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視察 前編

「申し訳ございません」

 シャーリーは目を伏せてもう何度目かの謝罪の言葉を呟くように言う。

「謝れなくていい。しっかり教えていなかった私が悪いのだから」

 年が明けて数日が過ぎた。シャーリーはやっとベッドから起き上がれるようになったがまだ薬室には復帰できていない。

 薬室長からはシャーリーが治るまでグラベルも休むようにと言われていた。

 グラベルはシャーリーの看病をしながら、研究と薬室長に言われちる視察の準備に追われていた。


「申し訳ございません」

 シャーリーの部屋で視察の最終か確認をしていたグラベルは笑う。

「もう、謝らなくていいと言ったはずだが?」

「夜会、出ることが来ませんでした」

 今夜は陛下主催の夜会が開かれている。一緒に出ようと話していた夜会だ。遠くで音楽が聞こえる。

「夜会はまた次がある。その時に一緒に出よう」

「はい」

 寂しそうに返事をする。まだ、迷っているのだろうか。グラベルは出来るだけ今まで通り接する。


「薬室長から依頼があって、視察に行くことになった。シャーリーも同行するように」

「視察ですか?」

「毎年ではないが、この時期第二弾の冬風邪が流行るのだが、今年はない。それを確認するためと薬の状況を調べる」

「薬ですか?」

「粗悪品が出回っていると報告が上がって来ている。取り締まりも管理官の仕事だから」

 サイモン医師から今日、もう大丈夫だと言われた。シャーリー自身ももう動けると言っている。薬室長に報告して、来週から視察に出ることにした。

 薬草園もローレンスとカルロが見てくれているので安心して出かけることが出来る。

 サイモン医師や薬室長、ローレンスやカルロからも情報を得て、視察場所も決まっていた。


○○○

「ローレンスとカルロがこの辺りだと言っていたのだが」

 グラベルとシャーリーはできるだけ質素な服で街を歩いていた。

 休暇で帰省していた実家からの帰り道、ローレンスとカルロはそれぞれ別の人物から偽物の薬売りの話を聞いたと言う。それがこの街の薬屋だと。


「グラベル様、あそこ」

 シャーリーの視線の先には小さな家があった。入り口には薬屋と看板が出ている。

 グラベルとシャーリーがその薬屋の扉を開ける。

「いらっしゃい」

「風邪薬と塗り薬はありますか?」

 シャーリーが薬を頼む。シャーリーの後ろでグラベルは店主らしき人物を観察する。

 二人で決めたものだ。シャーリー曰く、女性なら騙しやすいと油断するはずだと。

「風邪薬はこれ、塗り薬はこっちだね。どれだけ必要だね」

 シャーリーは瓶に入った塗り薬を見ていた。

「こちらはその薬草を使っていますか?」

「なに? 疑っているのかい。うちはきちんとした物を使っているよ」

 店主らしき男は柔和な顔で言うが目が険しくなっている。

「以前、別の薬屋で買った塗り薬でかぶれてしまったので慎重になっているのです」

「そりゃあ災難だったね。うちは王宮の薬剤師が作っている薬だから安心していい」

「王宮の薬剤師様?」

「私だよ。ほれ、ここに証明書があるだろう」

 そう言う男は壁にかかっている証明書と指差した。

「それは安心ですね」

 シャーリーが風邪薬と塗り薬のお金を払い、二人で薬屋を出る。


「あの証明書は偽物だ」

 グラベルは薬屋を出て角を曲がり、薬屋が見えなくなってから告げる。

 あの店主の年齢で王宮の薬剤師を名乗れる人物はいない。

「ヨハン、あの薬屋を調べろ」

「はい」

 ヨハンが兵士に指示を出している。数人の兵士が方々へ散らばっていく。

「もう一軒のほうへ急ごう」

 グラベルとシャーリーは馬車に乗り込んで次の薬屋に移動する。

「この塗り薬、色が変です。匂いも」

 シャーリーが瓶をかざしながら言う。

「風邪薬もただの粉だ」

「粉?」

「多分、麦ににたくさのこなだ。この粉に何か別の物を混ぜ合わせている」

「それは先程の風薬の値段とどれくらい違いますか?」

「麦に似た草に薬効もなければ、食料としての価値もない」

「価値はない? グラベル様、しっかり調べてくださいね」

 許せませんとシャーリーは言う。

 元気が出てきたようで安心する。


 次の薬屋は隣町にあった。

 そこでも先ほどと同じようにシャーリーが薬を買い求めている間、グララベルは観察している。


「喉の痛みと熱があって、いい薬ありますか?」

「冬風邪だね。それならこの薬がいいよ」

「喉の痛みと熱以外に何に効きますか?」

「これは、関節の痛みにも効くけど、それは冬風邪のときに出る症状だからだ」

 シャーリーとグラベルは薬を買い店を出る。

「ありましたね」

「あったな。どう言うことだ?」

 グラベルは少し考えてから、アーリシュに声をかけてた。


「取り敢えず、一旦戻ろう」

 グラベルとシャーリーは今日の宿泊先である屋敷についた。

「グラベル様、ここは」

 シャーリーは気がついたようだ。

「元ホルック伯爵邸だ。ホルック領は私が管理することになった」

「お帰りなさいませ」

 サラが出迎える。

「侍女たちも連れてきている。そのほうが安心だろ」

 グラベルが言うとシャーリーは笑っていた。



「お待ちしておりました」

 一人の騎士が屋敷から出てくる。シャーリーがその騎士を見ていた。その後ろから現れた人物を見て更に驚いている。

「シャーリー様、お久しぶりです」

 ローレル子爵の令嬢、ルイーザだ。

「お久しぶりです。ルイーザ様」

 シャーリーがあの騎士がルイーザの婚姻相手だと気づいた。

「シャーリー様、こちらへ」

 ルイーザが部屋まで案内してくれる。

 グラベルの方を見ると先程の騎士と歩きながら話をしている。

「私の夫、ブランデンです。グラベル様からこのホルック領の管理を任されていますの」

 ルイーザは陛下からの婚姻の許しをもらったが、父からはブランデンの身分が低いと言う理由で難色を示していたとき、グラベルからホルック領の領主代理を打診されたと言う。それでローレル子爵はルイーザとブランデンの婚姻を認めてくれたと言う。


「あの時はもう家には帰れないと思っていました。それが、グラベル様とシャーリー様に助けていただき、陛下から婚姻の許しもいただき、グラベル様からはこうして仕事までいただいて感謝しているのです」

 シャーリーは自分の知らないグラベルのことを聞いて、絶えず自分の側にいて薬剤師の仕事を丁寧に教えてくれていることに申し訳なく思った。

 そういえば、診療所と薬室の管理官もしていると言っていた。ウィルゼン公爵の領地はここ以外にもあったはず。そこの管理も誰かに託しているのだろうか。


「シャーリーさま、このお部屋をお使いください。お荷物はこちらに運んであります。必要なものがあれば仰ってください」

 ルイーザは頭を下げて部屋を出て行こうとする。

「ルイーザ様、普通にしてください。私は今、薬剤師見習いです」

「私は騎士の妻です」

 シャーリーとルイーザは笑い出した。

「あまり違いはありませんね」

 シャーリーがいうとルイーザもそうだと言った。



 その後、グラベルの部屋に呼ばれていく。

「明日、診療所の視察に行くので準備しておくように」

「それは領主としてですか?それとも管理官として?」

「明日は、領主として。シャーリーは侍女に扮してついてきてほしい」

「はい」

 この視察は管理官として来ているはずだが?

 グラベルの考えがわからなかった。それにシャーリーが侍女にとは薬剤師見習いを隠したいのだろうか。

 服はサラにでも借りようかと考えているとルイーザから明日着ていく服だと渡された。


 翌日、グラベルと領主代理のブランデン、侍女に扮したシャーリーとルイーザが診療所に視察に行った。

 冬風邪を調べる為なら管理官の方がいいのではと思いながらついて行く。

 グラベルは診療所の医師に質問している。

 シャーリーは診療所に置いてある薬を横目で見る。怪しそうな薬は見当たらない。患者に飲ませている薬も冬風邪の薬だ。

 その後、二軒の診療所を回り視察を終えた。



 その夜、グラベルに呼ばれて談話室に行くと先程の騎士ブランデンとルイーザ、サラも呼ばれていた。

「薬屋の正体が分かった」

 グラベルから説明された内容にシャーリーは驚きを隠せなかった。

「二軒目の薬屋にあった証明者ですが、あそこに書かれていた名前は本物の薬剤師の名前でした。但し、先の流行病で亡くなっています」

 大きめのテーブルを囲むように集まった者たちがあう座っている。

 アーリシュからの報告は薬剤師がもっていた試験合格の証明書を似せて作られているようだ言う。そして、それは一件目の薬屋にあった物も同じだが、そこに書かれていた名前はあの店主の名前で、証明書を売っている集団があることが分かった。


「冬風邪ですが、この周辺では流行していないとほうこくがあります。また、流行病だと言うものが多数いると噂があります。但し、正規の診療所からはそのような患者は出ていません。グラベル様が派遣してくださった医師の見立てでは流行病ではなく冬風邪だろうと言うことです」


 ブランデンはグラベルから依頼があり、先行して調べを進めていたようだ。

 そして、その医師を油断させるために今日の視察を準備したと言う。今日視察した診療所は正規の診療所で冬風邪もしっかりと診断され薬も正しい物が処方されていた。


 シャーリーは自分が寝込んでいたためにグラベルが動きたくても動けなかったのだと思い、自分がグラベルの負担になっているのではないかと落ち込む。


「流行り病と診断している医師たちがあの薬屋と繋がっていました。医師たちが持っている証明書もあの薬屋にあった証明書と同じものでした」

 最後にヨハンが告げる言葉にシャーリーは恐ろしくなった。

 王宮が出したと見せかける偽の証明書。薬屋は偽の薬を高額でうる。医師は冬風邪を流行り病だと偽り民を不安にさせここでも高額の薬を売りつける。多分、医師が処方する薬も偽物だろう。

 冬風邪と言っても正しい薬を処方されなければ死ぬこともあると聞く。民たちは流行り病だと言われているのなら助かればいいくらいの気持ちで縋っているのだろう。


「グラベル様、これは何が目的なのでしょうか。これだけ大掛かりなのは金品だけが目的でしょうか?」

 シャーリーがふと気になったことを聞いてみた。

「陛下の失脚を狙っている者の仕業だと考えられる」

 グラベルの言葉でその場にいた者全員が息を飲む。

「誰かが裏にいると?」

 シャーリーが聞くとアーリシュの目が険しくなる。


 陛下の失脚はグラベルが王を継ぐのか、それともグラベルも失脚するのかどちらかだ。

 シャーリーに手には汗が出てきた。テーブルの下でスカートを握りしめる。

 その時、シャーリーの手にグラベルがてを重ねて来た。グラベルは真っ直ぐに前を見据えている。グラベルの方が不安なはずだ。これ以上自分が足手まといになってはいけないとシャーリーは気を持ち直した。


「裏にいるものはまだ分かっていない。出来ればそこまで突き止めたいが、あまり時間をかけたくない」

 グラベルはアーリシュとヨハンに引き続き黒幕を探すように言うとシャーリーにルイーザとサラに手伝ってもらい冬風邪の薬をすぐ作り始めるように言った。

 ブランデンはグラベルが派遣した医師とともにその薬を流行病と診断された者へ渡すように言う。


 ルイーザに別室に案内されると、薬を作るための材料や機材が一色あった。あまりの用意の良さにシャーリーは声も出ない。


「シャーリー様?」

 サラに声をかけられ我に返る。

 シャーリーは置かれていた薬の材料を確認して、正規のものだと分かった。

「ルイーザ様、こちらの薬草を粉末にしてください。サラはこちらの果実をすりおろして搾り汁を作ってください」

 二人にそれぞれ頼んで、シャーリーは鍋を火にかける。

 三人は黙々と薬作りを始めた。出来た薬を袋に詰めて、用意された籐のの籠に入れていく。


 どれだけ作ればいいのか分からなかったが、今までの話を聞いているとここにある材料分は必要だとグラベルは考えているのだろう。それなら、ここにある薬草全て薬にする必要があるのだ。

 シャーリーは必死に鍋の中の材料を混ぜ合わせた。


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[気になる点] あの店主の年齢で王宮の薬剤師をあのれる人物はいない あのれる→なのれる、かな? [一言] 更新が楽しみです(^^)
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