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薬剤師試験 後編

 管理官、リズバルク伯爵から必ず全員合格するようにと伝えられ、シャーリーとカルロは薬室長からも厳命された。


「カルロ様、どうして全員合格にこだわるのでしょうか」


 薬室長はイザベラの出産後に試験を考えていたのだがリズバルク伯爵に言われ急遽試験をすることを決めた。

 時期にしても、全員合格にしてもかなり強引なやり方だ。他の事ではしっかり準備しているのにどうしてなのか疑問だった。


「はっきりとは分からないけど、これだけの薬剤師見習いを抱えることになったことも理由かもしれない」

「薬草畑のことがあったからではないのですか?」


 シャーリーとカルロは試験勉強の資料を作りながら話す。


「それでも多いよ。ただ、去年の冬はそれで助かったよね。それが理由だとしたら……」

「だとしたら?」

「う~ん、違うか」

「なんですか?」


 カルロは一人で納得している。


「例えばだよ、各地の診療所に薬剤師を配置すれば安定した薬を作ることが出来る。だけど、それだと薬草を各地に配達しないといけなくなるから、違うのかなと思っただけだよ」

「そうですよね。薬草畑はまだ三つ、それも二つはまだどれだけの薬草が出来るかもわからないですからね」

「何か別の理由があるってことかも」


 カルロの言葉にシャーリーはグラベルのことを思い出した。


「リズバルク伯爵は全員試験に合格すればグラベル様のハードルが上がると仰っていました」


カルロには何か思い当たる節があったようだ。


「う~ん。それは……ね。グラベルが王族としてもっと表に出ろ、ことだと思うよ」

「表に、ですか」

「ホルック領で薬草を育てることを決めたのはグラベルだけどその手柄は全てブランデン殿のものになっているだろ。リンゲル領やフォアボルド領の薬草畑もグラベルがいたから出来たことだけど、それもグラベルは表立って自分の手柄とは言わないだろうね」

「グラベル様はまだ何かしようと考えている?」

「去年の冬風邪の時、王都の薬を薬室で作ることを決めたのはグラベルだよ」

「すべては見習い薬剤師の募集をしたときから始まっていたのですか」


 これだけの薬剤師見習いがいたからこそ去年の冬風邪の時に王都分だけでも薬室で薬を作ることが出来た。


「多分、ホルック領で薬草を作ると決めた時からだよ」

「薬剤師を許可制にすることも、薬草を作ることもすべてグラベル様が決めたことなんですね」


 かなり前から決めていたことだろう。少しずつ時間をかけて人を育て、薬草畑を作り、望む未来を作るために動いていたのだ。


「全員合格でしたね」


 シャーリーはグラベルがきちんと評価されるように表に出てきてほしいと思う。


「試験前日までこれをしっかりとやってもらおう」


 出来上がった練習問題を見て笑顔でカルロは言う。

 問題を作ったのはカルロだ、シャーリーの試験の時に借りたカルロのノートから抜粋したものだからかなり期待できる。

 見習い薬剤師たちには翌日からカルロが作った練習問題を解いてもらった。その中にはケリーとハンスの姿もあった。今後のことも考えると一人でも多いほうがいい。




○○○

 試験が始まる。

 薬室長とローレンスが作った筆記試験を受けその後、実技試験になる。

 筆記試験が終わってそのまま実技試験が行われた。その実技試験に使う薬草はリズバルク伯爵の領地から届いた薬草だった。

 筆記試験が行われている間にシャーリーとカルロが準備をしてそのまま実技試験の監督も務めた。

みんなそれぞれ渡された薬草で薬を作っていくのを見て本当に全員合格できるのかと不安になってきた。


「カルロ様、大丈夫でしょうか」


 小さな声で隣にいるカルロに訊いてみた。


「実技は大丈夫そうだよ」


 カルロは見習い薬剤師たちの行動を見つめて返事をする。

 シャーリーは少しだけ安心出来た。あとは今薬室長とローレンスが採点をしている筆記試験が上手くいっていれば大丈夫だろう。

 昨日はリズバルク伯爵が薬室長とかなり長い時間話し込んでいた。きっとこの合格発表の後、話があるのだとみんな薄々感じていた。

 その為か見習い薬剤師たちの緊張が伝わってくる。

 試験が終わったものから帰宅するように言われているのでみんな疲れた顔をして与えられた部屋に帰って行く。シャーリーとカルロは最後の一人が帰るまで見守り、後片付けをして試験室を後にした。

調合室に集められた試験で作った薬と筆記試験の答案用紙が並べられている。


「全員合格です」


 薬室長はリズバルク伯爵に報告している。


「一番成績が良かったのは誰ですか?」

「アンヌとアランです」

「王妃様担当者の成績は?」

「マースとエレノアが二番目に良い点数を取っています。その下にルーカスです。みな上位にいます」

「それなら大丈夫ですね」


 リズバルク伯爵が安心した様子で薬室長に言っていた。


「誰にも文句は言わせません」


 薬室長がはっきりと答えている。

 誰かが何かを言っていたのか。それでリズバルク伯爵は試験を急ぐように言ったのが分かった。

 シャーリーはリズバルク伯爵を見る。不安要素を残さないようにしていたのか。

 見習い薬剤師たちが不利益にならないように配慮してくれていたのだろう。信頼できる人なのだろう。そう言えば、試験に合格したらアンヌとエレノアの両親を説得すると言っていたが本当だろうか。


「明日にでも、試験結果を携えて二人の両親の元へ行ってきますよ」


 シャーリーの心を読んでいるかのタイミングでリズバルク伯爵は言ってきた。


「そうしていただけるとありがたいです」


 シャーリーもずっと気になっていたことだ。いくら薬剤師の試験に受かったからと言って家を出たままでいいはずがない。いつかは連れ戻されるのを怯えながら暮らすよりはきちんと話が出来た方がいい。ただ、二人だけでは両親を納得させるには難しいことも分かっていた。その点、リズバルク伯爵は管理官という立場や陛下からも信頼されている点を考えて説得してもらえるのなら二人の両親も納得せざるを得ないはずだ。きっとうまくいく。シャーリーは期待を寄せた。


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