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カルロの恋

 シャーリーはルーカスと冬風邪の準備のため、温室で収穫した薬草を乾燥させていた。

 ホルック領担当の薬剤師たちはクラフ領の土つくりをしている。もうすぐ目途が立つと言っていた。

 フォアボルドとリンゲルも薬草が出来始めて収穫を迎えている。そのため担当薬剤師たちはその手伝いのため毎日出向いている。

 王宮組は引き続き王宮担当になっていて、代替えの薬草はシャーリーとルーカスが準備を進めている。 

 エレノアはリンゲル領の薬剤師たちと冬風邪の薬を作るためファビアンと泊まり込みでリンゲル領へ行ってしまった。冬風邪が収まるまで領主のエリクたちの屋敷に滞在するらしい。

 アンヌとマースはホルック領の薬草の入荷状況の確認と薬室で作った薬の診療所へ送るための打ち合わせをするため騎士団のもとへ行っている。

 二年目なのでみんな何が必要か分かっていて自ら動いている。


「去年はこれをカルロ様お一人でされていたのですよね」


 シャーリーも驚いていた。今年、カルロは別の仕事があったのでシャーリーが温室の管理をしていたのだが、結構な重労働だ。だが、これがなければホルック領の薬草が足りなくなったときに困るもの確かだ。

 アンヌやエレノア、マースとルーカスが手の空いているときに手伝ってくれたがやはり大変だった。温室の前に収穫した薬草を並び終えて、一旦薬室に戻ることにした。


「もうすぐ冬風邪が来る頃ですよね」 


 籠を抱えて歩いているとルーカスがポツリと言う。


「そろそろだと思いますが、今年は絶対に成功させないといけませんね」


 ブランデンが爵位を持って初めての冬風邪だ。成功させないと何を言われるか分からない。


「フォアボルドとリンゲルも成功させないとグラベル様の事業に反対する者が出てきませんか?」


 ルーカスは心配しているようだ。


「ルーカス様はネヴェルス出身でしたね」

「はい。今まで領主代行でしたがフォアボルドの領主でセルキュロ諸侯ピエール様が正式に領主になりました。以前、グラベル様とシャーリー様が来てくださったお陰で両親は命が助かりました。私が薬剤師になろうと思ったのはあれがきっかけです」


 食料不足に陥った時、商団から粗悪な小麦を仕入れて民に配っていた領主は病になった民たちを農村の端に集めて隠していたことがあった。噂を聞きつけグラベルと言った時のことを思い出した。当時の領主を処分して隣の領主であるセルキュロ諸侯にネヴェルスを任せていた。


「ネヴェルスに戻るのですか?」


 今度の春から故郷に戻る者も何人かいる。ルーカスもその一人だと思った。


「もう少し王都に、薬室います。ピエール様からいずれネヴェルスで薬局を作るのでそれまでここで学べるだけ学ぶように言われました」

「薬局?」

「はい。フォアボルドで作った薬草を使ってネヴェルスで薬を作ります」

「素敵です」 


 グラベルの目指すものに賛同者がどんどん増えている。シャーリーは嬉しくなる半面、ルーカスの言うように成功させないといけない。胸が温かくなる。こうしてグラベルの賛同者が増えてくれるといい。


「シャーリー様」


 ルーカスがシャーリーの肩を抑えて薬草畑に倒れこむ。


「な、なに?」

「しーっ」


 ルーカルは畑に腹ばいで人差し指を口元にあてて、薬草の間を指さした。

 シャーリーも同じような態勢で薬草の隙間からルーカスが指さした先を見た。


「カタリーナ様です。王妃様の妹の」


 小声で教えてくれる。

 あれが!

 シャーリーは視線の先にいる二人を見る。カルロは真剣な顔でカタリーナに話しかけている。


「何を話しているのでしょうか」


 思わずシャーリーも小声になっている。


「カルロ様、すごく真剣ですよね」

「そうね」


 薬草に隠れて見ている。時にやさしく微笑み、真剣な顔で話すカルロはまるで薬草を相手にしているときのようだ。

カルロは恋しているのだ。それも初めて人に。


「二人とも何しているの?」


 ふいに後ろから声がしてびっくりするが、出た行動はシャーリーとルーカスはアンヌとマースの口元を抑えて押し倒していた。

 結局四人は薬草畑の薬草に隠れてその間からカルロとカタリーナを見ていた。


「あれって」


 アンヌがシャーリーを見る。


「カタリーナ様だそうです。イザベラの妹の」


 シャーリーは先ほどルーカスから聞いたばかりの情報を伝える。


「カルロ様、嬉しそう」


 アンヌが呟く。そのアンヌの顔が綻ぶ。


「でも、未来はないよ」


 マースの言葉にシャーリーとアンヌは振り返る。


「未来がないって」


 アンヌの声が震える。シャーリーは気づいた。


「カルロ様のご実家は商家です。かなり裕福なお家だそうですが、爵位はありません」


 シャーリーはアンヌに伝える。アンヌも分かったようで口を噤んでしまった。


「伯爵家の、それも姉君は王妃様、身分が違います。どんなに好きでも結ばれることはない」


 マースの言葉は冷淡に聞こえるかもしれないが、それがこの国の身分制度なのだ。

 四人はいつの間にか薬草畑に座り込んでいた。


「どうにもならないのですか」


 アンヌの気持ちはよくわかるが、こればかりはどうにもできない。シャーリーも答えようがなかった。

 重苦しい空気が四人を包む。



「何やってるの?」


 カルロが四人を見つけた。いつものカルロがいた。

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