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グラベルの過去 後編

 グラベルから呼び出されてシャーリーは食事の時に使っている部屋に行く。


「呼び出してすまない」

「いえ」


 久しぶりに見るグラベルはやはり以前より柔らかい印象に変わっていた。


「暫く、私はここに来る事はないが、心配しなくていい」

「私はここを出て行かないといけないのでは?」


 グラベルが婚約したのなら、グラベルは王宮で過ごす事になるだろう。それにシャーリーがここにいてもいいはずがない。


「シャーリーはこのままここにいてもらいたい」


 グラベルからの話に戸惑いを覚えた。


「ですが、お妃様が来られるのなら私はお邪魔では」

「ソフィーの希望だ。シャーリーにはここで今まで通り生活してほしいと」


 グラベルとの生活を見せつけたいのか?グラベルとはなにもないのに。


「ソフィー様がいいと仰るのなら」


 なぜそこまで言われるのか分からないが、ここにいてもいいと言うのはシャーリーにとっても都合が良かった。今、家に帰れば必ず父は縁談を持ってくるのはわかりきっている。少しでも時間稼ぎをしたい。



 グラベルとソフィーの結婚はすぐには行われることはなかった。

 シャーリーは図書室で調べ物をしていた時、グラベルに伴われてソフィーが来ていた。どうやら陛下に挨拶をした帰りのようだ。


 サラとメアリーが出迎えているようだが、シャーリーはそのまま調べ物を続けていた。

 図書室のドアが開く音が聞こえた。シャーリーはドアの方を見るが誰も入ってこない。どうしたのかと本を片手にドアの方へと歩いていく。そこにはオレンジ色のドレスをきた女性が立っていた。

 シャーリーはその女性がソフィーだと気づく前に声をかけられた。


「シャーリー様?」

「はい、ソフィー様でしょうか」

「初めまして、ソフィーです。突然お邪魔して申し訳ございません」


 ソフィーは柔らかい笑顔を見せた。

 シャーリーはなんとなく居心地の悪さを感じながら礼を言った。


「今まで同様こちらで生活をする事をお許しいただきましてありがとうございます」


「こちらこそ、お邪魔するような形になってしまって」


 ソフィーは申し訳なさそうに言う。

 特に話すこともなく困っているとサラが助け船を出してくれた。


「ソフィー様、お迎えが来る時間です」


 サラに連れられて、グラベルのところへ戻って行くのを見送った。

 薬室長が言っていた後遺症は左腕の麻痺だった。指は殆ど動かすことは出来ず、腕は手を添えなければあげることすらできないと言っていた。


 ソフィーはグラベルの隣に立ち振り返り、シャーリーを見て笑顔を見せた。シャーリーは小さく頭を下げる。

 メアリーに声をかけられた。


「お茶をお持ちしました。少し休憩をしませんか?」


 丁度良かったとメアリーの提案に乗りその場を離れた。


 グラベルはソフィーのそれまでの苦しみから解放したくて婚約したと薬室長は言っていた。だが、ソフィーはそうは思っていないと感じた。しかし、グラベルとの婚約が発表されてからレヌアイ子爵とソフィーに纏わる噂は一切聞かなくなった。

ソフィーがグラベルと婚約したことで伯爵を賜ると噂されていたレヌアイ子爵は爵位を受けることはなかった。




○○○

 ホルック領の薬草園も順調に収穫とその後の種付けを終えた。

 シャーリーは以前、薬室長から言われた候補地の薬草を考えていた。必要な薬草の種類と年間で必要になってくる量を考えるが、やはりまだ直ぐには難しい。


 ローレンスやカルロとも相談して、一旦候補地を見た方が良いと判断して交代で候補地を見て回り、帰ってきては候補地の状態や気候などを話し合っていた。

その為、グラベルはもちろん、ソフィーとも殆ど顔を合わせることもなく一か月が過ぎていた。


 グラベルも相変わらず陛下や薬室長から何か仕事を言い渡されていて、よく出かけているようで、薬室にも顔を出すことはなかった。

 ソフィーは王宮での生活に慣れる為、王宮内に部屋が用意されたと噂で聞いた。


 珍しく早く帰ることが出来たシャーリーは食事の時間まで図書室で調べ物をしようとしていたところへサラがお茶を持ってきてくれた。


 サラはクスクスと笑っている。


「何かおかしいですか?」

「相変わらず、図書室に籠もりっきりだなと思いまして」

「調べることが多すぎて、困っています」

「あまり無理をなさりませんように」


 図書室で候補地の薬草を調べているとソフィーが入ってきた。

 シャーリーが頭を下げるとソフィーは側まできた。

椅子に座るのかと思っていたが、ソフィーは立ったままでいた。


「座りませんか?」


 シャーリーは声をかける。


「そこはグラベル様とシャーリー様の席だとお聞きしましたので」

「指定席ではありません。私が以前、床に座り込んで本を読んでいたのでサラたちがこのテーブルと椅子を置いてくれたのです」


 シャーリーが言うとソフィーは安心したのか、前の椅子に座った。


「グラベル様はまた、毎日のように出かけているようですが、退屈ではありませんか?」


 シャーリーが聞くとソフィーは笑っていた。変な事を言ったのだろうかと考えているとソフィーから思わぬ言葉をかけられた。


「侍女たちが、シャーリー様がいらっしゃるからグラベル様は安心して出かけることが出来ると言っていました」

「それは薬草園のことではありませんか。グラベル様が薬草園に顔を出すことが出来ない時は、私がグラベル様の薬草園の管理を任されていますので」

「確か、ホルック領に薬草園を作られたそうですね。グラベル様が嬉しそうに話してくださいました」

「私がこうしてここに居られるのもグラベル様のおかげです。グラベル様がなされようとしていることに少しでも力になれたらと思っています」


 遠回しな言い方だが、シャーリーは決して二人の仲を裂こうとは思っていない、下手に誤解を与えてはいけない、そう思い口にした。


「怪我をしたためすぐには結婚しませんでしたけど、やっとグラベル様と結婚出来ます。それもサイモン医師とグラベル様、アンリエット様がずっと治療と薬を届けてくれたおかげです。その薬草をシャーリー様が育てられているのですね」


 グラベルとの婚約は、薬室長から聞いていたのであまり驚かなかった。それにしても、婚約はしたが、陛下からの結婚の許しは出ていないとつい先日、薬室長から聞いていた。

 陛下からのお許しは出たのだろうか。それならいいが、もしそうでなかったら、ソフィーの話はあまりよろしくない。大丈夫だろうか。

 ソフィーは特に気にするでもなく結婚出来るのが楽しみだと言ってくる。これは関わらないほうがいいのかもしれない。シャーリーは心配になってきた。

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