表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

憧れるだけだけど

『今年の夏は青系で攻める!』『男は“ピンク”でオトせ!』『大人リップで変身サマー!』


 学校帰りに立ち寄った本屋で、そんなポップでキュートな煽り文句のファッション雑誌を手にしたわたしは、ほおと溜息を一つついた。


 いいなあ。


 可愛くて、ふんわりしてて、どこからどうみても『女の子』で。


 そんなモデルの女の子達がとってもきらきらしていて憧れてしまう。


 わたしなんかにはとても手が届かない彼女達。


 きっとマシュマロみたいなフリルがついたスカートも、可愛い色合いのカーディガンも、大人の女性みたいな髪型も、どうせ似合うことはない。


 だって不細工だから。


 ブスだから。


 学校帰りの制服デートも、友達とワイワイしながらクレープを食べることも、そんなのは夢のまた夢の話で。


 と、そんなことを考えていると、今まさにワイワイ言いながらわたしが読んでるのと同じ雑誌を手に取る女の子達がやってきた。それを見て思わず手にした雑誌を元あった位置へと戻していた。こっそり彼女達のほうを窺うと、羽織ったカーディガンは指先をちょっと出す感じ。髪留めなんかは眩しいブルー。指先にピンクのマニキュアを塗って、唇はグロスできらきらしている。


 女子、だ。


 女の子、だ。


 わたしなんかよりも、ずっと。


 ――っていうか!


 ――わたしみたいなブス女が、こんなおしゃれな雑誌を立ち読みしてるのがそもそもおこがましいんだって! 自意識過剰で、気持ち悪い!


 なんだか後ろめたい気持ちになって、そそくさとその場を後にする。


 本屋を出てすぐのところにあるショーウィンドーには、わたしのみすぼらしい姿が映っていた。


 長い髪の毛は、前髪が顔を覆っていて貞子みたい。背は低くてちんちくりん。最後の身体検査の時は、確か百五十センチもなかったと思う。カーディガンなんておしゃれなものは羽織ってなくて、普通の制服を普通に着ているだけ。しかも、背が伸びなかったせいで少しダボっとしていてだらしがないし、はっきり言って第一印象は地味で根暗。肩から提げた、大きなカメラポーチが余計にそんな印象を際立てる。


 教室の隅で埃をかぶってても気づかれないコンセントのコードみたいな感じ。


 さらには――


「あ、ちょっとおじょうちゃん。道を聞きたいんだけれどね――」


「ひっ」


「あ、ごめんよ。驚かせてしまったね」


「あ、あああの、いえ、あの、べべ、別にそんなことは……えっと、あう」


 極度のコミュ障。


 完全なダメ女だ。


 人と上手く話せない。おしゃれだって分からない。可愛くもなんともない、いてもいなくてもいい存在。


 それがきっと、わたし。綾川美咲、十六歳。


 とことんダメな、陰気な女。


 はぁ……。


 ふと、脳裏にきらきらとデコレートされた女の子の姿を思い出す。


 ……ああなれたらなあ。


 どうせなれないけど。憧れるだけだけど。


 憧れるけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ