新米薬剤師と薬剤師見習いたち
「どれだけの合格者が出たのかしら?」
イザベラがカルロに聞いている。最近暇さえあればイザベラが薬室に来ていた。
「前半が八人、後半が六人で計十四人です」
カルロが書類を見ながら答えている。
「思ったより少ないのね」
イザベラがどうなのかしらと首を傾けている。多分、グラベルが推し進めようとしていることを心配しているのだろう。陛下も気にしていると聞いたことがある。
「量があっても質が悪ければ意味がないです」
カルロがイザベラの気にしていることを察したようだ。
「そうよね、この後しっかり薬剤師の仕事をしてもらえればいいのよね」
少しだけ安心した表情を見せる。
「シャーリーの薬剤師試験合格のお祝いをするからカルロも来てね」
イザベラはカルロに言うと、ローレンスの部屋を覗き、ローレンスにも声をかけていた。
ローレンスは引き続き、薬室長の仕事を手伝うことになっている。
薬室長はというと、許可制になった薬剤師のことでサイモン医師と陛下のところへ報告に行っている。
試験の間、カルロは合格者が今後覚える内容をまとめていた。薬剤師見習いの教育に関しては全般をカルロが受け持つことになった。その教材や授業の内容など準備に忙しい。
その横でシャーリーはホルック領の報告を読んでいた。
ルイーザからの報告では収穫量は前年より多くなっていると書いてあった。品質も先日送ってもらった薬草を見る限り問題ないだろう。残るは、作業工程だが、それは一度ホルック領に行ったほうがいいと考えていた。
農民たちの話を聞きたいので、どこかで時間を取ろうと思っていたが部下を持つとなるとそれも難しい、それに部下を連れて行くのかと疑問に思った。
「カルロ様、ホルック領に行きたいのですが」
カルロは顔を上げてシャーリーを見る。
「そうだ、考えていたんだけど、合格者には一度、ホルック領の薬草園を見てもらいたいと思っているけどいいかな」
「丁度、私も同じことを考えていました。連れて行った方がいいかと」
「見た方が良いと思う、いずれ地方の薬草園の管理を担当性にして見ることになるからその練習にもなるはずだよ」
「よかった、ホルック領の農民にも話を聞きたかったのです。それを今後の薬草園にも役立つのではないかと考えていたので」
「やることは沢山あるから、人手は多い方がいい」
カルロは笑っている、多分、今回の試験合格者はカルロの眼鏡にかなった者たちなのだろう。仕事の合間を縫って、何度も試験会場に足を運び受験者を見に行っていた。
どう言うわけがあの二人も合格していた。いい成績を残しているよとカルロが言うとローレンスは心配だと言っていた。
薬室に合格者が集められていた。薬剤師を増やすことを想定して、かなり前から新しい薬室が作られていた。
今度はグラベル、ローレンス、カルロ、シャーリーのへやの他に薬剤師見習いたちの部屋もいくつかあり数人で使うように作られている。さらに調合室や講義などをおこなう広間、に休憩室もあった。
薬棚のある薬局は今までよりも広く、薬棚も増えていた。
試験の間にシャーリーたちの荷物の引っ越しを終えて、新しい薬剤師見習いを迎え入れるばかりになっていた。
薬室長から挨拶が始まっている。
合格者たちを前にグラベル、ローレンス、カルロ、シャーリーの順に並んでいる。これからの説明が終わると、それぞれ誰が教育係になるか発表がされた。
アンヌとエレノアはローレンスとカルロが担当になった、ローレンスとカルロには五人、シャーリーには四人の部下がつくことになった。
グラベルは管理官として紹介されていて、新しい部屋はグラベルと別になった。少し寂しく思うが仕方がない。
シャーリーの隣の部屋には部下となった人たちの部屋が設けられている。荷解きをしてもらいその後はカルロについて数週間、この薬草園の説明と手入れの仕方などを教えてくれることになっている。
その間に、シャーリーはホルック領の薬草園のことを纏めて視察に行く準備をしておくようにと言われている。
薬剤師見習いたちがカルロに連れられて、講義用の広間に行くのを見届けて自室に戻る。
ブランデンが爵位を貰うために必要なものは、改めてシャーリーは確認する。
グラベルの望む未来を叶えるために自分が出来ることをする。そう決めたのは自分だ。ルイーザからの手紙を読もうとして椅子に座ると扉が開く音がした。
振り返るとグラベルが立っていた。最近試験のこともあってグラベルをよく見るが、グラベルが婚約してからまともに会っていなかった。
シャーリーが少し避けていたのもあるけど、グラベルも陛下や薬室長からの仕事を以前にもまして受けていたので王宮に帰ってくることが少なく、居住区に戻らず王宮で寝泊まりしているのも知っていた。
「薬剤師の試験合格おめでとう。よくやったな」
グラベルは嬉しそうに言う。
シャーリーは喜んでもらえてよかったと安心する。先日、父からも祝いの言葉とともにワインが送られてきた。今夜の宴席に出そうとサラに預けている。
「父もようやく諦めたようで、祝いの手紙が来ました。好きにしていいと」
シャーリーは父の手紙にあった言葉をグラベルに伝える。多分そのことを気にしてくれているのだと思ったからだ。
「そうか、好きにしていいか」
何故か自虐的な笑みを浮かべている。そんな顔をしないで欲しいとシャーリーは思う。
グラベルが婚約してから見せる笑みは以前より遥かに穏やかで暖かい。それを見たいとシャーリーは思っているが、口には出せない。
あの笑みを引き出せるのはソフィーだけで、シャーリーでは駄目なんだと分かった。それだけだ、グラベルとの関係はこれまでもこれからも変わらない。それで十分だ。
父はシャーリーがグラベルのお手付きになることを望んでいた。もっと言うと婚姻を望んでいたのだ。グラベルはいずれソフィーを正妃に迎えるだろう。もしグラベルのお手付きになっても愛妾でしかない。それを父が望むとは思えなかったので、また縁談の話がくるかと内心ビクビクしていた。
「薬剤師の試験n受かったので、これで父の庇護から離れても自分で生きていくことが出来ます。グラベル様には感謝しかありません」
シャーリーは表情を見られたくなくて頭を下げた。しっかり笑みを張りつけてから顔を上げる。
「これからもずっとここにいればいい。陛下も皇太后様もシャーリーがここにいることを望んでいる」
「はい」
いつかここを出ていくことになるが、今はまだその勇気がない。もう少しだけここにいたいと願った。
その夜、グラベルの居住区内にある広間ではイザベラ、ローレンスやカルロ薬室長やサイモン医師も加わって盛大に祝ってもらった。
陛下と皇太后からは髪飾りなどの装飾品が贈られてきた。何度も薬剤師t呼ばれ、なんとなく照れもあってくすぐったくなった。
カルロの講義が始まって一週間が過ぎたころ、イザベラが陛下の言葉を携えてやってきた。もっと早くくるかと思ったが、王宮での作法を知い人もいるのでカルロの授業でそれを教え込んだと言っていた。
イザベラは陛下からの労いの言葉を伝える。その後、イザベラは一人ひとりに声をかけていた。誰がどんな人物かしっかり調べているようだった。
薬室長はいずれ、この中の誰かが陛下の薬作りをすることになるのだから必要なことだと言っていた。
確かに、人となりを知らなければ信頼もできないだろう。それをイザベラはなんなくやってのける、凄いと思っていると目が合った。
「新米薬剤師さん、これからもよろしくね」
イザベラから笑みが溢れる。
「はい」
シャーリーも笑顔を返す。




