シャーリーの試験
図書室のテーブルにはカルロから借りたノートとグラベルとローレンスが選別した問題集が山積みになっている。
二週間でこの全てを覚えなければいけない。
ホルック領のことはローレンスが暫く見てくれているので、比較的早く帰ることが出来ていた。
最初の頃はソフィーがよく来ていて勉強が進まなかったが、サラがグラベルに言ってくれたようでそれからはぱったり来なくなった。やっと、落ち着いて勉強が出来る。
カルロが言っていたとおり、片手間では決してできない量と内容に少し焦りが出てくるが、図書室と王宮の書庫に通いながらなんとか問題を解いていく。
今日は薬室の仕事が早く終わった為、早めに帰らせてもらい勉強時間もしっかり確保出来た。
「シャーリー」
王宮の書庫からの帰り、呼ばれて振り返る。細身だが筋肉質だとわかるガッチリとした体型の父がいた。
思わず身構えてしまう。今、一番会いたくない人物だ。
「父上、お久しぶりです」
シャーリーは取り敢えず挨拶をする。
「なにをしているのだ」
妙に機嫌がいい。こういう時こそ油断ならない。何を言い出すのか、警戒しながら父を見る。
「薬剤師の試験があるのでその勉強で、王宮の書庫に行っていました」
「そうか。で、合格出来そうか?」
止めろとは言わない?シャーリーは訝しげに父を見た。
「分かりません。父上こそ、どうされたのですか?」
「皇太后様に呼ばれた」
シャーリーがいつまでグラベルの傍にいるのは良くないと判断されたのだろうか。父が呼ばれるのは、シャーリーを家に帰す話をされたのかもしれない。
シャーリーは深呼吸して勢いよく頭を下げた。
「どうか、試験だけは受けさせてください」
恐る恐る顔を上げ父を見ると少し驚いた顔をしていた。
「頑張りなさい。それとしっかり、皇太后様と王妃様にお仕えするように」
それを言うと父は帰って行った。父になにがあったのか。それとも、最後の我儘と受け取られたのだろうか。取り敢えず、試験を受けるまでは許可を貰えたらしい。
父のことは試験が終わってから話をしてみようと思った。薬剤師の試験に受かったら家を出てもなんとかやっていけるだろ。
いつまで、王宮にいることは出来ないから、何処に住むところを探さなければいけない。それも試験が受かってから考えよう。シャーリーは急いで部屋に戻り、最後の追い込みをかけた。
連日、遅くまで図書室で勉強をしていると、サラとメアリーが交代でお茶や夜食を持って来てくれる。さすがに今回は、夜遅くまで図書室に籠もっていても怒られることはないが、相変わらず心配はされているようで、なにかと図書室を覗きに来ていた。
「大丈夫です。無理はしていませんから」
「グラベル様から頼まれています。シャーリー様になにかあれば私たちはグラベル様に顔向けできなくなります」
グラベルにも心配をかけているのは心苦しいが、今後のことを考えると試験には受かっておきたい。
「ご迷惑をおかけします。でも、あと少しだけ、試験が終わるまで見逃してほしいの」
シャーリーはサラとメアリーに頼み込む。
「そう言うと思いました。試験が終わるまでですよ」
シャーリーの考えを見抜かれていて仕方がないといった顔をされた。
「ありがとう」
シャーリーは礼を言う。
「さあ、朝食はしっかり食べてくださいね」
サラに肩を押されて椅子に座らされる。メアリーが出す食事はシャーリーの好きな物ばかりだ。
「いっぱい食べてください」
やはりここはいいな、とシャーリーは笑う。試験の数日前からはローレンスが試験形式の問題を用意してくれて、薬室でそれを解いていた。採点が終わると、間違いの箇所を丁寧に説明してくれる。
ローレンスは本気でシャーリーを薬剤師にするつもりだとわかる。それに応えたいと更に追い込みをかけた。
試験当日、美味しいご飯を用意して待っているからと、サラとメアリーに送り出された。
薬室に行くとカルロとお茶を飲んでいるイザベラがいた。
「イザベラ?」
「シャーリー、おはよう。心配で来てしまったわ」
「シャーリー、頑張ってね」
カルロは呑気に言ってくる。緊張しすぎて、言葉が出てこない。
「シャーリー、おはよう」
ローレンスがやって来た。
「おはようございます」
やっと声を出せた。
「シャーリー、緊張しすぎよ」
イザベラがシャーリーの顔を覗き込む。シャーリーはコクコクと首を振る。
「大丈夫だよ」
ローレンスが優しく言ってくれた。それで少し落ち着いてきた。
「みんな、おはよう」
薬室長が部屋から顔を出す。
「おはようございます」
「試験、始めようか」
「はい」
薬室長について部屋に入る時、振り返ると三人が手を振っていた。
よし! 頑張ろ。シャーリーは気合を入れた。




