薬草園
ハンスがホルック領からの報告書と収穫したばかりの薬草を持ってきた。
「ホルック領はどんな感じでしたか?」
シャーリーは薬草を見ながらハンスに聞く。
「農民たちもかなり仕事に慣れてきて、余裕がありましたね。ブランデン殿がもう少し薬草園を広げてもいいと言っていました」
「そうですよね、ホルック領だけでは足りないので、次の候補地を探しているのですが、薬草園に適した土地が見つからないのでホルック領で出来るだけ薬草を作れたらいいです」
シャーリーは時間さえあれば図書室に籠っって調べていたが、中々見つけられずにいた。
「どんな土地がいいのですか?」
「そうですね、まず気候が安定していること、水はけのいい土地が良いです」
ハンスは少し考えて、そういえばと言った。
「ソフィー様が静養していたところがいいかもしれません。レヌアイ子爵家の領地で国の南の方にあるのですが、比較的暖かくて果樹の栽培が盛んです」
「いいです、果実も薬になるものもありますから、それ、何処ですか」
「ケンテル領です」
「サナラ川があるところですか?」
「そうです」
シャーリーは国内の地図を思い浮かべた。良いかもしれない。
「どうしてハンス様がソフィー様の静養地をご存知なのですか?」
ハンスは以前、騎士団にいた、それなのにソフィーの静養先まで知っているのはどうしてか不思議だった。
「サイモン医師が診療に訪れるときに護衛を何度かしました」
「サイモン医師が?」
「いつもはソフィー様が王都まで来られて、レヌアイ子爵の屋敷で診療を受けられるのですが、体調が悪いと王都まで来ることが出来ないので代わりにサイモン医師が出向いていたのです」
「起きることが出来ないということですか?」
「そのようです。解毒が出来なかったと聞いています」
薬室長が言っていたのはこのことだ。毒が体にまわっているのだろう。
「そういえば、ケリー様は?」
最近、ケリーとハンスはグラベルと一緒に行動しているのでいつののように一緒に来ると思っていたが来ていない。
「ケリーはヨハン様と一緒にヴォルスク領に行っています」
「どうして?」
まさか北の領地が出てきた。何か問題が起きたのか。
「食料問題です。国内にはまだ、食糧不足が続いているところがあしまして、北の領地からも食料調達をするためにヨハン様がいかれています。ケリーはその補佐です」
「まだ、食料も足りないのですね」
「そうです。グラベル様も国中をまわって、食糧不足を解消しようと動かれています」
「薬草も必要ですが、食料も必要ですね」
「そうです。この二つを同時に解決する方法を考えなければとグラベル様は仰っています」
「分かりました。薬室でも検討します」
翌日、ローレンスに相談してみるとあそこならいいかもしれないと言ってもらえた。
「土、見たいよね」
カルロが呟く。
シャーリーも頷く。
「それには領主の許可も貰わないと」
ローレンスがもっともらしい事をいう。
「グラベルが許可をとってくれるって言っていたけど、それまでに出来るだけ調べよう」
カルロが言うと薬室長が帰ってきた。
「楽しそうだね。何をしているのかな」
面白そうに覗き込む薬室長。
「ああ、ケンテル領だね。いいところを見つけたね。ここは土がいい。それに気候も安定している」
薬室長がケンテル領の農地の事を説明してくれる。どうしてこんなに詳しいのかと思ったが、そういえばソフィーがグラベルや薬室長が薬を届けにきてくれたと言っていたのを思い出した。
「じゃ、ここ!ここはどうかな」
カルロが頬を染めながら言っている。
カルロの薬草愛炸裂だ。きっとここはカルロにとって十分に愛を注げる場所だと察知したのだろう。
確かに川も近くにあり、周囲は畑だけなので風通りもいい。障害物もないので日当たりもいいはずだ。収穫してそのままその場で乾燥までできるようだ。
作業用の小屋らしきものも立っていると聞いたのでそのままでの十分活用できるのではないかと思う。
ローレンスはその横で、どんな薬草が出来るがの確認をしていた。
シャーリーは昨夜、グラベルから言われた話を思い出していた。
ホルック領の薬草園が二年目に入った状況を聞かれた。時々、管理官としてグラベルがホルック領の事を聞いてくるので今回もそのつもりで状況報告をした。その時、言われたのが今年はしっかりと結果を出すように。
ホルック領は現在、グラベルの領地だが代理を置いている。それがブランデンだ。
一介の騎士であるブランデンの領主代理を快く思わないものたちもいる。特にグラベル、王弟の領地なら尚更で、更にグラベルや薬室が進めようとしている事業に大きく関わっているのならやっかみは当然だ。
確か、北の領地の領主代理は男爵の地位を持っていたはず。お兄様は伯爵か子爵をお道だったような。
同じ領主代理でも爵位があるなしでは違ってくる。
グラベルはその先を考えていた。
ブランデンに爵位を。
その為に実績が必要だと言われた。
周囲の妬みは事情が変わればなくなることもあるが、やはり爵位がないと難しいことも出てくる。立場的に相応のものがあれば周囲も認めざるを得ない。
そこで爵位を渡せるだけの実績を出せないかと言われた。
量なのか質なのかと悩んで結局分からなくて、今朝、薬室長に相談した。
(質・量とも必要だが、それ以外にも作業方法や農民たちの指導なども必要だと思う。ホルック領は試験的に始めたことだが、グラベルはあそこの農民たちに指導者になってもらいたいと考えている。その為には全ての作業や農民たちの指導方法も確立しておくことが必要だよ)
シャーリーは自分がやってきたこと全てをきろくとして残してあるのでそれ以外に農民たちが自分で判断して動いていた事を纏めておく必要があると思った。
候補地と言っても、すべてがホルック領と同じ条件ではない。
今、話を進めているケンテル領の気候はかなり違うので、それに合わせた薬草や作業方法を考えなければいけない。
「あの、視察にホルック領の薬草園の人たちをケンテル領に連れて行きたいのですが」
シャーリーは動き出した。早い方がいい。何事も経験だ。
「そうだね、全員は無理だから数人、候補を出してもらって一緒に行こう。実際に作業工程などの意見も聞けるといいな」
ローレンスはシャーリーの意図を汲んでくれたようだ。
「作業工程はホルック領の人たちにお願いしたらいいかも」
カルロも賛成のようだ。
「ブランデン様に連絡しておきます」
「シャーリー、ホルック領のことは暫く僕がみるよ」
カルロが驚いている。
「ですが、ホルック領の薬草園は私の担当ですから」
シャーリーは自分の仕事を投げ出すわけにはいかないと辞退した。
「でも、今度の試験は前の時とは比べ物にならないくらい大変だよ」
ローレンスの気遣いは嬉しいが、やはりそこは曲げられない、シャーリーは再度、ローレンスに断りを入れようとした時、カルロが尋ねてきた。
「試験決まったの?」
「薬室長から聞いたよね」
ローレンスが言ってくる。
「今朝、聞きました」
シャーリーは仕方なく告げると、カルロは嬉しそうに頑張れと言ってくれた。
「シャーリー、少しの間だけでもローレンスに頼んでもいいと思う。薬室の仕事をしながらでも大変だけど、それをホルック領やケンテル領の事に関わりながらだと勉強する時間がなくなるよ」
カルロが心配そうに言ってくる。
「グラベルと約束したんだ、シャーリーを必ず薬剤師にすると」
ローレンスは協力は惜しまないよと優しく笑う。
「僕が薬室長から教わった物があるから今度持ってくるよ」
カルロも協力するからと言ってくれた。
一人で頑張るのではないのだとシャーリーは少しだけ肩の力が抜けた。
今朝、薬室長に言われた時は緊張してどうしようかと不安で一杯だったが、心強い。
「絶対、合格します」
シャーリーは二人に宣言した。




