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いつもの日常

 えっ?

 シャーリーはローレンスの言葉に聞き間違いかと思った。


「デネル侯爵が捕まった」


 先日、グラベルの元に娘を連れてきていたではないかと戸惑う。


「グラベルの命を狙っていたんだ、昔だけどね。今度はどうやら、グラベルに自分の娘を送り込んで、陛下を亡き者にしようとしていたみたいだね」


 グラベルが命を狙われていたという話は聞いたことがあったが、その人物がまだグラベルの周りにいることに驚いた。


「以前は、肝心なところの証拠がなかったようだね。それで、謹慎処分と陛下の側近から外されたんだよ」

 ローレンスが自分の命を狙った者がいるだけでも怖いのに、娘をを言ってくるのだからグラベルも警戒するはずだと言っている。


 今回はグラベルがデネル侯爵に不信感を持ったため、調べていくとその証拠を手に入れることができたらしい。

 デネル侯爵のほか、数人の貴族が捕まった。


 みんな、デネル侯爵についてグラベルを王に据えようと考えていた者たちらしい。

 デネル侯爵の娘を筆頭に他の貴族の娘たちの釣書がグラベル宛に送られ続けていたようだ。


 シャーリーは証拠がないために捕まえることが出来ずに、またグラベルの前に現れたデネル侯爵の行動に鳥肌がたった。

 そうまでして権力が欲しいのか。

 グラベルは一体どんな気持ちであの場にいたのだろうか。

 自分だったら逃げ出したいと思う。

 グラベルの立場では逃げてもまた、同じような者が現れるだけだ。

 それをずっとみてきたのだと思うと、グラベルが政に関わらないようにしてきたことの意味を知る。

 陛下と争いたくない、それだけではない。自分を守るためにもこの薬室に籠る必要があった。そして、次は王都から遠く離れた北の領地で領主として過ごすのだろう。


 皇太后がイザベラに表面だけをみて憧れだけでは駄目だと言っていたのを思い出す。

 グラベルも、陛下を支えると言ったイザベラも凄いと心から思った。


 デネル侯爵が捕まった事で、疑われたはいけないと考えたのだろうか、大量にきていた釣書はぱったり来なくなった。

 そんなものかとシャーリーは呆れる。

 みんな権力が欲しいのか、それとも何が欲しいのか分からなくなる。

 疑われる事を気にするということは、下心があったと自白しているのと同じではないかと言いた。


 少し前まで、疲れた顔をしていたグラベルだったが、陛下の婚儀が終わり、釣書も来なくなったことでいくぶん、気持ちが楽になったのか、再び国内の領地の視察に行くようになった。


 縁談は全て断ったらしい。一つだけグラベルが持っていた釣書のことは気になったが、聞くのをやめた。きっとグラベルにしか分からない何かがあったのだろう。


 グラベルは視察先で薬草畑に出来そうな場所も見つけてきてシャーリーに教えてくれる。

 以前と変わらない様子に、こうやってグラベルは今まで生きてきたのかと感心する。


 シャーリーは薬草畑の候補地の気候やその領地で作られている農作物を調べた。

 グラベルがやろうとしていることに少しでも力になりたいと思う。


○○○

「はい、これ」

 薬室長から書類が渡された。

 シャーリーはなんだろうと見ると報告書だった。


 報告書はローレンスの担当のはず、シャーリーが首を傾げていると薬室長から告げられる。

「グラベルから頼まれたのよ。自分が忙しくて薬室にいないことが多いからシャーリーの勉強を見て欲しいって」

 期日は来週ね。とご機嫌で部屋に戻っていく。


 シャーリーは瞬きを繰り返す。

 最近、グラベルもシャーリーも忙しくて忘れていた。

 薬剤師になるための勉強をしていなかった。


 薬室長から渡された報告書を恐る恐る見てみる。

そっと閉じた。

 グラベルから渡される報告書は易しい方だったのかと分かった。

 最初のページをさらっと読んだだけでもよく理解できなかった。

 シャーリーは焦ってきた。


「シャーリー、一緒に頑張ろう」

 目の下に隈を作ったローレンスに励まされた。

 顔が引きつる。

 ローレンスの奇怪なな行動が思い出される。

 自分はそうならないようにしないと、そう思うと時間がなかった。

 シャーリーは急いで事務室に戻る。


 部屋の外からはカルロの笑い声が聞こえたが、そんなこと構ってられない。

 シャーリーは必死に報告書を読み込んだ。

 グラベルの力になりたいと思う以前に、自分が足を引っ張ってはいけない。

 必ず、正式に薬剤師にならなければ。


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