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乳母

「来てもらってすまない」

 グラベルが謝る。


「何を仰っているのですか。グラベル様が大変な時に駆けつけるのは当然です」

 グラベルの王宮の私室で食事の準備をしてくれているのはグラベルの乳母、アグネスだ。

 シャーリーたちがいるところの侍女を連れてくるわけにもいかないので、急遽来てもらった。陛下や皇太后とも顔見知りなので都合がいい。


 食事を終えて、グラベルの執務室に行く。

 既にベルク侯爵、レノックス伯爵、ダルキス伯爵にグラベルの側近、アーリシュとヨハンも来ていた。勢揃いだ。


 レノックス伯爵から現在、溜まっている案件の書類の説明を受ける。

 それに対して、資料が準備されていてそれと併せて読んでいく。足りなければ追加の資料を頼む。

 アーリシュとヨハンはダルキス伯爵につき、資料集めを覚える。


 次々と書類を片付けていくが、それ以上に決めないといけないことや問題が出てくる。

 決裁が終わったものをベルク侯爵が次の手続きのため、運ぶが新たな書類を持って帰ってくる。

 ベルク侯爵とレノックス伯爵が予め書類の選別をしてくれていてもやはり多い。


 これは溜まっていくだけだなと思うが口には出さない。

 そのうち資料集めも人手が足りなくなってきた。

 初日だけでもかなりの量をこなしたが、山積みの書類を眺める。


「グラベル様、今日はそろそろ。まだ先は長いのですから」

 ベルク侯爵に声をかけられ窓の外を見ると、すでに外は真っ暗だ。夢中になっていて気がつかなかった。

「今日はここまでにしよう」

 グラベルが言うと、皆が書類を片付け始めた。


「毎日、こんなにあるのですか?」

 側にいたダルキス伯爵に聞いた。

「今日はまだ、少ない方です」

 少ない……。

 急に疲れが出てきた。

 無事、三週間乗り切れるだろうか。不安になる。




○○○

 グラベルを送り出してからアグネスはグラベルが普段使っている部屋へと向かう。

「アグネス様?」

 サラがアグネスを見て驚いている。


「グラベル様が暫く王宮で過ごされるから私が呼ばれました」

 グラベル様に頼まれて必要なものを取りに来たと告げると、サラがグラベルの部屋まで案内してサラは下がっていく。

 グラベルの部屋に入り、目的の場所から頼まれた物を探していると人の気配がして振り返った。


 若い女性が部屋の外で立ち尽くしていた。

 アグネスは誰だだろうと一瞬考えた、質素な服を着ているが侍女ではなさそうだ。それにグラベルは信頼していない者をここに入れることはないと思い、声をかけた。


「アグネスと言います。グラベル様に頼まれた物を取りに来ました」

 アグネスが自己紹介とここに来た理由を告げると若い女性は安心したようだ。

「シャーリー・カーネルです。グラベル様について薬剤師見習いをしています」

 若い女性が名乗ってきた。

「カーネル伯爵と関係が?」

「父です」

「失礼しました。シャーリー様、私はグラベル様の乳母をしておりましたアグネスです。グラベル様が暫く王宮で過ごされることになりましたので侍女として呼ばれました」

 アグネスはどうして伯爵令嬢が薬剤師見習いをしているのか気になった。シャーリーはここに住んでいると言った。

 以前のグラベル様はこのようなことはされなかったはずだ。


「薬剤師の試験を受ける時にグラベル様からここに住むようにと仰っていただきこちらでお世話になっております」

「そうでしたか」

 グラベル様に心境の変化でもあったのだろうか。それとも無意識?

「あの……」

 シャーリーが何か聞きたそうにアグネスを見る。

「どうかされましたか?」

「今の状況はグラベル様にとってどうなのでしょうか」

 シャーリーの心配そうな顔を見て、シャーリーの気持ちを知りたくなった。


「今まで、政に関わることを控えておられました。それはご自身を守るためでもありますが、陛下と争うことになるのを恐れたからです」

 本来ならここまで話すこともないが、グラベルがシャーリーをここに置くことは何かあるのだと思う。それがグラベルにとって良いものならと試してみた。どう反応するか。


「命を狙われることもあったと聞きました」

「グラベル様のお母上はお体が弱く、グラベル様はいつもお一人でした。アンリエットが王宮の隅で本を読んでいるといつの間にか側に来てグラベル様も一緒に本を読んでいたのです」

「アンリエット? 薬室長ですか」

「はい。私の娘です」


 知らなかったようだ、因みにアーリシュは息子だと告げると瞬きを繰り返しながら驚いていた。

 可愛らしい方だ。それにグラベルのことを本当に心配してくれている。

「グラベル様がご自分から今回の件は言い出されたと聞きました。それなら、グラベル様がそうしたいと思われてのことです」

「命を狙われるようなことは?」

「あの時とは状況も変わってきています。それにグラベル様は小さな子供ではありません。それに仲間もいます。シャーリー様もそのお一人ですよね」


 出来るだけ他人と関わらないようにひっそりと暮らしていたグラベルが他人のために薬剤師の試験をしてほしいとアンリエットに頼んできたと聞いたときは冗談だと思った。

 そして今度は、陛下の代理を自ら買って出たと聞いて驚いた。

 グラベルに呼ばれて駆けつけた。

 皇太后に挨拶に行った時は『グラベルのお気に入りがいるの』と、とても嬉しそうに話していた。

 アグネスは気になり、グラベルに頼まれたと言ってお気に入りを見に来た。

 皇太后はグラベルは恋愛経験がないから大丈夫かしらと心配している。


 サラからはシャーリーが薬剤師見習いになった経緯を聞いた。そしてシャーリーもよく図書室で夜遅くまで本を読んでいると。二人は似たもの同士なのか。


 グラベルがここまで心を砕いた女性は初めてだ。

 そのことをグラベルは気付いているのだろうか。

 生まれた時からグラベルを見てきたアグネスは、気付いていないだろうと一人思う。


 自分の気持ちに気づいたグラベルはどんな行動をするのだろうか?

 グラベルには幸せを手に入れて欲しいと願う。

 心配だったグラベルの未来が楽しみになってくる。

 シャーリーとわかれてから王宮に戻るアグネスからは笑みが溢れた。


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