休日
シャーリは困っていた。
ホルック領の農地整備を終え、種付けまでの束の間の時間、休みを取っていいと言われた。
これからもっと忙しくなるから今のうちに休みを取るようにと。ローレンスとカルロは薬剤師の許可証を発行するための試験の手伝いをしている。
グラベルは別件があると言って最近薬室に来ていない。
休みと言われても実家に帰ると父が煩そうなので帰りたくない。
その事をサラに愚痴を言ってしまった。
「それなら、王宮の書庫に行かれてはどうですか?」
朝食を準備してくれながら言われる。
「何もなくても行っていいのでしょうか?」
「グラベル様も薬剤師になりたての頃はよく行っていましたよ」
「グラベル様は王族ですから」
シャーリーは調べ物をするわけでもないのに行っていいのか迷っていた。
「許可は出ているので大丈夫ですよ」
「許可?」
グラベルからそんな話は聞いていない。自由に使っていいとしか。
「王宮の書庫は限られた人しか入ることが許されていません。アーリシュ様やヨハン様は仕事柄許可が与えられていますが、私たち侍女は入ることはできません」
「そうだったのですね」
いつの間にか許可が出ているということはグラベルがそうしてくれたのだろう。
シャーリーはグラベルの感謝しながら、あそこなら一日過ごせそうだと喜ぶ。
グラベルはいつもシャーリーの事を考えてくれている、そんな自分が出来ることはグラベルがやろうとしている事を手伝うことだけだ。これ以上足手まといにならない為にも。
サラからは食事の時間には帰ってきてくださいねと送り出される。
薬室長は研究に没頭すると寝食を忘れるとグラベルが言っていたのを思い出す。
気をつけないと。そう思うが本を読んでいるとつい時間を忘れてしまう。流石にベッドに運ばれることや、食事を運んでもらうのは気が引ける。
手帳を手に王宮内を歩く。時々すれ違う人たちに挨拶をされる。少しずつここの人達とも顔見知りになってきた。
書庫に着くと読みたいと思っていた本を取り、空いているテーブルについた。
読みながら重要な内容は持ってきた手帳に書き込む。
ブランデンやルイーザたちに教える為に必要な内容だ。薬草の事を詳しくない人に教えるのは結構大変だと思う。
ホルック領の薬草畑に植える予定の薬草の事を重点的に記入する。
シャーリーはあまりにも没頭しすぎていて周囲がざわついているのに気がつかなかった。
「グラベルは厳しくないかな」
「えっ?」
シャーリーが顔を上げるとそこに陛下が立っていた。
側にはベルク侯爵やレノックス伯爵、ダルキス伯爵までいる。
慌ててシャーリーは立ち上がり頭を下げる。
顔を上げていいと言われ、シャーリーは頭を上げるがどうしていいのか分からない。
シャーリーが困っていると、シャーリーの向かい側の椅子に陛下が座り、シャーリーも座るように言われる。
「今日は何か調べ物か」
「はい。ホルック領で薬草畑を作ることになり、その管理のための手順書を準備していました」
「グラベルが言い出したことだな」
「どんな感じだ」
「先日薬室の薬剤師の方達とホルック領の農地整備をしてきました。現地で作業する農民たちもとても真剣に取り組んでくれる人たちばかりでした」
「そうか。楽しみだな」
陛下は嬉しそうに笑っているが、顔色が悪い。この間の茶会の時より少し痩せたのではないかとも思う。
病自体は落ち着いたが、民の生活はまだ混乱が残っている聞く。
その影響がホルック領の農民たちのように職を失ったり、農地の管理をする者がいなかったりするのだ。
陛下の元にはそのような事も国中から話が来ているのだろう、大変だと思う。
グラベルはその事を考えて敢えて農民を使う事を言い出した。
陛下が息抜きをするのを誰が責めようか、少しでも心安らかになればとシャーリーは思う。
グラベルは現在緊急で対応しなければいけない事で動いていた。
先程まで近隣の領地の視察をしていた。必要な情報を集めたくて書庫へ行く。
「グラベル様」
入り口の衛兵に声をかけられる。書庫の入り口に大勢の護衛が立っていた。
「陛下が来られているのか」
「はい」
衛兵が焙られますかと聞いてきたので、特に問題はないだろうと書庫へ入る。
一番奥のテーブル付近に人だかりが見える。多分そこに陛下がいるのだろう。
グラベルはそれを避けて、目的の本棚へ行き一冊の本を取り出す。
中身を確認しているとき、話し声が聞こえた。
「陛下、そのようなことは……」
「いいではないか」
誰と話をしているのだろうとグラベルは声のする方へ歩み出す。
本棚の影から見ると、陛下とシャーリーが話していた。
顔を赤らめながらシャーリーは困った顔をしているが満更でもない様子だ。グラベルの見たことのない表情だ。
陛下はシャーリーを見て楽しそうに笑う。
グラベルは手にしていた本を戻し、そっと書庫を出た。
「グラベル様、どうされましたか?」
アーリシュが声をかけてきた。
「何でもない、先に次の領地に行こう」
グラベルはアーリシュとヨハンを連れて次の視察場所へ向かった。




