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荒ぶこころ 後編

 ベルク侯爵について入った部屋はシャーリーの知らない場所で、初めて入る部屋だった。

 中には皇太后とイザベラが正面左に並んで立っていて、中央には入り口を背にしたソフィーがいた。

イザベラが立つ隣に薬室長、ローレンス、シャーリーの順に並んだ。一緒に来ていた侍女は部屋の入り口付近で立っている。


 執務室より広めだが、とても殺風景で寂しい感じがした。シャーリーは手元の箱を見て心配になってくる。


 ベルク侯爵は一旦奥の入り口に行くと、今度はレノックス伯爵とグラベルが部屋に入ってきた。

 グラベルはシャーリーたちの向かい側に立つ。

 グラベルを見つけてソフィーが駆け寄ろうとした時、レノックス伯爵から止められた。


「ソフィー様はその場でお待ちください」


 歩き出したソフィーは元いた場所に戻る。

 いつの間にか、グラベルの後ろにはアーリシュとハンスが立っている。シャーリーたちが入ってきた部屋の入り口に立つ侍女の側には衛兵が数人立っていた。物々しい雰囲気がシャーリーを不安にさせた。


 コツンと音がして陛下が部屋に入ってきた。その後ろにベルク侯爵が続き、その後ろにダルキス伯爵がお盆に乗せた瓶を持っている。さらにその後ろにはサイモン医師がいた。サイモン医師はグラベルの隣に立つ。


 陛下が部屋の一番奥の椅子に座ると、その横のテーブルにダルキス伯爵が持っていた瓶をお盆ごとおいた。


「シャーリー、私からの褒美は届いただろうか?」


 突然言われて、シャーリーはびっくりする。あの白紙の紙のことだろうか。


「こちらの箱が届きました」


 シャーリーはこれが褒美なのかと疑問に思いながらも答えると陛下は手を差し出した。

 皇太后が箱をと言うので、シャーリーは陛下の前に進み出る。ベルク侯爵がシャーリーから箱を受け取ると陛下に見せた。

 シャーリーが元の場所に戻ると陛下は箱を眺めていた。


「私は薬を用意した者へ届けよと申したはずだが、どういうことだろうか」


 そういい、部屋の入り口に立つ侍女に問いかける。側の衛兵に引きずられるようにソフィーのところまで連れてこられる侍女の顔は青ざめていた。


 薬?


 私も薬室長も今日は陛下の薬を頼まれていないはずだ。


「シャーリーからだと今日、執務室に薬が届けられた。サイモン医師よ、今日、シャーリーに薬を頼んだか?」


 穏やかに問う陛下だが、その言葉の意味を知るものは顔を歪めた。


「本日、陛下の体調に不安はありませんので薬の処方はしておりません」


 サイモン医師がはっきりと言う。


「ベルク侯爵、今日シャーリーは薬を作っただろうか」


 誰かが、シャーリーの名を騙って陛下の薬を届けたのだと分かる。


「本日、サイモン医師からの処方はありませんでしたので薬作りはないです」


 ベルク侯爵も言う。


「薬室長、本日シャーリーはどこにいた?」

「今日は朝から薬剤師見習いたちと薬草の管理と次の試験のための授業をしておりました」

「シャーリー、今日、予に薬を作ったか?」

「本日、サイモン医師、ベルク侯爵より依頼はありませんでしたので薬は作っておりません」


 シャーリーは誤解のないようにはっきりと言う。


「おかしいではないか、そなたはシャーリーからだとこの瓶を持ってきたな」

「そ、そう聞いておりました」


 ガタガタ震えながら侍女が答えている。


「もう一度聞く、この箱は薬を用意した者へ届けるように言ったはずだが、届け先を間違えたか?」


 侍女に視線が集まる。

 その侍女はソフィーを見ているが、ソフィーは素知らぬ顔をしていた。

 そういうことかとシャーリーは納得する。それにしても陛下に薬とは。

 陛下も既に気付いているようで、ソフィーの反応を見ている。


「連れてまいれ」


 陛下の一言で、レヌアイ子爵とヨハンが衛兵に連れられてきた。衛兵に押さえつけられるような形で座らされている。

 ソフィーの前に腰を落としている二人を見てもソフィーの表情は変わらない。


「ソフィー、そなたの所業は全て調べがついている」

「陛下、ソフィーは心を病んでいて正常は判断が出来ないのです」


 グラベルが前に出て話をした直後、バンと大きい音が部屋中に響いた。シャーリーはびっくりして陛下を見た。

 陛下が側のテーブルを叩いたようで、乗っていた瓶が転げ落ちた。


「いい加減、目を覚ませ!」


 陛下はグラベルに向かって声を荒げた。グラベルが陛下の元へ行こうとするのをアーリシュとハンスが必死に止めている。


「陛下、ソフィーも分かっています。これ以上は」


 グラベルは必死にソフィーを庇おうとしているのがわかる。


「これ以上とは予を殺すこと以上に何がある?」


 陛下はグラベルを見ていうが、グラベルは黙り込んでしまう。


「レヌアイ子爵、そなたは娘が毒草を育ててそれを貴族の娘たちに送っているのを知っていたな」


 レヌアイ子爵は目を瞑っている。既に諦めた様子に見える。

 シャーリーたちが先日、ケンテル領で調べたことは薬室長に報告していた。


「ヨハン、そなたはグラベルがそなただけでも助けようと北の領地へ行かせたのに、どうしてあの者を助けるためにそれを無下にした」


 ケンテル領で毒草が一夜でなくなったのはヨハンが持ち出したと農民たちが証言している。

 グラベルはそれを危惧して王都やケンテル領から遠い北のヴォルスク領行きを命じていたのだ。


「もとより、グラベルとの婚姻を認めることはできなかったがグラベルがどうしてもというので婚約だけは認めた。何もなければそれでいいと思っていたが、そなたはいつまで経ってもそれを理解しないまま己の欲望を優先したのだな」


 陛下は悲しそうにいうと席を立った。


「シャーリー、行きましょう」


 イザベラに声を掛けられてグラベルを見るとアーリシュとハンスに連れられて部屋を出て行くのが見えた。

 ソフィーを見ると口元をゆっくり上げて笑みを浮かべいた。

 シャーリーはそっと目を逸らした。

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