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新しい領地 後編

 夕方、視察を終えたカルロたちは皆かなり疲れた様子で帰ってきた。


「何か問題でもあったのですか?」

「五倍どころじゃない!」


 心配そうにアンヌとエレノアがみんなにお茶を入れていた傍でアランが怒りを滲ませる。

 シャーリーとマースはホルック領の薬草を仕分けしながら聞いていた。


「果てしなく広かった。あれじゃ、僕たちではとてもじゃないけど無理だ」

「そんなに広かったのですか?」


 エレノアが聞いている。

 数人は疲れ切って机に突っ伏していた。会話に加わる力すら残っていないようだ。


「今から土つくり初めて、来年の春以降だね。薬草を作れるのは」


 カルロはなんだかんだ言いながらやっぱり頼りになる。嫌々連れていかれたのにしっかりとメモを取ってきて、今後の予定と土つくりに必要な材料を確認している。


「アラン、ホルック領での肥料つくりはどのくらい出来ている?」

「貝殻のものは今週中に残りをフォアボルドとリンゲルに送れば残りは春分に残す予定です。雑草のほうはうまく醗酵が進んでいるようなので、もうしばらく様子を見ます」

「カルロ、その雑草のほうをクラフで作ってはどうか」


 ローレンスが部屋から出てきた。手にはホルック領で研究していた報告書だ。


「そうか、それなら運ぶ手間が省ける」

「ファビアン、レティックス、フォアボルドとリンゲルで抜いた雑草はまだあったはずだよな」

 すぐさまアランが聞いていた。


「ある」

「山積みになっている。処分に困っていたから」


 ファビアンとレティックスがそれぞれ領内の様子を答えるとカルロとアランは笑顔になった。


「明日、それをクラフに運ぶ」

 カルロがみんなに告げる。


「リンゲル領の近くに草が山積みになっているところがあった」

「フォアボルドの近くも見た」


 ほかの薬剤師たちが次々記憶を頼りに草や落ち葉が大量にある場所を言い出した。カルロとアランは場所と大体の量を聞き出して書き出している。


「まだ、足りませんね」

 アランの言葉にカルロは筆で頭を掻きながら唸っている。

「そんなに広いのですか?」

 エレノアがローレンスに聞いていた。


「少し前に見に行ったが、広いな。土の状態もフォアボルドやリンゲルほどではないが、よくない。カルロも今日調べて分かったんだと思う。カルロたちの研究で分かったことがある。雑草を使った土つくりは一定の条件下で醗酵するのが分かってきた。それなら、冬風邪の対応をしている間に醗酵させて寝かせておいたほうがいいと思う」


 カルロが提出した報告書を見せてくれたのでシャーリーたち王宮組は覗き込んだ。確かに条件がそろえばいい土が作れる。だが、広さが問題だ。アランがホルック領の五倍以上だと言っているところをみると相当広いのだろ。収穫できる薬草も多くなるが肥料も人でもそれだけ多く必要になってくる。

 アランの言っているように薬室のメンバーだけで出来るのか?

 シャーリーはそっとローレンスをみた。もう、何か準備が出来ているのではないかと。


「シャーリー、僕もそんなに色々教えてもらっているわけではないから」

 ローレンスはシャーリーの視線に気づき耳元でこっそり話してきた。

 グラベルとリズバルク伯爵が無謀なことを言うはずがない。何かあるはずだと考えていた。


 カルロが急に立ち上がり、アランを見た。


「アラン、管理官のところに行くよ」

「突然、どうしたのですか?」

「雑草と枯れ葉を集めにさ」


 カルロは面白いものを見つけたように笑って見せた。アランもそれが分かったのか立ち上がる。


「ちょっと行ってくる」

「ちょっと待ってください」


 二人は薬室を飛び出していこうとするのをマースとルーカスが慌てて止める。


「リズバルク伯爵に会うのにその恰好は……」

 カルロとアランの服には泥が付いていて綺麗とはいいがたい。管理官とは言え伯爵に会う姿ではないだろう。二人は自分たちの服を見て納得する。


「着替えるか」

「その必要はない」

 カルロがアランに言うと薬室の入り口から声が聞こえた。


「今日、クラフ領の視察に行ったと聞いていたので状況を確認に来た。何かあったか?」

 リズバルク伯爵は泥を付けた薬剤師たちを見ていう。


「肥料になる材料が足りません。それに今から準備しても薬草を作れるのは春になります」

「肥料の材料はいくつかの領主に依頼をしているから取りに行くといい」


 リズバルク伯爵はカルロの書類を渡す。カルロとアランは資料を見る。


「これだけあれば」

「出来ますね」

 二人の言葉にほかの薬剤師たちの安堵の声が聞こえる。


「運ぶのは兵士たちを使うといい。ハンス、ケリー、詰め所にザクセンという者がいる。尋ねるがいい」

「はい」


 ハンスとケリーが返事をしていた。話がどんどん進んでいく。

 アンヌとエレノアも驚いていた。


「やっぱり、何かあったね」

 ローレンスがシャーリーに囁く。

 シャーリーはリズバルク伯爵を見ていた。これはどちらの考えで動いているのだろうか。


「薬草は春からでいい。それまでに見習い薬剤師を大量に採用するから。ローレンス、募集をかけておいてほしい」

「は、はい」

 突然話を振られて慌てて返事をするローレンス。

 ざわざわと騒ぎ出す薬剤師たちをしり目にカルロは俄然やる気を出していた。


「シャーリー、もうしばらく王宮を任せてもいい?」


 先ほどまでの表情とは打って変わっていつものカルロに戻っていた。これが薬草愛にあふれたカルロだと思う反面、少し無理をしているようにも見えた。


「分かりました」


 それしか言えなかった。近くにいたアンヌやエレノアも同じ気持ちだろう。静かにカルロを見ていた。


「明日から近くの領地を巡って材料を集める。いいね」


 カルロがホルック領、フォアボルド領、リンゲル領担当薬剤師たちに告げた。みんな、すぐに分担して明日めぐる領地の割り振りを始めた。


 冬風邪用の薬草が少しずつだが届き始めている。

 イザベラの出産も一か月後と迫ってきた。王宮組ものんびりしていられない。


「私、明日から温室の薬草の収穫に入ります」

 シャーリーはそろそろ始めなければと思っていた。

「俺、手伝いますよ」

 ルーカスが言う。ありがたい。温室も増設を繰り返していて今は六つある。そのうちの二つが収穫時期を迎えていた。イザベラの出産までに温室全部の収穫を終えておきたい。


「薬室の薬つくりは僕に任せて。その合間に調薬室の準備もしておく」

「私たちは薬草庫の掃除をしておくわ」

 マースとアンヌ、エレノアもそれぞれ冬風邪の為に動き出す。


 カルロたちが新しい領地の土つくりの準備に追われている間にシャーリーたちは温室の収穫をして、薬草の乾燥と着々と準備を進めていた。


 温室の収穫がすべて終わり、あとは収穫分の乾燥をするだけとなったとき、イザベラが産気づいたと連絡が入った。


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