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懐妊

 薬剤師見習いたちは一週間ごとの交代で医局の薬作りをしていた。

 それ以外の薬事剤見習いたちは薬草の管理や薬草畑の温室の管理をしている。

 それとは別にサイモン医師について診療の勉強も始まっていた。こちらは二人一組でサイモン医師の診療について王族などの診療も見学する。

 いずれ王族の薬作りも任せるためだと薬室長が言い出したことだ。


 シャーリーは薬剤師見習いたちと薬草畑から収穫した薬草を乾燥させるために薬草畑の庭に籠に入れた薬草を並べていた。

 春の日差しが暖かく、そういえばローレンスがよく昼寝をしていたなと思い出す。

 今ではすっかり薬室長の補佐がいたについて昼寝どころではないのだが。

 シャーリーはローレンスをそっと盗み見る。

 少し前にリンゲル領に行っていたと聞いた。詳しい内容はわからないが薬剤師試験の時にいた祈祷師を捕まえるためだと言って無事その祈祷師を捕まえた話を聞いた。

 祈祷師がやっていたことを聞いた時ローレンスやカルロが警戒するのがわかった。やはりあの二人はシャーリーの知らないところでいろんなものを見ているのだと知った。


 薬剤師見習いの一人が走ってくるのが見えた。

 確かサイモン医師の診療に言ったカルロの部下、ファビアンだ。

 シャーリーたちの目の前にきたファビアンは庭にいた人たちを見て大きな声を出した。


「シャーリー様が懐妊した!」


 えっ?

 なんて言った?

 周囲の視線がシャーリーに集まる。


「シャーリー、いつの間に」


 側にいたカルロが疑惑の目を向ける。


「ち、違います!」


 シャーリーは手と首を必死に振る。

 何もない、本当に何もないから。


「ファビアン、落ち着け」


 ローレンスが冷めた目でファビアンを見る。

 当のファビアンは自分が口走ったことを理解したようで顔を真っ赤にしている。


「間違えましたー。シャーリー様、王妃様が懐妊されました」


 慌てん坊のファビアンは少しばかり言葉を間違えたようだ。

 なんだと一斉にシャーリーから視線が外された。

 シャーリーはほっと安心するが、もう一度考えてから隣にいたエレノアとアンヌを見る。


「シャーリー様、ご懐妊です」


 エレノアとアンヌは飛び跳ねんばかりの喜びが表れていた。シャーリーも嬉しくなって、三人で手を取って喜んだ。


 イザベラが王妃になって二年が過ぎていた。

 周囲から懐妊の兆しがないことから新しい妃をと話が出ているのをシャーリーたちは知っていた。

 イザベラは懐妊しないことに焦る様子もなく振る舞っていたが心配はしていたようで、もし子ができなければグラベルに王位を継いで欲しいと考え始めていたのを皇太后から聞いた。

 下手をしたらイザベラがその立場を失うこともあるのに。

 シャーリーはエレノアとアンヌの三人でなにか出来ないかと薬室長やサイモン医師に相談して、懐妊しやすい薬草や食べ物があると聞いてそれとなくイザベラに差し入れをしていた。


「ご出産はいつですか?」


 アンヌはファビアンにきく。


「秋です」


 今度こそ落ち着いて答えるファビアン。


「美味しいものを沢山食べていただきましょう」


 エレノアは自分が出産するかのように嬉しくてたまらないといった様子で次々と栄養のある食べ物をあげていく。


「落ち着いて!」


 いつの間にかきていた薬室長に嗜めらる。


「そんなに焦っても駄目よ。今はつわりが大変みたいだから、食べられるものを食べていただくことを優先しましょう」

「それでしたら、薬室長、あれをお持ちしてもいいですか?」

「食事が召し上がれないようなので果物でも食べていただかないといけないわね」


 薬草畑の端で作っていたものがある。薬室長に許可をもらい、カルロに生育方法を聞いて三人で作っていた苺だ。

 三人は急いで収穫に行き、大きくて美味しそうなものを籠に並べる。


「どうかな、これが駄目ならもう少ししたらあちらも実がなるから」


 そう言ってシャーリーはさくらんぼの木を眺める。


「そうよね。これからだって色々実がなるものがあるからどれかは食べることが出来るわね」


 アンヌは温室を見る。

 温室には薬としても利用できる果実を植えさせてもらっていた。

 早速とれたての苺をイザベラに届けた。イザベラは眠っていると言うので顔見知りの侍女に渡して薬室に戻る。

 薬室に戻った三人はイザベラのためのチームが作られてその担当になっていた。


「食事から薬全て、サイモン医師から細かく指示があるからそれに従うように」


 シャーリーとエレノア、アンヌにルーカスとマースが担当になった。

 シャーリーたちはサイモン医師のところへ行く。


「王妃様のつわりは始まったばかりだ。今は食事もしっかり取れていない。毎日、何をどれだけ召し上がったかを確認して、足りない栄養を他で補う。ただし、無理はさせないこと。食べられないのなら水分だけでも取っていただくように」



 医局からの帰り道、ルーカスが話し始めた。


「僕の姉は果物を食べていました」

「私の妹は果物をすり潰してジュースにして飲んでいました」


 マースも話す。

 薬室長がどうしてこの二人を担当にしたのかわかった気がきた。


「お二人のご姉妹のことを詳しく教えてください」


 シャーリーたちは二人に話を聞くことにした。少しでも情報が欲しかった。無事、御子が産まれるために自分たちができることをしようと皆が思い始めていた。

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