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初めての薬草作り

「残りの苗を取ってくるから先に進めておくように」

 グラベルはシャーリーに先に種まきを頼み、残りの苗を取りに行く。


 先日シャーリーが決めた植え付けの場所に沿って、土づくりから始めて今日やっと種をまく準備が整ったのだ。

 荷物を運ぶための小さめの荷車に苗を乗せていく。


「グラベル様、すぐこちらにお越しください」

 診療所の侍女がグラベルのところに走ってきた。


「陛下に何か?」

 侍女が陛下の診察にいつもついてきている者だと顔を見て分かった。陛下に何かあったのかと心配になる。


「そうではないのですが、とにかく急いで来てください」

 侍女の様子から何かあったのだと思いグラベルは苗をそのままにして侍女についていく。

 向かった先は薬草畑だ。


 薬草畑に佇むシャーリーの前には令嬢らしき女性が二人、グラベルの側近に剣を向けられている。但し、鞘は抜かれていないので今すぐ傷つけるつもりはないのだろう。


 二人の令嬢とシャーリーの間にサイモン医師が、シャーリーの側にはカルロと少し離れてローレンスがいた。


「薬室の掟はご存知かな」

 感情が抑えられている声がサイモン医師から聞こえる。


 令嬢たちはグラベルを見ると動き出す。アーリシュとヨハンはすかさず動きを止める。もう一人の侍女が呼びに行ったのだろう、令嬢たちの後ろから門番たちが数人やってくるのが見えた。


「ウィルゼン公爵、助けてください。この者たちが私たちに刃を向けるのです」


 アーリシュとヨハンが何もないのに剣を向けることはない。それにサイモン医師の言葉が気になる。


「グラベル、あそこ」

 側にきたローレンスが視線でシャーリーの足元を指す。


 畑は荒らされ、種が落ちていた。令嬢たちのドレスの裾は土で汚れていた。

 グラベルは怒りを隠し聞く。

「どうしてこのようなことになったのか教えていただけますか?」


 シャーリーは俯きスカートを握りしめている。それを支えるようにカルロがいる。


「ウィルゼン公爵、私たちがお仕事のお手伝いをします。ですからウィルゼン公爵の邪魔をするこの者にお暇を与えてください」


 グラベルは嫌悪感を滲ませる。

「先程サイモン医師が言われた意味を分かっておられないようですね」

 邪魔はどっちだと言いたいのを我慢する。ここでそれを言っても意味がない。


 令嬢たちはサイモン医師を見て怪訝そうにする。

 サイモン医師はセシル伯爵で陛下の主治医だ。表向きの仕事をしているわけではない為会う機会がなく知らなくても仕方がない。だが、名前くらいは知っているだろうと思い言ってみた。

 二人は自分たちが何をしたのか薄々分かってきたようだ。


「薬室の掟は多岐にわたる。関係者以外はこの薬局への立ち入りは禁止されている。また、薬室が所有する場所への立ち入り、侵入及び触れることも一切禁止されている。これが何を指すか分かっているだろうか」


 薬は毒にもなる。陛下の薬を作る薬室はそれだけ管理が厳しい。

「私たちはお手伝いを……」

 令嬢たちはまだ訴えようとしている。

 アーリシュとヨハンは既に鞘を抜いている。門番たちは持っている槍を令嬢たちに突きつけていた。


「ウィルゼン公爵」

 サイモン医師がグラベルを呼ぶ。表の名前で。

 グラベルは一呼吸おく。


「薬室管理官ウィルゼン公爵として命ずる。この二人を騎士団へ連れて行き罪状を明らかにして公にするように。その後牢屋いれ反省させろ。期間は一ヶ月だ」


 規定で決められているものだ。あの二人がしたこは一ヶ月では足りないくらいだが。

 令嬢たちは門番たちに連れられていく。


 グラベルはサイモン医師に礼を言う。

「いい、いい。陛下の診察の帰りに気になって寄っただけだから」

「気になるとは?」

「そちらのお嬢さんが先日、疲れた顔をしていたので様子を見に来たのだ」

 サイモン医師はシャーリーを見ていた。


 ローレンスとカルロはシャーリーの側で落ちた種を拾っている。

「大丈夫か?」

 グラベルがシャーリーに聞くと小さいこので「はい」と答えた。いつもの元気がない。何を言われたのだろうか。


 その後、アーリシュとヨハンも加わり一緒に種を拾い畑を整えた。

 カルロは種を植えながらシャーリーに説明している。どれだけ綺麗な花が咲くか、いい香りがするとか、薬効を交えながら。その顔は薬草を採取している時と同じ頬を染めていたが、シャーリーは楽しそうに聞いていた。



「そういえば、サイモン医師に何を言われたのだ」


 事務室に戻ってから聞いてみた。サイモン医師が帰り際、シャーリーに話しかけていた。

 シャーリーは恥ずかしそうにしている。


「何か言われたのか?」

「軟膏の作り方が上手いと褒めていただきました」


 そうだったのかとグラベルは安心する。薬に作り方が良くないと言われたら自分にも責任がある。そこで気がついた。あまり褒めていなかったと。


「確かに軟膏もいうか、塗り薬全般、上手だな。明日から風邪薬を練習しようか」

 グラベルが提案するとシャーリーは喜んでいた。


「グラベル様はどういった立場なのでしょうか?」

「立場?」

「はい。今日、薬室管理官と言われていましたので」

「まだ、言っていなかったか。薬室では薬剤師グラベルとしているが、表向きというかウィルゼン公爵としては診療所と薬室の管理官をしている。だからあの時、サイモン医師はウィルゼン公爵として判断しろと言ってきた」

「そうだったのですね。あの時、私も薬草園に入り込んでいたのにと思っていましたが、私は処罰の対象にはならないのですか?」


 グラベルは今ごろ気づいたのかと笑った。

「あの時、シャーリーは薬剤師になりたいと言って薬草園に来ていただけだ。あの二人は薬草畑を荒らした。その違いだ」


 それにすぐ門番に連れて行かれていただろと言うとシャーリーは耳まで赤くしていた。

 今回のことは薬草畑を荒らしただけではなく、シャーリーに危害を加えようとしていた。


 あの後すぐ二人の父親がやってきて牢屋から出すよう騒いだが、グラベルが罪状を伝えると真っ青になって帰っていった。あの二人を使って上手く牽制出来たらしい。

 そして、シャーリーのカルロの見方が変わってきているのが喜ばしく思う。

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