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グラベルの過去 中編

 デネル元侯爵の妻と娘たちは三日間苦しんだのち亡くなった。それを見続けたデネル元侯爵は妻たちの食事に仕込まれた毒を警戒してか、食事を一切取らなかった。

 グラベルは最後の仕上げに、手紙と共にデネル元侯爵へ毒を送った。数日後、デネル元侯爵はその毒で亡くなったと連絡がきた。


 アーリシュたちの反対を押し切って、グラベルはデネル元侯爵の亡骸を見に行った。

 ソフィーを苦しめた者たちをやっと裁くことが出来たと安堵した。

 陛下にその事を報告した足でグラベルはレヌアイ子爵邸へ向かった。


「わざわざありがとうございます」


 レヌアイ子爵に招き入れられ邸宅に入る。

 応接室に通されたグラベルはデネル元侯爵の最後を伝えた。

 デネル元侯爵を捕まえて陛下から処罰を下す許可をもらえた時、どうしたいのか聞いた。

 レヌアイ子爵とソフィーはグラベルに任せると言ってきた。その為、デネル元侯爵にどういう処罰が言い渡されたのか知らなかった。


「最後は毒を飲んだようです。もっとも、その毒は私が送りましたが」


 グラベルは出来るだけ冷静に話す、ともすれば感情を抑えることが出来なくなりそうだからだ。


「あなたがそこまで手を下さなくても」


 レヌアイ子爵はグラベルの事を案じてくれる。


「あなた方が受けていた苦しみを少しでも分からせたかった」


 レヌアイ子爵はあの時と変わらない穏やかな笑みを見せる。


「今日は、それとは別にお願いがあってきました」


 グラベルは目的を果たす為に話した。


「グラベル様、恥ずかしいので降ろしていただけますか」

「みんなに見せびらかせましょう」


 グラベルは笑いながらソフィーを抱えて王宮内を歩いていた。

 薬草園や庭園を回って昔を懐かしんだ。薬草園は昔と比べるとかなり変わっていたが、庭園は依然と変わらずそこにある。

 グラベルはソフィーの思い出を楽しいものへと変えたかった。


「グラベル様」


 ソフィーはグラベルの思いを察したのか、笑顔でグラベルの顔に触れた。ずっと昔、見ていたいと思っていた笑顔がある。


 グラベルは居住として使っている区画の庭の芝生に座った。腕にはソフィーを抱いている。庭から見える王城の景色を見ていた。


「グラベル様、これを」


 ヨハンが上掛けを持ってきてソフィーにかけてくれた。そのソフィーは疲れたのか先程から眠っていた。


「グラベル様」


 レヌアイ子爵がやってきた。


「レヌアイ子爵、この間の話を進めたいのだが良いだろうか」


 グラベルは先日、話したことの返事をもらっていなかった。


「ですが、それではグラベル様にご迷惑をお掛けすることになります」

「償いたいのです。あの時、あなた方に多大な苦しみを与えてしまい、私は無力のため何も出来なかった。今度こそ、あなた方を助けたいのです」

「グラベル様は息子を側近にしてくださいました。それだけで十分です」


 レヌアイ子爵は引き下がらない。グラベルはヨハンを見る。


「ヨハン殿にはこれからも私の力になってもらいたいが、そろそろ跡を継ぐ時期だろうか。その為にもソフィーへの噂を払拭したい」

「ありがとうございます」


 レヌアイ子爵はグラベルを見る。


「もう少しこのままでいいだろうか」


 グラベルはヨハンに尋ねた。


「陛下からは今日の執務は休んでいいと、薬室はシャーリー殿が仕事を引き受けてくれていますので問題ないかと」


 グラベルはソフィーの頭を撫でた。薄茶の綺麗な髪は太陽の光を受けて輝いている。

 今度こそ自分の覚悟を見せなければと思う。


「すまない、こんなことしか出来ない私を赦してほしい」


 そう呟いた。


 その日の夜、陛下の元を尋ねたグラベルはレヌアイ子爵から返事をもらえた事を報告した。


「本当に良いのか」


 陛下が訪ねる。


「これまであの家が受けた苦しみを取り除きたい。私が出来る事をしたいのです」


 グラベルの決意を感じたのかそれ以上言ってくることはなかった。

 数日後、グラベルはレヌアイ子爵の令嬢、ソフィーを婚約したことが国内に発表された。


○○○

「婚約者か」


 カルロは薬草の葉を茎から取りながらつぶやく。

どうやら、自分と同じく結婚するとは思っていなかったようだ。


 シャーリーはとても失礼だと思った。

 グラベルも年齢的に結婚してもおかしくない、ローレンスに至っては尚更だ。それなのにカルロはここ薬室にいるものは皆、結婚しないとでも思っているのかと疑いの目を向けた。


 この間、グラベルがソフィー様を抱えて薬草園を案内していたのを偶然見かけた。

 シャーリーはあの時のグラベルの嬉しそうな顔が忘れられなかった。

 ローレンスとシャーリーが薬草畑の手入れをしている時に偶然見てしまったその表情に少しばかりショックを受けていると薬室長がやって来た。


「グラベルも長年の悩みが少し解消されたみたいだな」

「長年の悩み?」


 シャーリーの問いにローレンスはあっと声をあげていた。何か心当たりがあるようだ。


「もともとソフィー様はグラベルの婚約者だよ。内々に決まっていたのだけど、発表する前にソフィー様が怪我をしたため見送られたままだった」


 ローレンスがそっと教えてくれた。


「色々噂は出ていたのも全て嘘だよ」


 薬室長が言う噂はシャーリーも聞いたことがあった。

 レヌアイ子爵の令嬢は賊に襲われて結婚できないとか、病気で顔に痣がでてきて醜くなったとかそれを隠して王家に取り入ろうとしていると、シャーリーが聞いても気分が悪くなるものばかりだ。


「あの噂はやはり嘘なのですね」


 ローレンスが聞いている。


「グラベルが薬剤師になる前に、二人は婚約したけど、それを快く思わない者たちに狙われたんだよ。グラベルを庇ってソフィー様が受けた矢に毒が仕込まれていてね」


 ローレンスが険しい顔で薬室長を見ていた。


「きちんと解毒出来たのですか?」


 ローレンスは心配そうに聞いている。


「最初は毒が仕掛けられているとは分からなかった。矢を抜いて調べたら毒の反動が出て対処したが、全てを取り除くことは出来なくて後遺症が残った」

「昔、王宮で噂を聞いたことがありました。毒矢を受けた人が命を落としかけたと」


 ローレンスが薬室長に話しているのを聞いて、シャーリーはどうしてグラベルが頑なに結婚するつもりはないと言っていたことの本当の意味を知った。


「長年の悩みとはどう言うことですか?」


 シャーリーはグラベルをあそこまで笑顔にするものはなんだろうと気になった。


「二人を狙った刺客はデネル元侯爵だよ。当時は証拠がなくて処罰まで行かなかったけど、今回は証拠を集めることが出来たみたいだよ」


 シャーリーは先日薬草園に来ていたデネル元侯爵を思い出した。あの時、グラベルは笑顔で話していた。どんな気分だったのだろうか。

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