管理官の仕事 前編
書類を書きながら、昨日の薬草畑の様子を思い出す。
ヴァルミア領、ルブリン領、ケルナ領にロベルトの兄、サンミュセ伯爵が薬草畑の協力を申し出てくれたので、それぞれの薬草畑で作る薬草を決めて種を植えた。
昨日、薬草畑を見に行くと既に芽が出始めている薬草もあり、手応えを感じている。
グラベルは薬草畑に応じた対応の仕方や今後起こりうることなどを書き留めている。
順調にいけば数ヶ月後には収穫ができる。まだまだ気は抜けないが諦めずにいたことが功を奏した。
リズバルク伯爵の提案で、各薬草畑には元薬剤師を何人か配置して、管理をしてもらっているのでグラベルの仕事は全体の状況を確認してまとめるだけでいい。
「グラベル、そろそろ時間じゃないか」
ロベルトがやってきた。
グラベルは書いていた書類をロベルトに手渡した。
「薬草畑を管理している者たちにこれを渡しておいてほしい。あとベルナルドに何かあればすぐ連絡するように伝えておいてくれ」
「分かったよ。すぐ帰れるのか?」
「分からないな、あそこにいることは確かなんだが」
「こっちのことは任せてくれていいよ」
今は兄の補佐をするため実家に帰っていたロベルトがグラベルの留守の間、領地を見てくれることになっている。
グラベルは急いで着替えた。今回は事情があってグラベルとアーリシュは質素な服装と馬車をつかって移動する。
ロベルトに見送られながら馬車に乗り込んだ。
数日前、ローレンスから手紙がきた。それに書かれていたのはローレンスが薬剤師試験の時に見た祈祷師がリンケル領で毒草を売り捌いているといった内容だ。
今回は、その祈祷師を捕まえるためと、毒草を回収に取り締まるために出かける。
「グラベル様、あの祈祷師ですが、どうやらレヌアイ子爵とも繋がりがあったようです」
アーリシュから調査書が渡された。
グラベルは陛下からどうしてそこまでソフィーのことを嫌っていたのか、またレヌアイ子爵の爵位を拒んだのか不思議に思っていた。
その理由をローレンスが調べてくれていた。
自分が見えていなかったものがあったということだ。
陛下はそのため、グラベルの提案も最低限に、その被害もできるだけ抑えられるようにと、王妃や皇太后を使ってまでシャーリーを守っていた。
目的地に着いたグラベルは馬車を降りた。
「グラベル、こっち」
呼ばれて振り返るとローレンスがいた。側にはケリーとハンスもいる。
「調査書、読んだか?」
「読んだ」
短く言うとローレンスはすぐ歩き出した。
「この先の宿屋に泊まっている。宿屋の主人には話をつけてある」
ローレンスを先頭にグラベルたちは側に立つ大きな宿屋に入る。
ローレンスが言っていたように宿屋には話が着いているようでグラベルたちはすぐに部屋に案内された。
「こんなに大きな宿屋に泊まっているのか」
グラベルはもっと小さくて目立たないところに泊まっていると思っていた。
「人は多いと紛れることが出来るからだと思います」
アーリシュが宿屋の中を見渡しながら言う。
一階の受付を入ると大きな部屋がありそこで食事を摂ることが出来るようになっていた。宿泊部屋は二階と三階にあって一階の大部屋以外は人と合うことはなかった。
確かに人の出入りは多いようだ、それも仕事でこの街に訪れた者や旅行できた者たちがほとんどだ。大部屋では周囲を機にする様子もなくみんな自分たちの仲間で集まって食事をしている。頼むと部屋まで食事を運んでもらえると言っていた。
「取り敢えず、お茶でも飲もう」
ローレンスが先程、宿主の持ってきたお茶を入れ始めた。みんながテーブルを囲んで椅子に座る。
「前に、ケンテル領に視察に行ったことがあっただろ」
ローレンスがグラベルを気遣いながら話す。
「薬草畑にしようとしていたな」
「結局駄目だったけど。その時、毒草を売っている旅行者がいると聞いていた。その旅行者をケリー殿とハンス殿に探してもらっていた。やっと見つけたよ」
「旅行者か」
グラベルは旅行者の話は聞いていたが、あの当時そこまで頭が回らなかった。
「その旅行者がこのリンゲル領にいるのか」
「ケンテル領の農民たちに聞いて人相書きを作りました。それがこれです」
ハンスが差し出した紙にはあの祈祷師こと元薬剤師、ノゲルが描かれていた。
「旅行者が向かったと思われるところへ行き、ノゲルを探したところここに辿り着きました」
今度はケリーが書類を出してきた。
そこにはノゲルが毒草を売ったとされる人物たちとここに来るまでに寄った領地が書かれていた。かなりの領地に寄っているのが分かった。
「レヌアイ子爵の本邸と別邸にいた使用人たちをあたり、話を聞きました。レヌアイ子爵とソフィー様の繋がりもわかっています」
ハンスから渡された資料に目を通す。
レヌアイ子爵はノゲルをソフィーに近づけただけでなく、以前、偽医者や偽薬剤師を送り出していた団体の黒幕がレヌアイ子爵だったことが分かった。
レヌアイ子爵は狡猾にソフィーを使い、グラベルに近づくものを排除し、グラベルがソフィーから離れないように仕向け、更に陛下の治世を不安に貶めグラベルがその地位につくことを企んでいた。
グラベルはレヌアイ子爵とソフィーにずっと騙されていたのだ。とんだ間抜けだ。
「私は利用されていたのだな」
「仕方がないよ、グラベルの立場はそう思わせるものだから」
ローレンスが言う。
「そうだな」
グラベルは自嘲気味に笑った。
ローレンスはグラベルのその立場に靡かないことを知っている。だからこそ信頼できるのだ。
「グラベル、捕まえるよ」
ローレンスに言われて、グラベルもしっかりとローレンスを見て頷いた。
「じゃあ、作戦会議だ」
ローレンスの言葉でみんながノゲルを捕まえるための準備を始めた。
「作戦開始だ」
グラベルの一声でみんなが一斉に自分の役割のために動き出した。
グラベルはアーリシュを連れて数日前からノゲルの入り込んでいる屋敷に出向いた。
ローレンスはハンスとケリーで毒草を買ったと思われる人物のところへ向かった。




