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行方不明の令嬢

「最近、王妃候補の令嬢が行方不明になっているようだ」

 この国の王、リシュリーは執務室で目の前にいるベルク侯爵に話す。

「報告は上がっています。騎士団が捜査に当たっていますが、進展はないと」

「ウィルゼン公爵に調査を依頼するように」

 陛下はレノックス伯爵が差し出す次の書類に目を通す。


 今、国王の執務室には重臣のベルク侯爵とレノックス伯爵だけがいる。もう一人いる重臣のダルキス伯爵は別件でいない。


 数ヶ月前にやっと国内は落ち着きを取り戻したが、陛下は王妃を亡くしたことを悲しむ時間すらなく政務をしている。

 そして周囲は新しい王妃を、と言ってくる。


 王妃は跡継ぎに恵まれなかった。その為、異母弟のウィルゼン公爵グラベルが皇太子を兼ねているが、グラベルは薬剤師だ。

 本人も王になるつもりはないとはっきり言っている。それもあり、王妃が亡くなって一年で次の王妃を迎えるための準備が進められていた。


 陛下はその事を承知している。ベルク侯爵は口には出さないが、もう少し時間を置いてもいいのではと考えていた。

 陛下の心の傷はまだ癒えていない。しかし、政をする者はそんな時間は与えられるはずもなく、近いうちに王妃候補を集められた茶会が開かれる事になっている。


 ベルク侯爵は執務室を出て薬室へと向かった。ウィルゼン公爵に会う為に。


 薬草園の間を通り過ぎる時、甘い香りがした。薬になる果実がなっているようで、陛下の執務室がある区画とは違う時間の流れが感じられる。


 遠くの薬草園では薬剤師が薬草の手入れをしている人影が見えた。あれは王宮の侍女たちに人気のカルロという薬剤師だ、太陽の光を浴びて金色の髪が輝いて見える。

 確か、変わった癖があるとウィルゼン公爵から聞いた事がある。あれがそうなのか?


 ベルク侯爵はカルロを横目に更に奥に進む。王城の薬室の更に奥、グラベルの事務室のドアをノックする。


「どうぞ」

 中からグラベルの声がした。

「ウィルゼン公爵……」

 事務室の中に足を踏み入れて、グラベルが一人でないことに気がついた。

 テーブルを挟んで、グラベルと若い女性が座っていた。


「来客中でしたか。失礼しました。出直してきます」

 そう言って踵を返そうとした時、呼び止められる。

「カーネル伯爵の令嬢、シャーリー殿です。薬剤師希望と言うことで、お手伝いをしていただいております」


 グラベルから紹介され、後ろにいた女性に挨拶された。

 確か、カーネル伯爵の令嬢も……。


 ベルク侯爵はふと頭をよぎるものがあったが、気持ちを切り替え、グラベルを見る。

「陛下からの依頼です」

 そう言って書類をグラベルに渡す。


 グラベルが書類を受け取り、それを読んでいる間シャーリーはグラベルの側で姿勢を正し立っていた。

 グラベルは書類を読み終え、一息つくといつからいないのかと聞いてきた。

 ベルク侯爵は自分が知り得る範囲でグラベルに告げると、急いだ方がいいですねと言いながらシャーリーを見た。


「シャーリー殿、私は別件の仕事が入ったので、暫く一人で勉強していてもらえないだろうか」

「グラベル様、どういうことでしょうか」

 それまで静かに様子を見ていたシャーリーが聞いている。


「王妃候補の令嬢が何人か行方不明になっているようです。陛下から調べるようにと」

「王妃候補の令嬢に会うのに、グラベル様だけでは都合が悪いかと、私もご一緒させていただいてもいいでしょうか」


 グラベルは考え込んでいたが令嬢を訪ねるのに自分一人では誤解を与えかねないと言ってシャーリーを連れていくとベルク侯爵に告げてきた。

 ベルク侯爵は思わず苦い顔をしてしまった。


「カーネル伯爵令嬢のシャーリー様も王妃候補だということをお忘れなきように」

 ベルク侯爵がグラベルに言うとそういうことかと納得していた。

「危険な目には遭わせません」

 ベルク侯爵は再度、グラベルに念を押し、事務室を後にした。



 翌日、グラベルは馬車でカーネル伯爵の屋敷に向かった。


 シャーリーを待っている間に父親のカーネル伯爵が挨拶に出てきて挨拶をされる。

「娘かご迷惑をお掛けしております」

 深々と頭を下げるカーネル伯爵。

「私もカーネル伯爵に挨拶をしなければと思っていました。シャーリー殿は正式に試験を受けていませんので、今は試用期間として薬室に来ていただいております。いずれ薬室長から何らかの判断がされると思いますが、もしダメだと判断されたら諦めていただくほかありません」

「それでも構いません。ダメだと分かれば本人も納得するでしょう」


 グラベルは毎日通って来ていたシャーリーの熱意に負けた。更に、シャーリーはグラベルが貸した本を一週間ほどで全て覚えていた。その意気込みで本気で薬剤師になりたいのだと悟った。


 グラベルは最初、陛下か自分に取り入るためだと思っていた。実際、今まで何人かそういった類のことが起きていたからだ。だから、グラベルは少し警戒心を持っていたが、数日一緒にいてシャーリーがその類の者ではないと分かった。


 シャーリーは薬室に来る時の服装とは違い、伯爵令嬢に相応しいドレスに髪飾りをつけ着飾った姿で現れた。

 普通に令嬢だ。グラベルの感想だった。

 門番に追いかけられていた姿が印象的だったため、尚更そう感じたのかもしれない。


 馬車に乗り込むまで、しきりにカーネル伯爵がシャーリーに何やら言っていたが、王妃候補の令嬢が行方不明なのを知っていて、シャーリーが心配なのだろくらいに思っていた。

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