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水彩ぺいんと  作者: ♦816♢
3/3

使い慣れた新しい我が家


 電車に揺られながら約2時間。

景色がコンクリートジャングルからのどかな田舎に代わり、いつの間にか車両を独り占めしていた。

古びた赤い座席と長閑な風景が流れていく窓、人目を気にすることなく集中できる環境。次が降りる駅だと気付いた時には切り取った風景達が隣の座席を占領していた。

それらをファイルに入れカバンにしまい込み、通り過ぎてしまう前に扉の開閉ボタンへと席を立った。


 3月下旬、まだ少し冷たい風と暖かくなり始めた日差しを感じながら目的地へ足を進める。

今日は母さんから任された仕事がある為、写真という形で気に入った瞬間をメモしていく。

少し前までは気に入ったその瞬間に筆をとらないと気が済まなかったが、母さんとじいちゃんの勧めで写真に収めることで皆と同じ様に生活出来るようになった。

 豆腐も売ってる味噌の三浦(みつうら)、今でも現役看板娘 かや婆ちゃんの駄菓子屋 (すず)りん、昼寝を誘う香りの畳店 (なご)み…、昔懐かしいこの小さな商店街はいつ来ても何度見ても心を掴まれる。

駅から浄妃川(じょうひがわ)という小川に繋がる商店街の真ん中にある小さな祠に一礼をする。

商店街のみんなに大切にされているこの祠にはお地蔵様がいるわけでもないのだが、駄菓子やお餅のお供えがされ祠の中には畳が敷いてある。


……ㇼ、……リン。


「え…?」

柔らかな鈴の音に顔をあげた一瞬、祠の中に丸っこい石と樹が融合したような物が見えた。

気の、せいでは…、見間違いではない。瞬きするまで確実にそこにあったのだと僕の本能が確信している。

そこに存在している見えないものに首をかしげていると設定していたリマインドで現実に戻ってくる。

軽快な音楽を流すスマホの画面を確認すると昨日の僕から「掃除をする!じいちゃん家に帰るぞ‼」と注意されてしまった。

 気を取り直して新しい家路を足早にたどり、家に着いた頃にはお昼を告げる腹の音。

腹が減っては何とやら、大きな桜が立つ庭を一望できる縁側で足を投げ出しながら母さんに持たしてもらった炊き込みご飯おにぎりを頬張る。

出汁の効いた醤油の香ばしいお焦げにやわらかい里芋のねっとり感、食感が楽しい鶏肉っ…。

ばあちゃん直伝である母ちゃんの炊き込みご飯は五感が鋭いじいちゃんも認めるほどのお味だ。


 広い庭のど真ん中に堂々立つ桜は暖かい春に薄く染まる蕾を期待で膨らませていた。

満たされたお腹でぽかぽかになった身体を横にしたい気持ちを全力で抑え込み、立ち上がって大きく伸びをする。

「よし、始めるか!」




 集中すると早いのが僕のいいところ。

かなり集中していたらしい、気づいたときには日が傾き始めていて屋根裏以外の掃除を終えることができた。毎月1回以上はここに遊びに来ていたから掃除道具の位置や汚れやすい箇所、時間のかかる箇所も覚えていたのが良かったな。

「…でも、さすがにつかれたぁ。」

じいちゃんお手製の木造二階建てのほとんどを1人で掃除するのはいい運動になったぁ、と庭が見える居間で大の字になる。



まーわれ、まわれ

みーずよ、まわれ

きよめてまわれ

やーまに、かーわに

うーみに、そらに

まーわれ、まわれ

みーずよまわれ

きよめてまわれ



「___…ゃと、あやと。彩十。」

肩あたりにトントンと母さんにやさしく小突かれてハッキリしていく意識と身体を包むタオルケットに寝落ちしていたことを教えられた。

「…ぅんー、おかえりぃ。」

寝起きの情けない僕の声に「ただいま」と微笑む母さんを見てここが我が家になったことを実感する。

ご飯ができてるよと2人で囲む食卓は今日もいつも通りおいしかった。


 風呂から上がり事前に片づけた2階の自室で明日に備え眠りについた。


次回の更新予定日は11月4日です。

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