ホルック領の薬 後編
「シャーリー、薬剤師見習いたちがホルック領の視察から帰ってから以前にもまして真剣になっているのだけど何かあった?」
カルロが聞いてきた。
ホルック領の薬草畑の視察はシャーリーが一人で薬剤師見習いたちを連れていた。その間、ローレンスとカルロは残った薬剤師見習いたちに試験勉強を教えていた。それが、ホルック領の視察に行った薬剤師見習いたちが凄く真剣に、やる気に満ちて帰ってくる。
疑問に思ったカルロはホルック領で何かあったと推察したらしい。
「農民たちの知識の深さと、ホルック領での薬草の管理に刺激を受けたらしいです。あと、冬風邪の薬を薬室で作ることを伝えました」
シャーリーは王都での薬を全て薬室で作ることをホルック領で伝えてきた。その結果、薬剤師見習いたちは試験に合格しないと足を引っ張ると認識したようで、必死に勉強している。
試験が終われば、今度は冬風邪の薬作りを学ぶ。既に薬室にはホルック領から練習用の薬草が届き始めていた。それを確認しながら、シャーリーは明日からの試験を楽しみにしていた。
テーブルに薬草が五種類並べられている。一人一人、薬室に作られた個室に呼ばれて入っていく。
薬剤師見習いは真剣な眼差しで薬草を見つめ、二種類の薬草を選んだ者はそのまま調合へと進む。
冬風邪の薬同様、この試験の薬草もホルック領で作られた薬草を使っている。午前と午後に分けられて試験は行われている。
いつも講義をしている広間に仕切りをつけて隣の人の作業を見ることができないようにしている。
今日は試験官のサイモン医師、ナイジェル医師、薬室長とローレンスが薬作りをしている広間で監視も兼ねて見ている。
カルロとシャーリーは薬草を並べて、薬剤師見習いに薬草を選んでもらうまでを担当している。
待機している薬剤師見習いたちは試験が始まる直前まで本を読み復習している。その間、時間ができたカルロは試験に使う薬草を真剣に見ていた。
「どうかしましたか?」
何か問題でもあるのかと心配になってくる。
「シャーリー、これってホルック領で採れたものだよね。肥料は何を使っているの?」
「あの地方で昔から使われている肥料だと言っていました。何か問題でも?」
シャーリーも薬草を見るが、カルロが何を言いたいのか検討もつかない。
「この薬草はいつ植えたんだっけ」
「先日、ブランデン様が薬草畑を増やそうかと考えられていると聞いたので追加で薬草を育ててもらいました」
「やっぱり」
カルロが一人、納得している。
「生育が早いと思う。それに収穫量もかなりいいよね」
確かにローレンスが計算した量よりもかなり多くの量が収穫できている。
「肥料ですか?」
「たぶん。どんな肥料か聞いている?」
カルロに聞かれて、シャーリーは思い出す。
ルイーザが報告書の中で肥料のことを書いてきたことがあった。急いで自室に戻りその報告書を持って戻る。
「ここに肥料のことが書かれています」
シャーリーは報告書をカルロに見せる。
「貝殻か……」
ホルック領では昔から収穫後の畑や田圃に貝殻を焼いて砕いた粉を巻いていた。さらに畑で育てている薬草にも追肥として使っていると書かれていた。
シャーリーはカルロの次の言葉をじっと待っていた。
「あっ。牡蠣か」
「カルロ様、なんですか?」
シャーリーは待ちきれなくてカルロを急かす。
「ごめん、ごめん。牡蠣殻を焼いて粉にするんだ。それが土の状態を良くする。さらにここに書かれているように薬草の状態を見て追肥としても使っている。それが収穫量増加と生育を良くしているんだよ。シャーリー、これブランデン殿に伝えて陛下に報告してもらおう」
「それは……」
シャーリーは嬉しくなった。これはブランデンの爵位に近づいたのではないだろうか。
「今後の薬草畑を作るときに役立つものだよ」
シャーリーは嬉しくなって思わずカルロに飛びついた。
「シャーリー、喜ぶのはまだ早いよ。これだけではまだ足りないんだよね。みんなが納得するもの、頑張って用意しよう」
カルロも気にしてくれていたようだ。シャーリーは急いでブランデンに連絡を入れた。しっかり管理された薬草園の薬草よりも大きくしっかりとした薬草はシャーリーも以前から気になってはいたが、理由まではわからなかった。
翌日、薬室長とブランデンが陛下に報告すると、今計画している薬草畑にその方法を取り入れるようにと命が下された。
そしてその日、薬作りの試験の合格発表があった。三人不合格になったが、薬室長が追試を手配してくれて、ローレンスとカルロがつきっきりで教えて、三人は無事合格した。
ホルック領から運び込まれる薬草をカルロは念入りにチェックしていく、やはり全ての薬草の生育がいいようだ。
薬剤師見習いたちに医局で使う薬作りを教え始めると同時に、冬風邪に薬作りの練習も並行して始められた。




