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ブランデンの爵位

 シャーリーとカルロはホルック領から届いた薬草を見ていた。


「やはり、生育がいいね」


 カルロは薬草の葉を一つ千切って陽にかざし見る、そして一口かじる。シャーリーはその様子を見つめている。側には心配そうにイダがカルロを見つめる。


「この間聞いた貝殻を使った物の他に何かしている?」


 カルロがイダに聞いている。 


「放牧地にしていたところを畑にするつもりでしたが人手が足りなくて他の畑で採った雑草や枯葉などの置き場にしていました。時期的に畑で作る作物もなかったことから薬草畑にしたのですがこのように生育が良くなりました」

「放牧地と秋穀と夏穀でローテーションするのは分かるけど、放牧地をそのままのしてというのは聞いたことがない」


 カルロは険しい顔でイダを見る。シャーリーは心配になる。もしかしたら間違ったことをしているのだろうか。しかし、先ほどは褒めていたはずだ。

 イダも不安そうにカルロを見ている。


「それ、見せてください」


 カルロの目が輝いている。


「えっ?」 


 イダが驚いた声を上げる。

 シャーリーは何が起こっているのか分からなかった。



 気がつくとカルロに引きずられるようにして馬車に乗せられてホルック領へ向かっている。

 カルロはあっという間に薬室長の許可を取り、イダが乗ってきた馬車でホルック領へ行こうとしてケリーとハンスに止められた。

 流石に薬草を運ぶ荷車で移動は駄目だと用意された別の馬車でホルック領へ行くことになった。


「カルロ様、どうされたのですか?」 


 シャーリーはカルロが何をする為に行くのか気になっている。ブランデンの爵位はもう手の届くところまで来ている。ここで何か問題でも起きたら今までの苦労も水の泡だ。グラベルにブランデンの爵位を渡すために尽力すると言った手前、それだけは何としても避けたい。


「放置された場所に何かあるはずだ。この地方では牛とかの骨を肥料にすることは通常だがあの地域では貝殻を肥料にしていた。それは元領主の親戚が漁師をしていたからそこで出たゴミとして廃棄される物を利用していた。雑草や枯葉も同様の考えだとしたらどうだろうか?」


 カルロは真剣な顔でシャーリーに問いかける。


「もしかしてそれが生育を助けている?」

「それを調べるために見ておきたい」


 シャーリーの顔が自然に緩む。


「シャーリー、まだ安心するのは早いよ。しっかりと確認して結果を確かめないといけない」


 カルロが先程から真剣な顔なのは分かった。これで結果が出せたらそれこそ功績として認められる。ブランデンの爵位に異を唱える者もいなくなるはずだ。

 ホルック領のことで異を唱えているのは北の領主たちに元レヌアイ子爵、他にも数人いるとイザベラは言っていた。

 元レヌアイ子爵に関してはシャーリーが関わっていると言うだけで反対していた節があるとイザベラが言っていた。そのレヌアイ子爵は処刑されてもういない。シャーリー達が視察に訪れた領地は現在、王国所有となっている。

 グラベルがソフィーとの婚約を発表した直後、リズバルク伯爵は薬草園にやって来て薬草畑を作りたいと言ってきた。理由は薬剤師試験に落ちた元薬剤師たちの職の確保だと言っていた。シャーリーは北の気候などを考慮して基本的な薬草の作り方を伝えた。

 そのリズバルク伯爵がホルック領の薬草園に異を唱える人物だと後で分かって少し驚いた。

 北の領主たちはグラベルが北に赴任してから薬草畑を作ることに協力的だとアーリシュから手紙が来ていたので全ての人たちが頭ごなしに反対しているわけではないと安心する。

 ブランデンの爵位に関して出来る限り賛同者を集めるようにとイザベラから助言されている。賛同者までも行かなくても反対意見は出来るだけ少ない方がいい。

 馬車が停まる。


「シャーリー、行こう!」


 カルロは先程までとは打って変わっていつもの笑顔を向けた。


「はい」


 シャーリーも元気よく返事をする。


「ここがその薬草畑です」


 イダの案内で薬草畑に着く。やはり薬草は通常よりも丈も葉も大きく育っている。

 カルロがしゃがみこんで畑の土を手で触れていた。その横でシャーリーは薬草を観察する。


「シャーリー、これ」


 カルロは土を手に取って見せた。ほろりと崩れる土はとても柔らかそうで適度に水分を含んでいる。王宮の薬草園の土もかなりいいがもしかしたらそれよりもいいかもしれない。

 シャーリーも薬草畑の土を手に取った土がいいのだ。その為、薬草の生育がいい。


「カルロ殿、シャーリー殿、どうかされましたか?」


 ブランデンが走ってくる。その後ろにはブランデンが乗ってきた馬がいた。どうやら連絡もなしに薬草畑に来たので何かあったのかと誤解されたようだ。


「ブランデン殿、問題があります」

「問題ですか?」


 カルロは意地悪そうに言う。目が笑っている。

 シャーリーとイダはため息をついた。カルロの悪戯だ。

 問題と言われたブランデンの顔は青ざめている。


「薬草の生育が良すぎます」

「へっ?」


 ブランデンの間の抜けた顔は可笑しかったがシャーリーとイダは必死に笑いを堪えた。


「生育が良すぎるのです。その為、調査に来ました」

 

 カルロはお腹を抱えて笑いながら言う。


「な、何も変なことはしていないかと」


 ブランデンはまだカルロの悪戯だと理解していないのかオロオロしている。


「畑の土を少しもらいたいのですが、いいですか?」


 カルロは真面目な顔で訊く。


「どうぞ」


 状況がまだ飲みこめていない様子のブランデンにシャーリーが説明をする。その間にカルロは畑の土を持ってきた瓶に詰めていた。帰って調べるためだ。

 その後も、農地として使っている畑の土、放牧地として使っている場所の土を採取した。カルロ曰くこの土の成分を調べればどんな成分が含まれているか分かると言う。



「シャーリー、ホルック領の薬草園で働く人たちを指導者にする話は聞いているよね」

「はい。グラベル様からそう訊いています」


 帰りの馬車の中でカルロが聞いてきた。

 指導者にする教育は進んでいない。とにかく人手が足りないので薬草畑を管理するだけで指導者を他の領地へ行かせるとなると今度はホルック領の薬草園が立ち行かなくなる。今は薬草園を管理している人たちの子供も使って薬草を育てていると聞いている。


「調べてみないと分からないけど、ホルック領以外の薬草畑が軌道に乗ったらホルック領の薬草畑は研究施設みたいにするのはどうだろうか?」

「研究施設ですか?」


 どういうことだろうか。シャーリーはカルロを見る。


「今回のように偶然、良い薬草が育ったけど、それを試験的に試す場所としてホルック領の薬草畑がいいと思う。そうすれば農民たちが他の領地に行っても今いる王宮の薬剤師たちで畑は管理出来る。もちろん、今まで通り薬草も作るけど」

「それって、人手不足を解消できますね」

「そう。それにそこで研究されて成果が出たものは他の領地の薬草畑に指導者から伝授できる」

「指導者たちが他の領地に言っている間も薬草畑は今まで通り薬草を作ることが出来ますね」


 シャーリーはそれなら、指導者たちの教育を早めに取り掛からないといけないと思い始める。


「今、作っている薬草は日常的に使用する薬草や冬風邪に使う物だから、それ以外も作っていきたい」


 ホルック領の薬草園のその先を見据えると言うことだ。やることが多いが、それすらも楽しく思える。シャーリーはホルック領で採取した土の効果がはっきりと証明されるといいと願う。

 王宮に帰って、薬室長にカルロと共に報告に行く。


「土の成分か」


 薬室長とローレンスは瓶に入った土を眺めている。


「土の成分はカルロが調べるように」

「シャーリーは指導者の教育方針を固めておくこと」


 薬室長の言葉にカルロは土の成分はシャーリーがするものと思っていたようで驚いていた。


「陛下からお話があった、薬草畑の候補地をリンゲル領とフォアボルド領にするようにと」

「えっ?」


 シャーリーとカルロはそろって驚きの声を上げた。


「以前からグラベルが打診をしていたんだけど、先日正式に連絡があった。陛下もここなら大丈夫だと判断されたようだ」

「では!!」


 シャーリーはいい方へと話が進んでいるのかと嬉しくなる。


「カルロの報告書が後押しをするだろうね」


 薬室長の言葉にシャーリーは浮足立った。それはカルロも同じだったようでソワソワしだした。


「カルロは出来るだけ急いで、でも正確に。シャーリーはいつでも動けるように準備をしておきなさい。初めのうちはここの薬剤師見習いたちを連れて行きなさい。そのメンバーはローレンス、選任しておいてね」

「はい」


 三人は声を揃えた。

 カルロは持ち帰った瓶を抱えて部屋に閉じこもる。

 ローレンスは研究を担当するメンバーを選任する。選ばれた薬剤師見習いたちに事前の説明を始めている。シャーリーは今までの記録を読み返して必要な内容を書き写していった。


 一週間後、カルロに呼ばれて薬室長の元へ行く。

 ローレンスも呼ばれていたようで既に薬室長の部屋にいた。


「結果が出たよ」


 手渡された資料を見る。


「枯葉や雑草が発酵して土の状態をよくしていた。ただ、発酵が不十分だとここまで土の状態は良くならない」


 カルロの説明に薬室長は資料を見ながら聞いていた。


「この土地はどれくらい放置されていたの?」

「半年から一年くらいです」


 薬室長の質問にシャーリーが答える。


「枯葉が分解されたと考えていいでしょうね」

 

 ローレンスも資料を見て言う。


「分解されるにはある一定の熱が必要になってくるから注意が必要だ」


 薬室長は資料を机の上に置いた。シャーリーは二人の言葉をひたすら待った。


「実際に使用するにはしっかりと内容を精査しないといけませんね」


 ローレンスも資料を机の上に置いた。


「ホルック領の薬草畑でその研究をしてはどうでしょうか」


 カルロが口を開く。あの帰りの馬車で話していたことだ。


「研究か……そうだね。それがいい」


 薬室長が笑顔で言う。


「カルロとシャーリーはホルック領でこの研究をする場所をブランデン殿と相談して準備しておいて。ローレンスは薬剤師見習いたちの中からこの研究をする人員を選任しておいて。私はこのことを陛下に報告してくる」


 薬室長が立ち上がり、カルロは座ったまま拳を握っている。ローレンスがシャーリーを見て微笑んでくれた。上手くいっているのが分かった。


 一か月後、ブランデンに子爵位が授与された。その後、ルイーザが出産し子爵家の嫡男として生を受けた。生まれてから貴族になるより生まれた時から貴族であることは今後のことを考えても重要だ。特にこの国では身分制度が根強くあるその為ルイーザの父は結婚を快く思っていなかった。

 ブランデンが爵位を貰ったことでやっとルイーザとブランデンの結婚を認めてくれたとルイーザから手紙が来た。間に合ってよかったと安堵する。

 シャーリーは既に知っていると思ったがグラベルに報告の手紙を書いた。


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