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褒美と課題

 王宮に帰ってきてから、アーリシュとヨハンに確かめた。

「シャーリーが剣を使えることは知っていたのか?」

「王城を出る時、ベルク侯爵から伝えられました」

「ベルク侯爵はご存知だったのか。私は聞いていないが」

 グラベルは陛下からの話を持ってきた時、王妃候補と告げられただけだ。

「まさか、このような事になるとは思われなかったそうです」

 確かに。行方不明者を探すのに、傭兵がいる屋敷に乗り込めとは思っていなかった。


「どうして剣を持つことになったのか、グラベル様が直接お聞きになられたほうがよろしいかと」

 アーリシュが言う。

「分かった。今度聞いてみよう」

 グラベルはシャーリーについて色々ありすぎて感覚が麻痺しかかっている。心が落ち着いたときにでも聞いてみようと思った。



 今日は皇太后主宰の茶会だ。しかし、招待客は全て王妃候補で簡単にいうとお見合いだ。

 二階のバルコニー席には陛下と皇太后が椅子に座っている。一階の広間には丸テーブルと椅子が人数分用意されており、そこに王妃候補と親族がそれぞれ座っている。

 王妃候補と親族は順番に陛下と皇太后がいる二階に呼ばれる。


 緩やかな音楽が奏でられている広間では順番待ちの王妃候補たちが親族と談笑している。顔は笑っているが、目は周囲の者を値踏みしているようだ。


 今日はグラベルもウィルゼン公爵として茶会に出席しているが席にはつかず広間の端に立っていた。

広間の中には先日、グラベルとシャーリーが助け出した令嬢がいた。その令嬢はグラベルに気づくと、近くにいた令嬢を誘ってグラベルの元へ来た。


「グラベル様、先日は助けていただいてありがとうございます」

 先に声をかけてきたのはラウエン伯爵令嬢のイザベラだ。その隣でローレル子爵令嬢、ルイーザもいた。

「グラベル様、私も助けていただき本当にありがとうございます。それと陛下にもお話してくださいましてありがとうございます」

 ルイーザは恋人と婚約が決まった。グラベルが陛下に話ルイーザの婚姻を認めたからだ。今日は陛下にお礼を述べるために来ていると言った。

「お二人が無事でよかった。陛下も心配されていましたから」

「シャーリー様にもお礼を申し上げたいのですが、見当たらなくて」

 今日は来られないのかしら? とイザベラが困った顔をする。

「もうすぐ来られると思いますよ」

 グラベルが言うと同時に、重臣のダルキス伯爵がイザベラとルイーザを呼びに来た。

順番がきたようだ。二人はグラベルに挨拶するとダルキス伯爵について行く。


 イザベラとルイーザを連れ去ったのはホルック伯爵と令嬢のマーリンだった。

 グラベルたちがホルック伯爵の屋敷に出向いたことで焦ったマーリンはイザベラとルイーザを始末するようあの屋敷に使いを出していた。

 グラベルたちがあの屋敷に着いた時、まさにイザベラとルイーザは連れ出され殺されるところだった。

 ルイーザの部屋の残り香はマーリンの香りだ。マーリンの屋敷に雇われている兵士がルイーザの部屋に忍び込んでいた。


 あの屋敷で傭兵たちを取り押さえた後、近くの騎士団員に護衛を頼みシャーリーとイザベラとルイーザを王宮の一室で保護して、グラベルたちは兵士たちとホルック邸に行き二人を取り押さえた。

 マーリンは有力候補であるイザベラの誘拐を計画、偶然その近くで待ち合わせをしていたルイーザも連れ去られた。

 マーリンの計画を後押ししたのはホルック伯爵だ。娘を王妃にする為だと言っていた。

 ホルック伯爵は爵位剥奪、領地没収、娘のマーリンと共に処刑された。

 そして元ホルック領はなぜかグラベルの領地となった。

 薬剤師が領地を増やしても……。領地全て薬草畑にでもしてみようか。


 陛下に挨拶が終わった王妃候補たちがこちらを見ている。そろそろ逃げ出す頃合いかと思った時、声をかけられる。

「グラベル様、こんにちは」

 シャーリーがカーネル伯爵に連れられてやってきた。今日は一段と令嬢らしくドレスも髪飾りも豪華だ。さすが、最有力候補だと感心した。

 華やかさも堂々とした立ち振る舞いも王妃に相応しい。

 シャーリーはイザベラが最有力候補と言っていたが、シャーリーも最有力候補だと全てが片付いた後ベルク侯爵から聞いた。


「シャーリー殿、来ないかと思いましたよ」

 グラベルは少しばかり冗談を言ってみた。

 皇太后主宰の茶会に余程の理由がない限り欠席は許されない。それも王妃を決める茶会だ。

「この場を借りて、陛下にお許しを頂きたくて」

 カーネル伯爵はため息をつく。

 多分、シャーリーから王妃になるつもりはないと言われたのだろう。グラベルはカーネル伯爵に同情する。

「カーネル伯爵、もしよろしければ私がシャーリー殿を陛下に元へお連れしたいのですが」

「えっ? しかし……」

「悪いようにはしません」

 グラベルは半ば強引にカーネル伯爵の承諾を得てシャーリーを連れて行く。


 グラベルが手を差し出すと一瞬戸惑った顔をしたが、グラベルの手に自分の手を重ねた。

「王妃候補を辞退するのですか?」

 グラベルは歩きながら話す。

「私は薬剤師になりたいのです」

 シャーリーは改めて自分の考えをグラベルに伝えてくる。

「試用期間内で薬剤師として使えないと判断されたら、もう薬剤師にはなれないのですよ。最有力候補だと聞きました。それを捨ててもいいのですか?」

「私は王妃としてではなく、薬剤師として陛下にお仕えしたいのです。陛下がもう二度大切な人を亡くさないで済むように」

 シャーリーは俯き気味に答える。

 グラベルは陛下の挨拶待ちをする階段下へ着くと、そこにいたダルキス伯爵に声をかける。

ダルキス伯爵はシャーリーを見ると、次に挨拶をしてくださいと言ってその場を離れた。


 待っている間、シャーリーが話し始める。

「私の兄は幼い頃病弱で成人出来ないだろと言われていました。その為、父は私に跡継ぎとして教育しました」

 シャーリーは惣領姫として爵位を継ぐために必要な勉強や剣術を覚えたと言う。その後、兄か健康になり爵位を継げるようになると、父はシャーリーに婚約者を用意した。

「私には今まで自分で選ぶことは許されなかったのです。私の婚約者はダルキス伯爵のご子息です。その方が亡くなったら、今度は陛下に嫁ぐように言われました。ダルキス伯爵がお仕えする陛下の元へ嫁ぐことは私には考えられませんでした」


 ダルキス伯爵もその子息も、シャーリーの置かれた立場を理解して温かく迎え入れる準備をしてくれていたて言う。だからこそ、もう誰かの都合で振り回されたくないとシャーリーは言った。

 シャーリーは俯いたままだ。グラベルはシャーリーの心が少しでも軽くなればと考えた。

 階段上から次の方と言われ、シャーリーの手を引いて階段を上がる。


 シャーリーを陛下の前まで連れて行き紹介する。

「カーネル伯爵家 令嬢のシャーリー様です」


 シャーリーはスカートの裾を少しだけ持ち上げて優雅にお辞儀をする。皇太后の目はひと際優しくシャーリーを眺めている。


 ベルク侯爵に促され、シャーリーは陛下の前のテーブルを挟んだ椅子に座る。グラベルは少し後ろで立っていた。


「此度のこと力を貸してくれたとウィルゼン公爵から聞いた。礼を言う」

 陛下の言葉にシャーリーは驚いていた。

「私はついて行っただけです」

「ウィルゼン公爵、そうなのか?」

 陛下は意地悪そうな顔をしてグラベルを見る。

「シャーリー殿には大変助けられました。また、今後は薬剤師として陛下にお仕えしたいと申しており、私の元で薬剤師になるための勉強もしています」


「何か褒美を遣わそう。何がいいかな」

 陛下が優しく言う。

 シャーリーはグラベルを見た。グラベルは笑みを浮かべて頷く。

「陛下、私は薬剤師になって陛下にお仕えしたいと思っております。しかし、薬剤師の試験は暫くないと言われ、今は試用期間としてグラベル様に教えを受けています」

 シャーリーはそれ以上は不敬かと考えたのか言葉に詰まる。


「公に試験を行うことは難しいが、代わりになる試験を薬室ですることは出来ないか?」

 陛下はグラベルに確認する。

「薬剤師の試験に近いものを受けて合格出来たなら、いずれ薬剤師となるのも可能かと」

 陛下はグラベルの言った言葉にどうするかシャーリーに聞いた。

 シャーリーは再度グラベルを見た。

「覚えることは今より多くなりますよ」

 グラベルが言うとシャーリーは笑顔になった。


 シャーリーをカーネル伯爵の元へ送り、グラベルは陛下の元へ戻った。

 全ての令嬢の挨拶が終わり、茶会は終わった。

 少し疲れ気味の陛下について陛下の私室に向かう。


「あれでよかったのか?」

「はい。ありがとうございます」


 グラベルはシャーリーのことをベルク侯爵から聞かされていた。

 薬剤師になりたいというシャーリーはグラベルが教えたことを必死に覚えてきた。

 同情した訳ではないが今回、令嬢を救出できたのはシャーリーが手を貸してくれたからだ。その礼をしなければと考えた時、この方法を思いついた。

もちろん、薬室長の許可を取り、同僚二人にも相談した。

 薬室長からは流行り病で薬剤師も何人か亡くなったので補充したかったと言われ、同僚からは薬草畑が増えたことで人手が足りないので嬉しいと言ってもらえた。

 あくまでシャーリーの気持ちが大切だ。だからこそ陛下の御前に向かう前にシャーリーの気持ちを確かめた。


 部屋に着き、椅子に座らせる。

 顔色が悪い。かなり無理をしたのだろう。体もまた痩せたようだ。侍女に言って薬を用意させる。

「妃にするのなら遠慮はいらないぞ」

「そんなつもりはありません」

「本当か? そろそろ領地に行かなければいけないだろ。いつまでも代理に任せるのは良くないのではないか」

 グラベルはウィルゼン公爵の地位を持った時、北の領地を継いだ。本当なら昨年、北の領地に行くことが決まっていた。その矢先、流行り病で王妃や民の多くが命を落とした。理由は分からないが北の地は王都ほど病の広がりを見せなかったため、グラベルが北へ行くのを見送られた。

「陛下が王妃様を迎えられましたら、私のここでの役目も終えることが出来ましょう」

「私を脅す気か?」

「陛下にはまだまだお元気でいただかなければいけませんから」

 陛下はかなり辛そうだ。

 グラベルは薬を持ってきたベルク侯爵と陛下の着替えを手伝い、薬を飲ませベッドに寝かせた。

 陛下は余程疲れていたのだろう、ベッドに入ってすぐ眠りについた。

「何かあればすぐ呼ぶように」

 ベルク侯爵に伝えて部屋を出た。


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