センパイのうまい棒をプレミアムうまい棒に取り替える話
山もなく、オチもなく、意味もないですが、やおいでもないです。
うまい棒。
それは子供の頃からなじみの駄菓子だ。
昔はコンポタを筆頭に、数種類の味しかなかったような気がするが、今は色々な味がある。
そしてこの前、私はコンビニでプレミアムうまい棒なる上位互換商品を見かけたので買ってみた。試しに食べてみたところ、私程度の舌では通常品とプレミアムの違いはわからなかった。
が、今、私の手元には、そのとき買ったプレミアムうまい棒明太子味が10本残っている。
時刻は深夜零時をとっくに回ったところ。
守衛さんの巡回も終わって、フロアには私一人。
明日朝イチで使う資料の作成で残業し、今はそのプリントアウトが済むのを待っているだけ。電車はもうないので、タクシーか仮眠室で寝るかの二択になるのだが。
「………」
前々から気になっていることがある。
隣のシマの――ヤクザ的な意味ではなく、一群の机という意味で――センパイ社員さんが、机の上にうまい棒を常備しているのだ。
ビニール袋に入れて常に10本ほど。
残業前提の会社だけに、夜食を常備している人は多い。
でも、課も違う、名前も知らないそのセンパイさんは、いつもうまい棒を置いている。
ちなみに食べているのを見たことはない。
たまたま私がいないときに食べているのか、それともなにか大切な思い入れがあるうまい棒で、ずっと取っておいてあるのかはわからない。
大事なことなので繰り返す。
守衛さんの巡回も終わって、フロアには私一人。
これ、取り替えてみたいよね?
ちょっと軽犯罪になりそうだけど、やっちゃおうか?やっちゃうよ?
こそこそとくだんのセンパイの机に近づき、ビニール袋の中を改める。
ノーマルタイプのうまい棒明太子味が10本。
それをごっそり抜き取り、代わりにプレミアムうまい棒明太子味10本をそそくさと押しこむ。
やってしまった。やってやったぞ!
私は抜き取ったほうのノーマルうまい棒明太子味をかかえて、改めて検分する。
とくに名前が書いてあるでもなく、賞味期限もべつに切れていない。
これで、何か思い入れのある昔のうまい棒をずっと取っておいてある説は消えた。もしかすると、思い入れはあるのかもしれないが、今ある10本からでは分かりようがない。
とにかく、この取り替えに気づかれてもセンパイさんが大騒ぎするようなことにはならなそうだ。
私はセンパイさんの机、鍵のかからないひきだしを勝手に開けた。
そして、一番奥の見えづらいあたりに、抜き取ったノーマルタイプのうまい棒10本を放りこむ。
これでよし。
ちょうど仕上がった資料をプリンターから回収して、念のため部数を数える。
問題なし。
さて、うまい棒が知らぬ間にグレードアップしていたと知ったセンパイは、どんな顔をするだろうか。
明日を楽しみにタクシーで帰ろう。仮眠室に泊まると、無駄に疑われそうだしね。
私はパソコンを落とし、鞄をつかみあげると、フロアの電気を消した。
お読みいただきありがとうございました。