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食料不足

 リンゲル邸から帰って来たグラベルは急いで陛下に手紙を書き、アーリシュに届けてもらい、シャーリーたちを連れてホルック邸へ向かった。


 ブランデンたちに出迎えられて部屋に入るとグラベルはシャーリーに告げる。

「リンゲル領の食料を確保しないといけない」

 シャーリーはすぐに納得した。


 リンゲル領の事をシャーリーやヨハンたちに話した。

 皆が深刻になってしまう問題だ。

 農民たちの要求は後を絶たない。それを聞き入れるべきではないとグラベルは考えている。

 それをしてしまえば後々、領主が領地を治める事を困難にしてしまうからだ。

 しかし、国中の詳細を調べ上げれば、リンゲル領のような領地はもっと出てくるだろう。

 このまま放置すれば領内から崩壊が始まり、いずれ国全体へと影響を及ぼす可能性を秘めている。


「国庫の食料を出すのですか?」

 シャーリーが心配そうに聞いてくる。

「今後のことを考えるとそれは避けたい。ブランデン、確か備蓄が少しばかりあったはずだが」

 グラベルは幾らかの蓄えがあったと記憶している。

「ありますが、リンゲル領クラスですと二ヶ月ほどしか持たないかと」

「それだけあれば大丈夫だ。残りは別のところから出す手配をする」

「食料が余っているところはあるのですか?」

 ブランデンも心配そうにしている。

「ある。これから行こうと思う」

 グラベルは一つ当てがあった。その前に陛下の許可をもらうため手紙を書いた。

 それをアーリシュに届けてもらっている。


「何処ですか?」

「ヴォルスク領。あそこは流行り病がほとんど起こらなかった。食料もそれなりに確保できている」

「流行り病が起こらなかった?」

 シャーリーは不思議だと思ったようだ。

 実際、グラベルも最初どうして北の地だけ流行り病が起こらなかったのか謎だった。最近、その違いが分かってきたばかりだ。


「あの地は元々、冬には人の出入りが少なくなる。そこに流行り病が起きたと報告があった時点で、領地を封鎖したそうだ。多分、それで流行り病が入り込むことなく感染者が殆どでなかったと考えられる」


「流行り病は人が原因ですか?」

「原因は別にある。だが、病は人を介して広がることが分かっている。それにあの病は温かい地方で流行るようだ」

「原因?」

「貿易を行っている都市から病が発生しているのが分かっている。そこに原因があるのだが、はっきりしたことは分かっていない。そしてその病に罹った者が別の者にうつしていることが分かった」

「港がある都市ですか?」

 港にどんな関係があるのかとシャーリーは不思議そうに聞いてくる。


「そうだ。南の地方に貿易が盛んな領地がある。そこでの被害が一番大きいのとその領地は今でも経済の回復の見込みがない」

「病は治ったのですよね」

「終息したが、領民の殆どが亡くなっている。領内を統率しようにも出来ていない」


「領主は?」

 領地のことはブランデンが気になるのだろう。

「領主と跡取りは亡くなったそうだ。今は親戚の者が領主代理で領内を纏めようとしているが中々難しいようだ」


 グラベルは先日、陛下に言われて視察に行ってきた。

 領主と二人いた息子たちは亡くなり、領主の家族で生き残っている者は領主の妻とまだ幼い娘が一人いた。


 立場的に、領主の妻が領主となり、いずれ娘が婿を取り、跡を継ぐしかないのだが陛下の指示で落ち着くまで親戚の代理領主を認めている。


「この間からグラベル様が農作物のことで出歩かれているのはこの事があったからですか?」

 シャーリーはグラベルが農作物のことで出歩いているのを疑問に思っていた。その理由が分かって腑に落ちたようだ。

「あの領地での収穫はしばらく見込めないので国庫を開けたが、いつまでも国庫に頼るわけにもいかないので、他の領地で収穫した物を少しでも回せるように準備している」

 王都付近の領地では秋の収穫は流行り病以前と同量の収穫が出来る計算になっている。

 それまで何とか今ある食料で対応しなければいけない。


 ブランデンは何か考えているようだ。

 ホルック領は流行り病の影響が少ないとは言え、農民が減り、一部を薬草畑にしているので農作物の収穫量は前年より減るはずだ。しかし、領民も減っているので辛うじて食料は足りる予定になっている。

 まだ、余っている農地はあるのだが、人手が足りなくてそのままになっている。

 ブランデンはそのことを気にしていた。



 ヨハンの報告ではイダから家屋敷を乗っ取ったとされる親族は既にその家を別の人物に売り払い姿を消したらしい。

 家を買った人物から取り返してもいいが、それではその家を買った者が不利になる。出来ればそれは避けたかった。

 姿を消したとされる親戚を探すようにヨハンに指示を出した。


「グラベル様、イダをどうするおつもりですか?」

「イダの家はもう他人に売り払われている。それを取り戻すことは容易ではないだろうな。それに、イダはまだ幼い。一人では生活できないだろうから、暫くはアグネスに預けようと思っている」

「アグネス様ですか」

 シャーリーはどうしてかと言う顔で見てくる。

「ブランデンが言うにはイダの家はかなり大きな商家だったらしい。イダは読み書きも出来る。それなら、ブランデンたちの仕事を手伝ってもらえないかと思っている」

「安心しました。イダがこの先一人で生きていかなければいけないかと心配していましたから。ブランデン様のところでしたら私も会いにいけますね」

 シャーリーは嬉しそうに話す。


 イダにその気があるのならブランデンたちを助けて欲しいと思う。きっと、これからもっと大変になるだろうから。しかし、イダが嫌と言えば別の道を考えようと思っているのも確かだ。


 翌日、アーリシュが陛下からの手紙と共にアグネスを連れてきた。

 イダに説明してアグネスと暮らすことを言うと驚いていた。

「アンリエットの幼い頃の服を持ってきたの。帰りは好きな服を買って帰りましょうか」

 アグネスはすっかり母親の気分でいるようだ。とても楽しそうに話すアグネスにイダは、少し恥ずかしそうに、それでいて不安な顔も覗かせながらアグネスに抱きしめられていた。


「私たちはリンゲル領の民の為に食料を集めに行かなければいけない。それまでアグネスと一緒にいて欲しい。イダがどうしたいか帰ってからゆっくり話そう」

 イダは頷いていた。

 アグネスとイダをアーリシュに王都へ連れ帰ってもらい、グラベルはシャーリーを連れてヴォルスク領へ向かった。


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