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管理官の仕事 後編

 グラベルが向かった屋敷にノゲルはいなかった。


「ベック様は別のお屋敷に行くと帰られました」


 屋敷はこの近くで大きな食事処を営んでいる者の家だった。

 ここではベックと名乗っているようだ。


「どの屋敷に行くと言っていましたか?」


 アーリシュが聞いている。


「領主様のところに行くと言っていました」

「エレク様のところですか?」

「そうです。あちらでもベック様の治療が必要になったとかで」


 このリンゲル領の領主の名前をあげる。

 グラベルはエリクかアランのどちらかが病気にでもなったのかと心配する。


「奥方がご病気とか」


 グラベルはノゲルがこの屋敷に来ていた理由を尋ねる。 


「はい、ベック様から頂いた薬のおかげで妻は気分が良くなったと言っておりまして」


 屋敷の主人はノゲルの薬にとても感謝しているようだ。


「その薬を見せていただいてもいいですか?」


 グラベルは肝心なことを聞く。もしグラベルの予想通りならそれは薬ではなく毒だ。

 屋敷の主人は部屋の奥から小瓶を持ってきてグラベルに見せた。

 グラベルは瓶の蓋を取り匂いを嗅いだ。


「ご主人、この薬は使わないほうがいい」


 屋敷の主人の顔色が変わる。


「この薬になにか?」

「これは芥子の実の粉です。薬ではありません」


 グラベルの説明に屋敷の主人は動揺する。


「どれだけ飲みましたか」


 グラベルが確認するが、主人は座り込んで動かなくなった。

 仕方なく、側にいた使用人に奥方の処方を伝えた。


 グラベルは一旦宿屋に戻ると、ローレンスたちも戻ってきた。


「グラベル、ノゲルは芥子まで手に入れていた」


 ローレンスの方にも影響があったのか。ローレンスは薬の中身を確認した後、騎士団に事情を説明して芥子を買った者たちを引き渡してきたと言った。


「こちらも芥子の実の粉を渡していたのを確認した。ノゲルは領主のところに行っているらしい。今から行くぞ」 


 グラベルたちは急いで着替えて馬車に乗り込む。

エレクの屋敷に行くと弟のアランが出迎えてくれた。


「アラン殿、こちらにノゲルまたはベックと名乗る者が来ていないだろうか」


 グラベルが尋ねると、来ていますと言って部屋に案内された。

 部屋に入ると、領主のエレクの前に拘束されたノゲルがいた。


「グラベル様、ちょうど、ご連絡しようと思っていました」

「エレク殿、どうして?」


 ノゲルがどうしてここに呼ばれたのか、そして拘束されている理由を知りたかった。


「この者が、治療と称して毒を配り歩いているようだと聞きまして、呼んで話を聞いていたところです」


 話を聞くだけならどうして拘束までするのか。

 エレクはグラベルの視線に気づいたのかこれは逃げ出さないためだと言った。


「この者が持っていた薬です」 


 エレクがグラベルに小瓶を渡す。先程の屋敷で見たものと同じだ。

 瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ、間違いない。

 グラベルはその小瓶をローレンスに渡すとローレンスも匂いを嗅いで顔を顰めた。


「取り調べるならどうぞ」


 エレクはノゲルのそばを離れるが、騎士たちはノゲルを捕まえたままだ。


「どうして毒草の種を売っていた。そなたは薬剤師だったはずだろう」


 グラベルはかつての同僚に聞いた。


「ふん、薬剤師を辞めさせたのはグラベル、お前じゃないか」


 ノゲルはグラベルを睨みつけていう。恨まれる筋合いはないが、きっとあの時の処分に納得していないのだろう。


「自分のやっていたことは棚に上げてよく言うな」


 グラベルも今度こそはっきりと言う。

 王宮の薬室で薬剤師として仕事をしていたこの男は王都で別の顔を持っていた。

 自分が手を翳せば病気が治るとか、自分の持っている水は万病に効くとか言っては民からお金を受け取っていた。

 それが分かって、管理官としてグラベルはこの男の処分を決めた。


「私は病気で苦しんでいる者たちの心を救ったのだ。それを詐欺だと言うのならお前はどうなんだ」


 ノゲルの言い分は以前から変わっていない。この男に縋ったのは病が治ると信じたからだ、それは心を救ったと言うのとは違う。


「病が治ると信じた者たちを裏切ったのだ、詐欺と言って何が悪い」

「知っているか、ソフィーはお前の気を引きたくて自ら毒を飲んでいたよ。体調が悪くなればお前が会いに来てくれると嬉しそうに。愚かな女だな。父親も娘可愛さに犯罪に手を染めて、陛下が亡くなればお前が王となり、娘を妃にすると言っていたよ。あの二人を騙すのは簡単だった」


 両腕を縛られたままのノゲルは前屈みになりながら笑い出した。グラベルは手を握りしめていた。


「あの二人は死んだよ。自分たちの罪を償うために。お前にも同じようにする」


 グラベルはノゲルを王都へ移送するように伝える。


「アーリシュ、騎士団に通達しろ。ノゲルが寄ったと思われる領地で毒草の種もしくは毒草を買った者たちに厳罰を」

「はっ!」 


 アーリシュが部屋を出ていく。

 ケリーとハンスに連れられてノゲルが部屋から連れ出されていく。


「グラベル、知っていたのか」


 ローレンスはソフィーが毒を飲んでいたことを聞いているのだろう。ローレンスから届いた調査書には書かれていなかったからだ。


「サイモン医師によると麻痺は残るが、体調になにか出ることはないと言われていた。それが年を追うごとに体に異常をきたすようになっていた。サイモン医師や薬室長は薄々気づいていたと思う」

「そうか」


 ローレンスが寂しそうに呟く。

 ソフィーの心の病はかなり前からあったのだろう。それが毒を飲めばグラベルが会いに来ると思わせてしまったのなら自分にも責任がある。

 中途半端な態度がソフィーにあのような行動をさせてしまったのだと感じた。


「そういえば、どうしてノゲルのことを知ったのですか?」


 グラベルは気になっていたことをエレクに聞く。


「少し前から毒を売っている者がいるという噂がありました。その者がよく行く屋敷に使いをだして呼び出しました」

「罠ですか?」

「領主が呼び出したとなれば薬は高く買ってもらえると考えるでしょう」


 エレクは被害が大きくなる前に捕まえないといけないと言っている。

 グラベルはすっかり領主としての威厳が出てきたエレクを見ている。


「ありがとうございます。助かります」


 グラベルがお礼を言うと、もう一つとアランが言ってきた。


「以前、お話いただいた薬草畑ですが、もしよろしければやってみたいと農民たちも言っていまして」


 これにはローレンスが喜んだ。 


「ぜひ、お願いします」


 シャーリーに話せることが一つ増えたのが嬉しくなる。

 グラベルはローレンスと一緒にノゲルの処分のために王都へ向かった。



○○○

「シャーリーに会っていかないのか?」


 ローレンスと陛下への報告を終えて王宮内を歩いている時に聞かれた。


「このまま帰るよ。薬草畑も始めたばかりだし、あまり留守にはできないから」 


 グラベルとローレンスでノゲルのことを陛下に報告すると、陛下は直ちに処分を決めた。明日には処刑されるという。それを待つことなくグラベルはヴォルスク領に戻ることにした。

 やっと全てが片付いたのだと安堵した。陛下らかもよくやったとお褒めの言葉をもらった。しかし今の自分ではまだ、シャーリーの前には立つことは出来ないと改めて感じた。

 陛下の言葉ではないが、もう少し頭を冷やすことにする。


「陛下はもう怒っていないよ」


 ローレンスは帰ってきてもいいというが、自分のけじめとしてまだ足りないと思う。


「もう少しだけヴォルスク領にいるよ」


 グラベルはローレンスに告げると馬車に乗り込んだ。ローレンスはすぐそこに薬室はあるのにとブツブツ言っていた。

 グラベルは王都の景色を眺めながいつか胸を張ってここに戻れるようにと願った。

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