表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/93

農地

 馬車は速度を落としている。

 馬車の中ではグラベルとシャーリー、ローレンスとカルロが乗っている。皆が書類を真剣な眼差しで見ている。

 グラベルとカルロはホルック領の薬草畑として使用できる農地の場所が記されている地図を見ている。シャーリーとローレンスは必要な薬草の量が書かれた書類を。


 いま、グラベルたちが向かっているのはホルック領の薬草畑に使用する予定の農地視察だ。

 シャーリーはローレンスとホルック領の薬草畑に何を植えるかを検討していた。

「やはり、さっきの場所はこの薬草でしょうか」

 シャーリーがローレンスに聞いていた。

 それを聞きながらグラベルとカルロは保存方法や運搬経路の確認を始める。

「カルロ、乾燥はホルック領でしたほうが良いな」

「そうでしょうね。薬草の取り扱いも覚えてもらわないといけませんね」

 カルロが言う。

 ブランデンたちにどこまでを管理させるかもまだはっきりしていなかった。

「薬室に来てもらって覚えてもらうしかないだろうな」

「それが一番良いと思います」

「どの薬草を植えるかが決まったら調整しよう」

「お願いします」



 ホルック領の農地視察に来て判ったが、やはり一年以上手付かずだったのが痛手で荒れ放題だった。それを整備して薬草畑に使えるようにするにはもう少し時間がかかる。

 ホルック邸に皆が集まり対応を決めていく。

 一番問題である農地の整備は農地ごとに対処方法をカルロが決めている。

「いつ頃から植え付けは出来そうです?」

 ローレンスが書類を見ながらカルロに聞いた。

「順調良くいって、春以降だね」

「では、それまでの植え付けは王宮内ということになりますね」

 シャーリーが手帳に書き込みながら、どの薬草からが良いかローレンスに聞いていた。

「グラベル、薬草畑の手入れは誰がするの?」

 カルロは人手は足りるのか心配している。

「主な管理はブランデンたちに任せるが、あの農地で雇われていた者たちが職を求めている。その者たちを雇い入れようと思う」

「農地で働いていたと言うことはある程度、作物の知識はあるはずだよね」

「ブランデン、どれだけの知識を持っているか分かるか?」

「詳しいことはわかりませんが、農地を任されていた者もいるようです」

「詳しく話を聞いたほうがいいかもしれないな」

 グラベルは農民たちを雇い入れるつもりではあるが、やはり薬として使用する薬草の世話をすることになるので心配ではあった。


「それ、僕も立ち会ってはダメかな」

 カルロが言い出した。

「僕も立ち会いたいな」

 先程までシャーリーと話し込んでいたローレンスも参加したいようだ。

 グラベルはブランデンを見ると、調整しますと言って部屋を出ていく。

「先ずは確保した農地で薬草を育てること、そしていずれ国中の薬を作れてるような薬草畑を作ること。それを考えると今回の人選が鍵を握ることになる」

「鍵?」

 シャーリーが聞いてくる。

「今回の農民たちは今後、新しい薬草畑を作った時に指導者となってもらおうと考えている」

「ああ、そうだね。いつまでも僕たちが見るわけにはいかないからね」

 カルロが言うとシャーリーも納得したようだ。

「どれくらいの期間を考えている?」

 今度はローレンスが聞いてきた。

「目安として、二年」

 グラベルが言うとローレンスとカルロは頷く。

「それなら、早めに始めた方がいいね」

 カルロがそう言うと、先程まで考えていた案を直し始めた。

「カルロ、それくらい早められる?」

 ローレンスの問いに「春」と言って黙々と整備の手順書を仕上げていく。

 ローレンスとシャーリーは春からの植え付けができる薬草を選別して、どの農地に植えるか検討を始めた。


 来年の春には多分、グラベルは薬室にいない。それを考えると早いに越したことはない。

 グラベルは各農地の広さに応じた必要な人員数を書き出した。そして、視察途中の馬車の中でカルロと話し合った、薬草の運搬と経路についてまとめ上げていく。


 気がつくと陽が傾き始めていた。

 農地の整備手順書が出来上がり、ホルック領で作る薬草が決まり、その管理と運搬などが決まった。

農民たちが集まる日も決まり、グラベルたちは王宮へ帰ることにした。


「それじゃ、農民たちは僕たちが判断すればいいのかな」

 薬室に戻ってから、ローレンスとカルロが話をする。

「自分はその間に、薬草を使ってもらえるように診療所に話をしてくる」

「まだ、許可は取れていないの?」

「陛下からの許可は下りているが、診療所からの受諾の返事がまだもらえていない診療所がある。出来れば王都とホルック領は全て統一したい」

 ローレンスは確かにと言う。

「春には医師と薬剤師が許可制になるだろ」

「そうだ。こちらも陛下からの許可を頂いた。最終的なものはサイモン医師と薬室長が纏めている。それに合わせたいのだが」

「分かった。農民たちは僕たちで決めてくるよ。あと、ブランデン殿の練習日程も決めていいかな」

「任せる。早い薬草だと、夏頃には収穫できるものもあるから早めがいいだろうな」

「薬剤師への薬草はどの状態で渡すか決めた?」

「薬草によって、収穫後すぐに渡すものもあれば、乾燥してから運ぶものがある」

「そこまでの管理ができるようにブランデン殿には覚えてもらう必要があるね」

 大変だとローレンスが呟く。


 カルロが作った整備計画は来週から始まる。それまでに雇い入れる農民を決めて、その農地を担当させるかも決めないといけない。

 その間に、医師や薬剤師の説得をしなければいけない。グラベルもそうだが、ローレンスたちも薬室の仕事をしながらそれを進めなければいけない。

「本当に大変だ」

 グラベルが呟く。


 ローレンスはホルック領の農民に試験をさせていたらしい。いつの間に作っていたのか、農作物の育成方法などが出題されていた。

 シャーリーが事務室でその採点をしている。

「グラベル様、ホルック領の薬草畑には何人の農民が必要なのでしょうか?」

「三十人ほど欲しいが、受かりそうな者はいないのか?」

 グラベルは不安になってくる。足りないのか?

「二十五、六人くらいでしょうか」

 シャーリーが言っているのは試験合格者だ。

 ローレンスはかなり厳し目に試験を作ったと言っていた。これくらいは最低限の知識として必要だからと。

 事務室にはグラベルとシャーリーの他に、シャーリーの護衛を頼んだケリーとハンスもいた。なせか二人も試験を受けさせられていた。

 二人は騎士団にいた頃、診療所で治療の手伝いをしていたのでローレンスが作った試験は難なく合格していたのだが、二人は険しい顔をしている。

「何か気になることでもあるのか?」

 グラベルは二人に聞く。

「ホルック領の薬草畑ですが、ホルック領のものだけしか雇入れしないのですか?」

 ケリーが質問する。

「そう言うわけではないのだが、使用する農地がホルック領なので出来ればホルック領の者と考えている。その方が、他の領主と揉めることもないだろうから」

「私たちもお手伝いできればと思いましたが無理ですね」

 シャーリーとグラベルは顔を見合わせた。

「ホルック邸での作業がある。それはシャーリーも行くからその時に手伝ってもらえれば嬉しい」

「喜んで」

「ありがとう。今度、ホルック領の領主代理をしているブランデンが薬室に研修に来るから一緒に受けたもらえるかな」

「はい」

 シャーリーは嬉しそうに二人を見ていた。人手は多いに越したことはない。


 実際問題、薬草を乾燥させるのは農地ではムラができてしまうのでホルック邸で作業すると決めた。しかし、ブランデンたちも初めての経験なので最初はシャーリーがついて覚えることになっている。


「シャーリー、今いい?」

 カルロが部屋に入ってきた。

「採点、終わったね。見ていい?」

「はい。どうぞ」

 シャーリーが試験用紙をカルロに渡す。

 カルロはその試験を見て何枚か抜き出す。シャーリーがその様子を不思議そうに眺めている。グラベルも同じ、ケリーとハンスも何だろうという表情をしていた。

「この三人は不合格ね」

 カルロは机の上に置いた試験用紙を指差して言い、残りの試験用紙をシャーリーに返した。

「カルロ様、どういうことでしょうか」

 シャーリーが尋ねる。

「この三人、愛がないよね」

 シャーリーが首を傾げる。ケリーとハンスも同様だ。

「愛……ですか」

「うん。この間、農民たちに会ったよね。その時、話をしたのは覚えている?」

「はい。カルロ様が質問をして」

「その時、この三人は薬草をただの草だと言った。そんな人に大切な薬草を任せられない」

 薬草愛に溢れたカルロの言葉は皆の心に重くのしかかる。

「そうですね。確かに」

 ハンスがカルロに同意すると、シャーリーとケリーも頷く。

「そうです。薬草はただの草ではないないです。病気の人を治す大切な物ですよね」

 シャーリーがカルロに言う。

「分かってくれたならいいんだ」

 カルロは照れ臭そうな顔をして、ローレンスには話してあると言って部屋を出て行った。

 ただの草ではない。確かにそうだ。元農民からしたら食事になるわけでもない薬草はただの草かもしれない。だが、必要としている者はいるのだ。ただの草なんかではない。グラベルはカルロの薬草愛に感謝する。


「グラベル様、私見落としていました。大切な薬草を育てる人を探さなければいけなかったのですね」

 シャーリーが薬草に愛を囁くカルロ様にしか分からなかっただろうと呟いているのを聞いてケリーとハンスの眉間に皺が寄っていた。

 グラベルは小さく笑った。

 カルロの趣味をケリーとハンスは知らないのだろう。知ったらどんな反応をするのか見てみたい気もする。


 翌週、カルロとシャーリーは農地整備のためホルック領に向かった。ケリーとハンスを連れて。


 農民は当初の計画よりも少なくなってしまったが、カルロに言わせると薬草のことをしっかり見てもらうためには人となりも必要だと言って、ローレンスが作った試験で不合格になった者も数人雇い入れた。これから覚えてもらえればいいと言う。

 ブランデンとルイーザの研修は並行して行われた。

 薬草の運搬には騎士団の警備をつけるように手配した。

 薬草を乾燥させる場所や保管する場所もホルック邸の中に準備した。

 着々と準備が整っていく。来月には医師と薬剤師へ王宮から許可証が発行される。

 サイモン医師と薬室長が試験を行い、発行するという。その許可証がない者は診療所や薬屋を営むことはできないとした。


 グラベルは薬室長と一緒に薬剤師の試験問題を作った。動き出した計画が上手くいくことを願いながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ