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北の薬草園 後編

 屋敷に帰ってきてからグラベルはリズバルク伯爵の話を反芻する。


 領内の薬を作る分だけでは足りない。

 国中の薬を作る分となるとやはり、北の地だけでも三、四くらいの領地で作らなければいけない。

 王都で作れる薬草を除いても数十種類の薬草が必要になってくる。残りの領地も回って協力者を集めるしかない。

 北の地での薬草畑の工法はリズバルク伯爵が協力すると約束してくれた。


「シャーリーに連絡しないのか」


 ロベルトが聞いてきた。


「候補地すら決まっていないのに連絡できるわけがないだろう」


 グラベルは何一つ決まっていないことで手紙を書くことを忘れていた。


「リズバルク伯爵の薬草畑のことでも書けばいいじゃないか」

「あっ!」


 そうか、シャーリーが教えた薬草畑の作り方で実際に出来ていたことを知らせればいいのか。しかし、グラベルは連絡をするのを止めた。

 知らないうちにシャーリーは北の地でも薬草畑を作れることを証明してくれていた。それなら、グラベルは候補地がしっかり決まってから連絡しないといけないような気がした。


「ロベルト、まだ行っていない領地も急いで回ろう」

「連絡しないのか」

「今は、連絡しない」


 ロベルトはシャーリーが来ないことに不満があるようでブツブツ言っている。


 アーリシュが出してくる地図を見る。まだ、半分以上残っている。返事を保留にしている領主もいるのでまだ完全に駄目だと決まったわけではない。

 グラベルは翌日からまた領内を回って薬草畑を作ってくれる領地を探して回った。


 一回りして、まだ一つも決まっていない。


「グラベル、まだやるのか?」

「まだだ」


 ヴォルスク領に帰ってきてから既に二ヶ月が経っていた。季節は冬から春になろうとしている。

 領内を覆っていた雪も溶け出し、少しずつ暖かくなっているのが肌で感じる。

 領内を何度か回っているが、仕事はそれだけではないので少しでも時間が出来れば一つ領地を訪ねるといった日々を送っていた。


「やはり難しいのかな」


 グラベルはベルナルドから聞いていた場所を確認する。もし、どこも薬草畑をしてくれなかった時は自分の領地で出来るだけ作れないかと考えていた。

 もう、畑を作れる季節になる。そろそろ決断しなければいけない時期に差し掛かっている。


「ベルナルドを呼んでくれ」


 グラベルは薬草畑と温室を作ることを決めた。まずは自分の領地で作ってからもう一度話をしてみよう。

 シャーリーになんて言うか。薬草畑が出来るところを探すと約束したのにそれを破ることになる。心に重いものが降りてくる感じがした。



○○○

「アーリシュ、ケルナ領とルブリン領の地図を出してくれ」


 グラベルは屋敷に帰ってすぐに執務室に籠る。


「グラベル、決まったのか」


 グラベルは一回り領内を回った後は、アーリシュだけを連れて領内を回っていた。

 近くを通りかかったついでとばかりに寄ったケルナ領とルブリン領の領主から薬草畑の協力を申し出てくれた。

 広げられた地図に先程の領主から聞いた場所に丸を付ける。


「ここか」


 ロベルトはすぐに分かったようだ。


「コモロフスキ伯爵とクオタバ子爵もやる気を出してきたな」


 もしかして、様子見をされたのか?

 それでもやると言ってくれただけでもありがたい。やっとシャーリーに連絡が出来る。そう思うとグラベルの心は軽く、ケルナ領とルブリン領に合う薬草を一気に書き出した。

 ついでにヴォルスク領の薬草畑で作る薬草も書き出し、それをベルナルドに見せた。


「この薬草より、別の薬草を作ったほうがいいかと思いますが」


 ベルナルドはこの地で二番目によく使われる薬草を作れと言ってきた。


「どうしてだ?」

「この薬草は一番よく使われる薬草です。それはヴァルミア領で作り始めたと聞いています。それもかなり多く」

「それは本当か?」

「はい、畑を管理しているヤンから聞きました」

「アーリシュ、リズバルク伯爵に会いに行くぞ」


 グラベルは部屋を飛び出した。何か考えがあるのだろうか。それを聞きたい。

 グラベルは馬車を急がせた。


 リズバルク伯爵邸につくと馬車から飛び降りるように出る。


「そんなに急いで、どうしたのですか」


 出先からの帰りなのか、リズバルク伯爵が馬車の窓から顔を出した。


「リズバルク伯爵、お聞きしたいことがあります」


 グラベルの慌てた様子を見ても落ち着き払った態度でリズバルク伯爵は馬車から降りる。


「どうぞ」


 リズバルク伯爵は屋敷に入るとコートを脱いで侍従に渡す。

 応接間に通されて、侍女がお茶を持ってくる。それを静かに見ているリズバルク伯爵。

 グラベルはすぐにでも聞きたい衝動に駆られるが、侍女が退出するまで待った。


「温かいうちにどうぞ」


 お茶を勧められて、グラベルは一口飲む。


「薬草を以前より多く育てていると伺いました」


 リズバルク伯爵はふっと笑う。


「早いですね」

「私の領内の温室を管理しているものが、ヤンから聞いたと言っていました」

「どこまで出来るか試してみようと思っただけです」

「どこまでとは?」


 試すとは何を?


「足りないのでしょう」


 確かに薬草畑をすると言ってくれたところは二つだ、グラベルの領地を入れても三つ。それの三つで北のみで使う薬草を作るとなると足りない。


「すべてご存知なのですね」


 先を見据えて動いていたのはリズバルク伯爵も同じだった。 


「私は薬草作りの専門ではありませんのでヤンに聞いて、取り敢えず一番多く必要になるもので作りやすいものを選びました」


 試してみるだけと言いながら、かなり広い畑で作ることにしたと聞いた。


「ありがとうございます」

「ヤンが言っていました。民のためを思ってやっていると。私も久しぶりに国のために動いてみようと思っただけです」


 薬草畑は一つ増えて四つになった。

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