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王妃候補 後編

 一人目の行方不明者、マーリンが姿を消したとされる道を馬車で走る。

 シャーリーは先程から無言だ。

「何を考えているのですか?」

 グラベルは聞いてみた。

「マーリン様はカースレー男爵の茶会に出られたということですが、男爵の屋敷からご自宅に帰るにはこの道は遠回りかと思いまして」

 グラベルはシャーリーが何を言いたいのか理解した。

 茶会に参加した人に聞いた話では、マーリンの乗った馬車はこの道に向かって行ったと言っていた。

 行方不明になった当初の取り調べとグラベルたちが聞いた内容とでは微妙に違っている箇所があった。この道もそうだ。

 ホルック伯爵は別の道を使用していたと言っていたが、実際は違っている。

「ここを通らなければいけない理由があった。そう考えてもいいだろうか」

「三人の行方不明者の話を聞いて、順番が違っていましたよね」

 グラベルは行方不明になった正確な時間を思い出していた。

 家の者が心当たりを探して見つからなかった為なのだが、知れ渡るまでの時間が意図的に変えられたようにも思える。


 マーリンが通ったと思われる道の近くにある関所や町に寄って話を聞いた。更にルイーザが行くと言っていた別荘への道もあたってみた。

 グラベルたちがローレル子爵邸を出る時、シャーリーは侍女と会話をしていた。

 そこで聞き出した事はルイーザの恋人のことだ。ここに来る前にその恋人を訪ねていた。

「待ち合わせをしていたのですが、自分が少し遅れてしまって。着いた時にはいなかったのです」

 恋人は先に別荘に行ってしまったと思い、急いで別荘に行ったがまだ来ていないと言われ、入れ違いになったと思い来た道を戻った。

 その恋人が一台の馬車とすれ違ったと記憶していた。

「乗合馬車のような大きめだったと記憶しています」

 グラベルとシャーリーは顔を見合わせた。二人はその付近を調べたところルイーザが乗っていたと思われる馬車を見つけた。

 使用したと言われた道から少し奥まった場所に馬車が乗り捨てられいた。

 ルイーザの恋人が見たと言う馬車は、近くの関所の兵士も見ていて、その馬車が向かった先が分かり、グラベルは自分の部下を応援に呼んだ。


 応援に呼んだ部下と兵士が到着して、シャーリーに馬車で待つように言ったが着いていくいい、屋敷の前まで来ていた。

 森に隠れるように建つ小さな屋敷は別荘のように見える。その門から少し離れたところにグラベルとシャーリーは身を潜めていた。

「馬車に残っていたほうが安全だ」

 グラベルが言うとシャーリーが素早く反対意見を言ってくる。

「私を守るために兵士を分散しては兵力が落ちてしまいます。それよりは一緒に行動したほうがいいと思います」

 側近のアーリシュとヨハンからもそのほうがいいと言われグラベルは仕方なくシャーリーと一緒にこの場にいる。

 応援に呼んだ兵士のうち二人が屋敷周辺を探っている。

 グラベルの隣にはアーリシュ、その後ろにシャーリーとヨハン、残りの兵士たちが腰を低くして屋敷の様子を伺う。

 暫くして偵察に行っていた兵士が帰ってきた。

「入口はあの門しかありません。門の周辺と庭に数人の傭兵がいました。あと馬車があって出かけるようです」

「まずいな。気づかれたか?」

 グラベルは門の辺りを見る。どうやら出かけるのは本当のようで門が開いて、傭兵たちが慌ただしく動き回っている。

「グラベル様、逃げられるかもしれません。急ぎましょう」

 シャーリーの言葉にアーリシュとヨハンが立ち上がる。

「行こう」

 グラベルも立ち上がり、門へ向かって走り出す。シャーリーと兵士たちもその後に続く。

 馬車は屋敷の入口につけられていた。やはり出かけるようで動き出す直前だった。

 グラベルたちは馬車の近くまで行くと、周辺にいた傭兵はグラベルたちを取り囲むように集まってくる。

 馬車には誰かが乗っているようだ。行かせるわけにはいかない。


 グラベルはシャーリーを自分の背後に隠すようにして剣を構える。

 傭兵は門の前に立ち塞いでいるグラベルたちを蹴散らすように襲いかかってきた。

 傭兵たちをかわしながら、馬車も出さないように気を配っていたグラベルが後ろを振り返るとシャーリーの姿が見えなかった。


「シャーリー!」


 焦ったグラベルは思わず叫んでいた。

「グラベル様、シャーリー殿はあちらに」

 ヨハンは傭兵の剣をかわしながらグラベルに言った。

 グラベルはヨハンが言う先を見るとシャーリーはいつの間にか剣を持って傭兵をなぎ倒していた。


 嘘だろ?


 グラベルは見間違いかと思ったが、確かにシャーリーだった。

 ドレスの裾を左手に持ち、間合いを詰める。動きに無駄がない。鮮やかな剣さばきに思わず見惚れてしまった。


 その後、傭兵たちは一か所に集められた。

 庭では兵士たちが傭兵を縛りあげていく。逃げないように剣を構えて見張っているのはシャーリーだ。


「アーリシュ、聞きたいのだが、あそこにいるのはシャーリーだよな」

 グラベルは傭兵の前で仁王立ちしているシャーリーを見ていった。

「そうですね」

「シャーリーは伯爵令嬢だよな」

「そうです」

「王妃候補と聞いた気がするのだが……」

「確かにそうです」

「王妃候補は何を基準に選ばれるのか?」

「……」

 アーリシュは答えない。グラベルから視線を逸らす。


 グラベルが見ているのに気づいたシャーリーが駆け寄ってくる。

「グラベル様、お怪我はありませんか?」

 笑顔で駆けてくるシャーリーに思わず後退りをしてしまった。

「グラベル様、伯爵令嬢です。シャーリー殿です」

 アーリシュの言葉で我にかえる。

「大丈夫だ。分かっている」

 グラベルはそう言うのが精一杯だ。まだ、頭は混乱している。

 狙われているわけではない。落ち着け!自分に言い聞かせ、平静を装う。


「グラベル様、急ぎましょう。犯人が逃げてしまいます」

 シャーリーの言葉に促されるようにグラベルは馬車に押し込められる。

 捕まえた傭兵たちは近くの騎士団に明け渡し、取り調べをしてもらう。

 グラベルは助け出した令嬢とシャーリーが言っていた匂いの場所へ向かった。


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