グラベルとの婚約を最初に決めたのは私だ。その私がグラベルを庇って怪我をしたソフィーを見捨てるのかと言いたいのだな」


 シャーリーは返す言葉がなかった。


「私にもしものことがあったら、この地位はグラベルにいくことになる。それを考えると毒を体にため込んでしまったソフィーをグラベルの妻にすることは出来なかった。それに、グラベルの妃候補にソフィーが毒を送っていることが分かってからはなおさらだ。そんなものを王族に出来る訳がない。ほかの貴族にも示しがつかん」


 ソフィーがやっていたことは決して許されることではない。大事にならないようにグラベルと薬室長も動いていたようだ。それでもソフィーはグラベルの気を引くため自らも毒を飲み、グラベルに近づく者たちに毒を送り続けていた。


「実際に他の貴族の令嬢に毒を送っていたのがその侍女だ、それはレヌアイ子爵も知っていたというより、そう仕向けていたのはレヌアイ子爵だ。ソフィーを介してグラベルを操ろうとしていた節がある。それこそ、グラベルと結婚させることが出来ない理由だ」


 そういうことかと納得した。グラベルがあそこまでソフィーを気にしていたのは周囲に欺かれていた。もしかしたら本当にグラベルと結婚出来ると信じていたのかもしれない。


「今後のことを考えると憂いは取り除いておきたかった。それと、グラベルから聞いていると思うが、マーガレットに王位を継がせようと思っている。そのために反対派の貴族の説得をするために視察にでたのだ」


 その話は初めて聞く。イザベラの下賜でもなければ、側室を迎える話でもない。それにこの国では男子しか王位を継げないのに。シャーリーは動揺する。そんなことが出来るのか?


「あと二人、説得出来たら、法案を出そうと考えていた。その前にこんなことになってしまったが。リズバルク伯爵からも早く行動したほうがいいと言われた」

「どうしてそのことをイザベラに伝えておかなかったのですか?」


 それを言っておいてくれたらイザベラが思い悩むこともなかったはずだ。


「説得できなかったら、ぬか喜びになってしまうだろ。どのみち一部の貴族たちはイザベラを王妃の座から引きずり降ろそうとしていたから」

「イザベラはグラベル様に下賜されると塞ぎこんでいました」

「申し訳ない。だが、そんなことをするはずないだろ。グラベルの婚姻相手はシャーリーだと決まっているのだから」


 眉間に皺が寄る。決まっているのか?私は未だにグラベルにはっきりと言われていないのだが。

指で眉間の皺を伸ばす。なんと答えていいのか分からない。どうして本人以外で話が進むのか。誰か教えてほしいと思った。


 陛下に恨みを持っていると言っていたが、グラベルにはどうだろかと気になった。

 陛下が王宮に戻っていることは知られる訳にはいかないので、グラベルはそのまま陛下の代理を務めているが陛下が襲われたことはすでに知っている。


 リズバルク伯爵とグラベルの案で陛下はリンゲル領で病に伏していることにした。そのほうがベルク諸侯やリチャードと騎士団たちが集まっていても言い訳が出来る。

 陛下の視察に同行していたベルク諸侯がリンゲル領に残って陛下の侍従のリチャードと騎士団を使ってノゲルの部下のゾルタとソフィーの侍女のオルガの捜査が続けられている。

 陛下は王宮に帰ってきてからずっと、王宮の西側にあるグラベルの居住区に籠っている。夜、執務を終えたグラベルとレノックス伯爵がやってきて陛下への報告をしている。

 毎日報告される内容に二人の行方をつかむものは何も出てこなく、昨日からリズバルク伯爵も二人の捜査に加わって捜査範囲も北の地まで広げられていた。


 シャーリーは薬室の仕事を終えて、部屋に戻るとグラベルとレノックス伯爵が陛下の報告を終えて帰るところだった。


「シャーリー殿、今、お帰りですか」


 レノックス伯爵が声をかけてきた。隣にいるグラベルとも疲労感が漂っている。大丈夫だろうか。


「冬風邪がまだ収まっていないのと、薬つくりが間に合わないので」


 シャーリーは薬室長から聞かされている状況に危機感を抱いていた。王都の診療所では昨年の噂が広まっていて今年は昨年以上の病人が訪れているという。このままでは薬室で作っている薬が間に合わなくなる。

 薬草はホルック領で昨年の倍の量を作っていてくれたおかげと、王宮の温室でも代替えの薬草を例年よりも多く作っていたおかげで何とか足りるだろうとローレンスが言っていた。

 その為、数日前から他の薬剤師たちが帰った後にシャーリーは薬室長とローレンス、カルロで夜遅くまで薬つくりをしていた。


「診療所のことは報告が入っている。薬つくりが間に合わないようなら手伝いの人を探してみるが」

「大丈夫です。薬室長とサイモン医師からはあと少しで落ち着くだろうと言われています。時間のある時はサラとメアリーが手伝ってくれます。それにカタリーナ様もよく薬室にきて手伝ってくださいます」

「カタリーナ様ですか?」


 レノックス伯爵が驚いていた。


「王妃様が気にしていらっしゃるとかで、代わりに様子を見に来られてそのまま手伝ってくれます」


 カタリーナはここ数日ほぼ毎日、午後から夕方近くまで薬の袋詰めを手伝ってくれている。それだけでもすごく助かっているのだ。


「グラベル様、早く決めないといけませんね」

「リズバルク伯爵とダルキス伯爵の報告を待つしかないな。出来るだけ早くと願いたいところだが」


レノックス伯爵が言いたいことは何となくわかった。

グラベルは大きく息を吐いた。

陛下が以前言っていた、あと二人。北の地のクオタバ子爵と西の有力なマーシア諸侯が反対しているのだ。その二人は自分の娘を王妃に据えようと躍起になっているらしい。

 せっかく陛下が説得し、イザベラが産んだマーガレットが王位を継ぐことに賛成してくれた者たちを翻そうとしているようだ。

 陛下の焦りが日に日に増している。そこで、時間稼ぎでマーガレットを王妃にという噂を流していたとグラベルから聞いた。

 本当は説得をして賛成してもらいたいが、それはかなり難しいと判断したグラベルはその二人の弱みを見つけようとしているらしい。交渉材料にするために。

リズバルク伯爵はクオタバ子爵の説得をするため北の地へ向かい、ダルキス伯爵はマーシア諸侯を探るため西の地へ出向いた。

グラベルとレノックス伯爵の顔色は悪い。


「滋養にいい薬草がありますので、明日執務室へ届けさせます。お二人とも飲んでくださいね」

シャーリーは以前、アンヌがカタリーナの為に作っていた薬を思い出した。薬草はまだ残っている。イザベラとマーガレット王女の為にも今、この二人に倒れられては困る。

グラベルとレノックス伯爵は苦笑いしていた。

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