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ケンテル領 後編

 翌日からケンテル領の視察が始まった。


 ソフィーの案内でグラベルとカルロが土の状態や周囲の状況を確認していく。その少し離れたところでローレンスが作付けできそうな薬草を考えていた。シャーリーはその横で畑の周囲を絵に描いていた。王宮に戻ってからそれを参考に薬草畑の手順を考えてるためだ。


 ソフィーは嬉しそうにグラベルを見ている。それに気づいてグラベルはソフィーに微笑みかける。

 シャーリーが見ているのに気づいたソフィーは笑みを見せながらグラベルの腕に自分の腕を絡ませた。

 シャーリーはそっと視線を外す。手元のノートに書くふりをしながらローレンスに聞いた。


「ローレンス様は王城の寮に入っているのですよね、わたしもそこに入れますか?」


 ローレンスは驚いてシャーリーをみるが、ソフィーの視線に気づいてローレンスも手元のノートに視線を移す。


「手続きをすれば入れると思うけど、あの部屋を出ることはやめたほうがいいよ」

「あの部屋を出たい」


 思わず漏れてしまった言葉に、これ以上何かを発することがないように唇を噛んだ。


「シャーリーの気持ちはわかるけど、それをするとイザベラ様が悲しむよ」

「イザベラが?」

「うん、ときどきシャーリーと一緒に帰っているよね。それが楽しいらしい」

「ですが、あの部屋にいることはグラベル様が困るのでは」


 シャーリーは自分の理由をグラベルの理由に置き換えた。


「もう少しだけ待てないかな。僕もカルロもシャーリーが見たくないものをできるだけ遮るから」


 シャーリーの見たくないものはソフィーとグラベルの幸せそうな顔だ。もう少し待つとはどう言うことだろうか、それにしてもローレンスとカルロはその事に気づいているのだろうか。


「ローレンス様は私の見たくないものをご存知で?」


 今度は顔をあげてローレンスを見た、なんと言うのだろうか、心臓の音がどんどん大きくなっていく。


「それは秘密でしょう」


 ローレンスは人差し指を口元にあてて笑顔を見せる。秘密でいいんだと安心した。この気持ちは口にしてはいけないものだ。シャーリーの心の中だけにとどめておこう。



「二人とも何しているの」


 カルロが走ってきた。


「仕事している?僕にだけ押し付けないでよ」


 カルロは二人だけずるいと言っている。


「カルロ、羨ましいだろう」


 ローレンスは何を羨ましいのか分からないがカルロを揶揄っている。


「ちゃんと仕事していますよ」


 シャーリーはカルロにノートを見せる。納得したのかカルロは行くよと言いながら歩き出す。

 シャーリーとローレンスは顔を見合わせてカルロの後ろをついて行く。

 その後、何箇所かの候補地の視察を終えて屋敷に戻る。


 夕食後、今日見た候補地の最終確認をするということで広間に集まった。

 テーブルに広げられた地図にシャーリーが書いた周辺の様子、カルロが確認した土の状態を並べて、ローレンスがそれに合わせた薬草の候補を並べた。


「カルロ、土の状態はどうだった」


 ローレンスがカルロに聞く。


「ほぼ、手を加えなくてもいい状態だった。ただ、数カ所は土が痩せていたからそこを候補地にするのなら土作りから始めないといけない」

「ローレンス、ここは何を植えるの?」

「そこは……」


 ドアが開いてソフィーが入ってきた。ソフィーの後ろには侍女がお茶を持っていた。


「みなさんにお茶をお持ちしました」


 ソフィーはテーブルに近づき、そこに侍女が持ってきたコーヒーを並べる、ソフィーがさりげなく部屋の中を確認しているのがわかる。きっとグラベルがいるか見にきたのだ。

 シャーリーが図書室で調べ物をしている時にやってくる様子に似ている。

 ローレンスがそっとシャーリーの前に立ち隠してくれる。

 シャーリーはほっと息を吐く。嫌だと言う感情が増していく。これは嫉妬だ。自分の中で大きくなっていく感情をどうにか抑える。

 その時、部屋のドアが開く。


「ソフィー、ここにいたのか。部屋に戻りなさい」


 グラベルがソフィーを見つけて声を掛ける。


「お茶をお持ちしましたの」

「今日は動き回ったから早めに休んだほうがいい」


 グラベルが言うと素直に部屋を出ていく。


「後で、報告を聞く」


 グラベルがそう言い残して部屋のドアを閉めた。やはり、寮か実家に戻ろうと思った。


「中々、強い方だね」


 カルロは先程のソフィーが持ってきたコーヒーの匂いを嗅いでいた。お盆にコップを全て乗せ、窓際に行くと窓を開けてコップの中身を全て捨てていた。


「毒か?」


 ローレンスが聞く。シャーリーは何が起こっているのか分からなかった。


「ヒ素だね」

「シャーリー、ここでの食事に気をつけるように」


 ローレンスがシャーリーを見て言う。


「僕たちがそばに居るから」


 カルロはシャーリーの心配を和らげようとしているようだ。


「はい」


 シャーリーはわからず返事をした。


「じゃあ、続きをしよう」

 

 ローレンスの言葉で三人は再びテーブルの上の書類を見る。


「ここで作れるのは限られたものしか出来ないね」


 カルロはローレンスが作った薬草一覧を見て言う。


「気候がここまで違うと薬草も限定されるから」


 ローレンスも地図を見ながら薬草を作る場所に適したところを指差す。


「シャーリー、これはなんだ?」


 ローレンスがシャーリーの書いた絵を見て聞いてきた。


「あっ、これは枯れた草が積まれていました。近くにいた人に聞いたら、人手が足りなくて片付けられないと言っていましたからいずれここの草は処分されると思います」

「ここは?」


 カルロはローレンスが指さしたところをもう一度聞いてきた。そこには茎に赤い斑点が付いているのが何本かあった。


「これは雑草の茎だと言っていました」


 シャーリーが農民から聞いた話を伝える。


「臭いは?」


 カルロが聞いてきた内容にシャーリーは、はっとした。


「臭かったと思います」

「シャーリー、ここってあの時の?」


 ローレンスが聞いてきたのを理解した。


「そうです。明日、ここを燃やすと言っていました」

「時間は?」


 カルロが詰め寄ってくる。


「午前中に残りの雑草を集めて、午後から燃やすと言っていました」


 シャーリーは記憶を辿りながら答える。


「ローレンス、明日の視察はここにしよう」


 カルロは真剣な顔で言った。


「グラベルにここをもう少し詳しく調べたいと言っておこう」

「僕がグラベルとソフィー様の気を引いておくからローレンスが回収して」


 カルロがローレンスに言うとローレンスも分かったと頷く。


「誰が栽培したのか調べないといけませんよね」


 シャーリーはローレンスが言っていた、隠している者がいると言う話を思い出した。


「明日、あの場所にいる農民に話を聞こう。それはシャーリー、お願いできる?」

「分かりました。グラベル様とソフィー様に気付かれずにですよね」

「そう」


 ローレンスとカルロが声を揃えて言った。


 翌日の視察先は予定通り、絵に書かれていた毒草のある場所へ向かった。

 理由は薬草畑の最終候補地を決めると言う名目で。

 グラベルはソフィーの案内で農地を見て回る。その隙にローレンスが毒草の回収、シャーリーが農民に話を聞く。

 カルロはローレンスとシャーリーが動いているのをグラベルとソフィーに気づかれないように周囲に農民を集めて隠した。

 カルロはローレンスの異変に気づくがそのままグラベルとソフィーの気を引き続けた。


 次の視察先に向かうため、馬車に乗り込んだ三人は難しい顔をしている。


「誰かが、隠したと言うこと?」

「昨日より草の量が減っていました」


 シャーリーは草が積まれた山が昨日より低かったこと、周囲に草が散らばっていたことを伝えた。


「ここに一本だけ辛うじて残っていた」


 ローレンスが手のひらに広げた布の上には一本の赤い斑点が付いている茎があった。昨日、シャーリーが見たのはもっと長くて沢山あった。


「ここにあるのはわかったけど、まだあるはずだよね」


 カルロは諦めていなかった。ローレンスも同じようで、気になるところがあると言った。


 翌日、グラベルたちとは別行動でシャーリーたちは、ローレンスの気になるところに寄ってから帰る事にした。

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