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視察 後編

 もう何日、こうして薬作りをしているのだろう。ルイーザもサラも疲労の色が隠せない。


「足りないですか?」


 薬を取りにきたブランデンから薬はまだ必要だと言われた。ルイーザとサラは不安そうにこちらを見ている。


「患者はまだ、増えています。最初の段階できちんと処方されなかったので感染者が増えたのだと」

「材料が残り僅かなのです」

 シャーリーは材料の入った木箱を見せた。


「グラベル様のところにいきましょう。今、医師がグラベル様に報告に上がっていますので状況はご存知のはずです」

 シャーリーはブランデンに促されグラベルが執務室として使っている部屋に行く。


 薬を作るように言われてから会っていなかった。グラベルは執務室に朝早くから夜遅くまで籠っている。一日に何度か兵士が出入りしているがそれも早馬を走らせているのだと分かる、雰囲気的に緊迫していてとても入れる気やすさはない。


 グラベルがいる部屋に入ると丁度、医師が報告しているところだった。部屋の隅でその報告を聞いていた。やはり患者は増えているようだ。医師の話だと今まで作って来た薬の量よりも多く必要になってくる。


 ここに運び込まれた薬草は、薬室から持って来たものだと聞いた。

 シャーリーは俯いて薬室の倉庫を思い出していた。ダメだ。あれは王宮用の薬を作るための物だ。薬草が足りない。何故か涙が溢れてくる。


「シャーリー?」

 涙を拭い、顔を上げる。

「大丈夫か?」

「グラベル様、薬草がもう残り僅かです」

 シャーリーは今、言わなければいけないことを話す。

「明日には薬室から薬草が届く。但し、代替え品の材料だが」

「でも、薬室の薬草は王宮用では?」

 シャーリーは先程の考えを言う。

「そうか、シャーリーはまだ見ていなかったな。仮眠室がある建物は知っているだろう。あの奥に温室がいくつかあって、そこで薬草を作っているのだ」

 グラベルはシャーリーに伝え忘れていたと言った。

 管理しているのはローレンスとカルロなので、グラベルは立ち寄ることもなかったためシャーリーは知らなかったらしい。

 流行病の時、薬が足りなかった為追加で作られた温室だと教えられた。


「では、ここの患者の分は……」

「十分な量が送られてくるから安心していい」

 先程までの不安な気持ちが一気に明るくなる。我ながら単純だと思う。

「明日はこの屋敷から絶対に出ないように」

 グラベルがシャーリーの手を取り言う。

「何かあるのですか?」

「偽医者と薬屋を捕まえる」

「では、黒幕がわかったのですか?」

「まだだ、しかしこれ以上遅らせることもできない」

 確かにそうだ。偽医者は未だ流行病だと言って高額な偽薬を売りつけている。その為、患者が増えているのだ。

 仕方がないと言われればそうなのかもしれないが、本当に陛下の失脚を狙ったものなら、この先、グラベルの命を狙われる可能性を残すことになる。

「大丈夫だ。シャーリーはここで薬を作っていてほしい。その間に終わる」

 グラベルはそう言ってシャーリーの手を離した。

「はい」

 そうだ。今、自分がやるべきことをしよう。薬を必要としている人はまだいるのだから。


 翌日、薬室から薬草が届いた。

 その後、グラベルは「今日は管理官として」と言いながら出かけて行った。

 シャーリーは不安な気持ちを隠すように、ひたすら薬を作り続けた。それはルイーザとサラも同じだったようでほとんど会話はなく時間は過ぎていく。

陽がかたむきはじめたころ屋敷の中が慌ただしくなる。

 シャーリーたち三人は気になり、扉を少しだけ開けて部屋の外を見た。

 丁度、帰って来たグラベルと目が合う。グラベルが終わったと言って数人の騎士たちと執務室に行く。

 シャーリーとルイーザ、サラは部屋に戻り三人で喜んだ。これで患者たちはきちんとした治療を受けることが出来る。先程までの重苦しい空気を一掃した。


 その後、ブランデンがやって来て、明日からまた患者のところへ行くと言って来た。

 今日は危険だと判断され、医師は屋敷で待機していた。グラベルは偽医者のところへ、薬屋はヨハンとブランデンが、証明書を売っていた集団はアーリシュがと分担して一気に捕まえた。

 捕まえたものたちは近くの騎士団へ渡し、これから取り調べが始まると言う。


 翌日もシャーリーたちは薬作りを続けていたが、昨日までとは違い楽しく薬作りが出来た。三人はこの薬で早く良くなってほしいと願いながら作る。

 グラベルが連れて来た医師の他に、正規の診療所の医師たちの協力もあって、薬の必要な人たちに渡すことが出来た。


「噂ですか?」

 シャーリーが聞き返す。

 帰りの馬車の中でグラベルから説明を受ける。

冬風邪の人があれだけいたのに報告が少なかった訳。

「名医がいると噂を流していたのが証明書を売っていた集団だった。冬風邪にかかったものたちが偽医者のところに行ってしまったので、せいきの診療所に冬風邪の患者が少なかった」

 偽医者は報告していなかったのと診療所の看板すら出ていなかったと言う。


「王宮の方も第二弾らしきものはあったが、すでに終息していると連絡があった」

 良かったと思う。

 シャーリーは目の前のグラベルを見る。何も聞いてこない。皇太后のお茶会で何かあった事を分かっているはずなのに。シャーリーが倒れた後、皇太后のところに行ったとサラから聞いていた。


 グラベルはいずれウィルゼン公爵が保有する領地に行くことが決まっていると皇太后は言っていた。

 グラベルが行くと言う領地はホルック領ではない。その時、シャーリーはどうなるのか? ローレンスやカルロのように薬室長の部下になるのだろうか。

 領地に行くと言うことは薬剤師としてではない。どちらにしてもじぶんがついていくことは叶わない。

 父が知ったら、また縁談の話が来るだろう。それまでに正式に薬剤師になれるようにしなければ……。

 薬剤師見習いから正式に薬剤師になるには一年半から二年くらいかかるとこの間カルロが教えてくれた。薬剤師見習いになってまだ三ヶ月ほどだ。時間が足りないと思った。

 あと二年近くグラベルが王宮にいるとは限らない。

 陛下が王妃を迎える頃に領地に行く可能性が高い。茶会からかなり時間が経っている。そろそろ王妃が決まってもおかしくない。年内に陛下の婚儀が執り行われるとしたら、そのあとになるだろうか。

 一年もない。


 シャーリーは馬車の窓から景色を眺めていた。

 次は誰との見合い話が来るのだろう。誰に嫁がされるのか。せっかく手に入れた薬剤師見習いの立場を手放したくないと思う。

 いつの間にか王宮の庭にある薬室はシャーリーにとって居心地の良い場所になっていた。

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