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王妃候補 前編

 馬車の中で行方不明になっている令嬢のことをシャーリーに説明する。


 これから向かうのは、一番初めに行方不明になったホルック伯爵令嬢マーリンの屋敷。

 マーリンは茶会の帰りに馬車ごと行方が分からなくなっていた。


 屋敷に着いて詳細を聞くが、分かったことと言えば、付いていた侍女が二人と護衛が二人も一緒にいなくなったというくらいだ。


「茶会に行ったことは確かなようですが、帰ってこないので心配しています」

 ホルック伯爵は項垂れて言葉を返す。

「茶会は出られたのですか?」

 グラベルが確認すると、同じく茶会に参加した人たちからもマーリンは参加していたと聞いたらしい。

 取り敢えず、帰り道に使用しそうな道を聞いて屋敷を後にする。


「どう思った?」

 グラベルはシャーリーに聞いてみる。

「馬車ごとというのが気になります」

「確かにそうだな。護衛が二人と言うことは騎乗していたと考えていいだろう」

「帰り道に使用したとされる道を調べてみたほうがいいですね」


 ホルック伯爵は既にその道は調べ尽くしたと言っていた、報告書を見る限り騎士団も調べたようだが、グラベルも一応見ておきたかった。馬車と騎乗の護衛二人が姿を消すのは容易ではない。

 方向的には二人目の行方不明の令嬢の屋敷が近かったので、先にそちらに行くことにした。


 二人目はローレル子爵令嬢、ルイーザだった。

 彼女は夜、屋敷から連れ出されたようだ。ローレル子爵自ら説明してくれた。

 屋敷の応接間に通されたグラベルとシャーリーはローレル子爵と向かい合うかたちで座っていた。


「夕食を家族で摂って、部屋に戻るところまでは皆が見ていました。その後、暫くして侍女が部屋に行くと既に娘の姿はなかったのです」

「誰かが侵入した形跡は?」

 グラベルは一応聞いてみる。

「ありません。娘の部屋は二階ですし、屋敷の中でも奥まった場所にあります。誰かが入り込めばすぐ気がつくはずです」

「部屋を見せていただくことはできますか?」

 シャーリーが聞く。

 ローレル子爵は側にいた侍女に案内するよう言う。侍女についてグラベルとシャーリーはルイーザの部屋に行く。

 グラベルは女性の部屋をあまり見るのは憚られたので入り口付近から中の様子を伺った。

 代わりにシャーリーが部屋の隅々までしっかり見ている。グラベルは連れてきて良かったとシャーリーの行動を見ていた。


 グラベルの側にいた侍女が落ちつかない様子でシャーリーを見ていた。グラベルが侍女を見ているのに気がつくと視線を逸らす。何があるのか?

「ここに何があったのですか?」

 シャーリーが侍女のところまできて手にしていた本を見せると、侍女が怯えている。

「言わなければルイーザ殿を見つけることは出来ませんよ」

 グラベルが言うと侍女は手紙を差し出した。

 侍女はルイーザがいなくなった後、手紙を見つけたと言う。グラベルがその手紙を読み、シャーリーに渡す。

「もう一度、ローレル子爵の話を聞く必要がある」

 グラベルの言葉に、シャーリーはそのようですねと言いルイーザの部屋のドアを閉めた。


「どういうことか説明していただけますか?」

 先程の応接間に戻りグラベルは手紙を見せた。

 ローレル子爵は気まずそうグラベルを見ている。

「話していただけないのなら、陛下にこのまま報告するしかありませんが」

 グラベルは少し脅しをかけてみる。

「娘は、ルイーザは王妃にはなりたくないと言って、屋敷を出てしまいました。別荘に行くと侍女に言い残して屋敷を出たのですが、別荘には行っていませんでした。行きそうなところは全て探したのですが、見つからなく王妃候補になっているのに家出をしたとは言えませんでした」


 申し訳ありませんと頭を下げたままのローレル子爵をグラベルは見ていた。

 確かに少しでも対応を誤れば不敬ととられても仕方がない。それでも、先ずは本人を見つけ出す事が先決だ。

「この件、一旦預からせていただきます。どちらにしても、行方が分からなければ調べなくてはいけませんから」

 その後、グラベルとシャーリーは本当のことを聞き出し、ローレル子爵邸を後にした。


「あの部屋、屋敷の人以外の者が入り込んでいますね」

 馬車に乗り込んですぐにシャーリーが言った。

「あの部屋って、ルイーザ殿の部屋ですか?」

「そうです。部屋のいたるところに不自然な、誰かが何かを探したような形跡が見受けられました。それと、微かに匂いも」

「匂い?」

「はい。香水だと思います。令嬢の部屋だけに香っていました」

「誰かが入り込んだのですか?」

「ルイーザ様は別荘に行くと言って屋敷を出たのですよね。その後、誰かがあの部屋に入ったとしたら誰でしょうか」

 グラベルは「あっ」と声をあげた。

「もう一人の行方不明の令嬢の屋敷に行ってみませんか?」

 グラベルはシャーリーの意見に同意した。


 三人目の行方不明者はラウエン伯爵の娘、イザベラだった。皇太后の従姉妹にあたる令嬢で王妃候補の中で一番の有力候補と言われているらしい。

 グラベルは王妃候補にあまり関心がなかったので知らなかったが、シャーリーが教えてくれた。

「グラベル様はお妃様を迎えるつもりはないのですか?」

 シャーリーに呆れ気味に言われ、グラベルが「ない」と返事をすると義理の姉になるかもしれない人物に、もう少し興味を持ってくださいと言われた。

 王妃に命を狙われることもあるのだと言われグラベルは納得する。

 ラウエン伯爵の屋敷に着いて、貴賓室に案内される。

 グラベルとシャーリーはラウエン伯爵と侍女から話を聞くことが出来た。

「イザベラ様は夜遅くまで書物を読まれていました。よくあることなので、特に気にしておりませんでした。お飲み物をお持ちして下がりましたが、それがイザベラ様を見た最後になります」

 侍女は翌朝、イザベラの部屋に行くと姿がなかった。

 ベッドに入った形跡も見受けらなかったことから、イザベラが眠る前に連れ去られたと考えられた。

「実は、応接室の窓が少し開いていまして、そこから侵入したのではないかと」

 ラウエン伯爵か応接室に案内してくれた。

 グラベルとシャーリーが応接室を見渡し、窓を開けて調べる。

「確かにここからだと入りやすいですね」

 シャーリーは庭を見て言う。

 屋敷の中ほどに設えられた応接室は周囲に樹木が多数あり、隠れるには都合がいい。そして一階にあるので忍び込もうと思えば容易だ。

 グラベルは庭から応接室、イザベラの部屋へ続く経路を確認する。

 応接室からイザベラの部屋までも比較的近く、深夜であれば人目につきにくいことが分かった。


 二人はラウエン伯爵の屋敷を出て、次の目的地である一人目のマーリンがいなくなった場所へ向かう。

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