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危機俺!  作者: 一集
第三部 おや、村の様子が?

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57話 そうだ、手紙を読んでみよう。




俺が生まれてこの方、見たことがないほど活気に溢れる村。

ちょっとだけ取り残された感のある俺。


去年までは少しサボろうもんなら死活問題だったから、それはそれは誰よりも多く働いていたものだけど。

……子どもだからね。どんなに頑張ったって大人ほどの仕事量にはならない。

だから死に物狂いで働いて、やっと細々とした食料が貰える程度。


なのに、なんでこうなったんだ?

仕事くださいと言っても、お前はいい、とか。好きにしてろとか。

しかも、働いてないのにちゃんと食料(配給)貰えるし。


なんなら今は黙っててもリンがメシを作ってくれる。

あの材料はどこから?と思ったことはあったが、リンが身を削っているというわけではないようだ。


「あれ、イサーク? 食料ならさっきリンが来たから渡しておいたよ」


ということらしい。

別に嫌とかそういうわけではなく、単純に疑問だったから「なんで?」とリンに聞いてみた。


「わかんない。いつのまにか、そーゆーことになってた」

とのこと。


リンにわからんものが、俺にわかるわけがない。

結論、「まーいーか」である。


実の所、俺は雪が消える前にお婆の所を出て自分の家に戻った。

めっちゃ渋られたけど。

ってか、なんなら周りの人間全員に止められた。


なんでやねん。

俺の家やぞ。


ひそひそと話し合った大人たちは渋々許可をくれたけど、以降、夜が深まった時間まで起きてると夜警担当の人間が見回りついでに戸を叩いて就寝を促してくるようになった。

毎度びっくりするわ。

扉を開けるとそこそこ物騒な格好をした大人がどーんと立ってるんだから。

どうしてもランプの明かりが漏れてバレるんだよな。どうしたもんか……。


多分リンが毎日律儀に訪問してメシ作ってくれんのも、同じようなことなんだろう。

俺んとこ来る前にお婆ん家にも通ってるみたいだし。

こんな小さい子どもに仕事を与えるなんて、とは思わんが、(働いてない子どもなんていないし)もう少しやりがいのある仕事にしてやってくれ、とは思う。

俺としてはありがたいんだけどね? 実際助かってるし。


でもさ、これもうほぼヒモじゃね?

俺がサボり出したら終わるよ?

ダメ人間まっしぐら。

人間なんて誰だって楽したいもんなんだからさ。

甘やかすのも大概にしないと。


そんなわけで俺は悪魔の囁きに抗って、他の方面で役に立てないかと頑張っているところだ。

具体的にはね、コンロもどきを作れないかと奮闘中。

これがあればリンの仕事も時短できるだろ?

俺の世話ばっかさせられてるのはあまりにもかわいそうだ。


「ねえ、おにいちゃん! どうしてじぶんでやること増やしちゃうの!? なんでちゃんとごはん食べないの? きのうはいつ寝たの!?」


リンが地団駄踏んでるが。まあまあ、落ち着けよ。

これが出来たらきっとお前も驚くぞ。

るんるんで話したら、「つぎやったらリン、おにいちゃん家に泊まるからね?」と脅された。

よくわからん圧に思わず「スイマセン」と謝ってしまった。


そんなこんなで日々は過ぎ。

雪が完全に消え空気が柔らかくなる頃のこと、前向きな喧騒に包まれた村を訪ねてきた顔があった。


依頼を受けて手紙を届けにきた冒険者だ。


ここの雪が消えるってことは、まあ、麓じゃとっくに春ってことだ。

時期的には随分と前に出されたものなんだろう。


「イサーク、ほらお前にも」


その手紙、なぜか俺にも一通。

なんで俺?


首を傾げながら手紙を広げた、が。


「うげ、旧文字かよ!」


よ、読みにくぅ……。

とはいえ、差出人がドナだったので仕方ない。


「そういえば、新文字が作られる前に村を出たんだったか」


この場合、時が経つのは遅いというべきなのか?

なんかもう新文字使い始めて何年も経った気がするのに、ほんのひと季節程度とは、どうにも感覚がバグるな。


新文字に慣れちゃうと旧文字の使いづらさが半端なく感じる。

ほとんど暗号読解みたいな気持ちで手紙を読み進めると、何やら嘆きの文章が見えてきた。


つまりは、すぐには村に帰れないと。

最後は自分が帰るまではなんとか無事でいてくれと締められている。

ドナが俺をマンボウかなにかと思ってる可能性が微レ存。


しかし、である。

帰れないとは何ぞや?

スキルもらいに行っただけなんじゃないの?

なにか問題でも発生したか?


と思ったらそうじゃない。

スキルは無事に貰えたらしい。


ドナは風属性の近接魔法をゲットしたそうだ。

元々持っていた風属性の魔法が中距離ばかりで、伸ばしていくにしても遠距離魔法を使えるようになるのが成長線だったらしいから、思わぬところで手に入れた近接攻撃手段に文字からも喜びが滲んでる。


まあ、そう……。そんな気はしてたけど。

思わず呆れたため息が漏れてしまう。


「スキルで魔法が貰える確率ってマジで低いらしいんだけどな?」


この俺がどれだけ懇々切々と村の大人たちに、あってないような希望は捨てろと説得されたことか。


ちなみにね、他もすごいよ?

アランは雷の魔法で、ユリアに至っては元々持っていたのとは別の属性・地属性の魔法。テオはバフ系の魔法だそうだ。


なにその天文学的な確率……。

田舎から出てきた貧相な子ども四人全員が魔法系スキルとか、付与した側も意味が分からなかったんじゃないか?

俺は報告読んで罵倒が出そうになったから、気持ちはわかってやれると思うんだ。


てかな?

ドナさん、ドナさんや?

スキルなんて人さまにそうホイホイ言うもんじゃないからー!!

しかも勝手に他人のスキルまでバラしたらいよいよマズい(滝汗)


俺は読んでソッコー手紙を燃やした。

証拠隠滅! 俺は何も知らない、何も読んでない!


村のように紙が普及してないから、手紙は革製だったのでとても燃えにくかった。


それにしても、改めて考えても手紙のコストが高すぎる。

マジで紙を作った俺、グッジョブ。


ちなみに他にも手紙は何通か来てたんだけど、革製の直書き以外に魔法版もいくつか配達された。

ユリアとルパート・マチルダ両名から村長宛に届いたものがソレだ。

革製手紙よりよほど高いらしいんだけど、なんかいきなりリッチになってんな、あいつら。


「そりゃそうか。世界広しと言えど、あいつ等並みのスペックはさすがに稀だろうし」


元々魔法が使えて?

スキルでも漏れなく魔法を貰って?

それが四人全員とか。

こんなん、さすがに目立つ。

パトロンの一人や二人簡単に捕まえられることだろう。


で、なんで雪が溶けたのに帰ってこないのかって話に戻るけど。

どうやら英雄の卵を目の当たりにしてテンションの上がったルパートマチルダ夫妻が、四人を連れてそのまま武者修行に繰り出したかららしい。


冒険者登録(カッケー!?)して実践経験を積む算段とかなんとか。

それらが学ばなきゃならないことなら、確かに一度村に帰ってくる意味はない。

これはきっとあいつ等にとっては良いことだ。


しかも定住型ではなく、今回ウチの村に配達に来た冒険者のように、旅を必要とする依頼を受けつつ、という話らしいので一体どこまで行くのやら……。


彼らが知ることになる世界の広さは想像もつかないな。

俺にとって世界なんてのはこの村だけだ。

国の地図どころか、近隣の地理すら知らねーし。


正味この世界、どのくらい広いのかね?

地球くらいか?

だとしたら、俺が世界を知る日はきっと来ないだろう。

町から町への人移動もままならない、中距離移動の電車も遠距離移動の飛行機もないのでは、どうしたって生きてる間に世の中を見て回ることは不可能だ。


まあ、……見てみたいかって言われたらそうでもないんだけど。

だって人と身分のしがらみは現代日本よりはるかに強いらしいし?

ヨーロッパでいう中世とか日本でいう封建時代みたいなもんか?


となると、俺は一生村から出ない方が逆に自由な生活を送れるのかもしれない。

なんか異世界転生してここまで冒険心がないのは俺くらいなんじゃ……?


ん゛んっ、ごほん!


ちな、ドナは相当駄々をこねたらしい。

だが「一人で帰れるんなら帰ってもいいよ」というカウンターで撃沈されたようだ。


危険あふれる世の中である。

未熟者が一人で帰郷するには、山に分け入らなきゃならない村への道のりは難易度が高過ぎる。

さすがのドナもそれが無謀だということは理解していた。

いやはや、思いとどまってくれてよかった。


とは言え「一人で村に帰れる実力をつけて、すぐに帰るから!」と書かれてたのが実に不穏。

本気で一人で帰ってくる気じゃないよな?

危ないからよしてくれ。ちゃんと団体行動しなさいよ。

別にそんな急いで帰ってくるような故郷でもないだろ。


「イサーク……お前、すごいな。手紙燃やすとか」


いつも通り一人の思考に浸っていたら、間近で聞こえた声にはっと現実に引き戻される。

そうだった。

ここにいるのは俺の奇行に慣れて、気にも留めなくなった村人だけではない。


「それ高いんだぞ、知ってっか?」


手紙を配達してきた相手にドン引きされてしまった。

確かに手紙は革製なだけあって量産できない。普通は使いまわしするらしい。


「あーいや、うん」

「てかお前、文字読めんのか。すごいな。心配してたけど、結構優遇されてんじゃん」

「まあ、おかげさまで?」


思わずごにょごにょと誤魔化してしまう。

そしてそれで誤魔化されてくれる彼。あまり細かいことに頓着しないところはダンおじさんに少し似てる。

……さすがにおじさんと似てるはマズいか、こんだけ若いんだし。


「それにしてもちょっと見ない間に村が随分と様変わりしたな?」


トントンカンカン色んなところで建造物が建てられてる音と、忙しそうに動き回る村人たちをきょろきょろと見まわしながら、そう聞いてきた手紙配達人。


外から人が来ることは稀だ。

ましてやこの村への依頼(手紙の配達)なんて引き受けるのは相当な変わり者。

そもそもこの村に来たがる人間はまずいない。


ってなわけで、冒険者としての肩書で依頼という形をとってはいるが、配達人は当然知り合いである。


「村の様子なんて一年経てば変わるモンだし。まして何年ぶりですか、ヒイロさん」


たまーに村に顔を出してくれる現役冒険者兄妹、それがヒイロさんとアルネさん。

妹のアルネさんの方は村長とお婆に挨拶に行ってるらしく姿が見えなかった。


「確かに去年は来なかったけど、一昨年は来ただろ?」


繋がった『縁』だしという、あって無いような理由でこんなところまで足をのばしてくれる彼らは、ほんっとうに良い人達だ。


ちなみにどんな縁かというと、俺が助けられた縁である。

魔物に襲われて、どうやって一人助かったのかの答えが彼らだ。


人気のない山の中腹で、食い散らかされた両親、そして大破した馬車の陰で震えていた幼い俺。

両親が死んだ後の俺の記憶は曖昧で、どれくらいそこに居たのかはわからない。

ただ、気付いたときはアルネさんの胸に抱かれ、村への道をひた走っていた。


俺も魔物に襲われたところまではね、覚えてるんだけど。

無理やり隠すように馬車の隙間押し込まれたことも、匂い消しのお守りを握らされたことも、血だらけの両親が俺から離れながら魔物を呼ぶ必死な声も。ちゃんと覚えてるんだけど。


ヒイロさん達は俺には、横転して壊れた馬車に居たのを見つけた、としか説明しなかった。それ以上は聞いても濁されたから、相当ヤバい光景だったんだろう。


俺も見ていたはずなのに、どうにも思い出せないんだから記憶の安全装置でも作動してるのかも。

今となっては夢にだけ見る刻まれた恐怖だ。


当時の彼らには俺を助ける義務も義理もなかった。

だって偶然通りかかっただけの駆け出し冒険者でしかなかったんだから。

駆け出し故にろくな依頼が回ってこなくて、こんな田舎まで足をのばす羽目になったという事情は、俺にとっては本当に僥倖だった。


俺を連れて村に向かう道中、多分なんども魔物に遭遇していた(ような記憶が薄っすらある)のに、精神がイカレて返事も碌にしない俺を捨てることなく村まで連れ帰ってくれたんだから、相当なお人好しだよね。


それからもたまに村への依頼を引き受けてくれて、こうして定期的に顔を出してくれている。

多分俺のためってのが大きいんじゃないかな。


彼らは冒険者なのだ。

駆け出しとて村人の何倍も強い。

村の中に居れば、圧倒的強者。


彼らが訪ねてきて聞くわけよ。

あの時の子どもは元気かって。

それだけで結構な圧になる。

だから俺の立場は最低最悪なものにはならなかった。

両親のいない俺の、唯一の後ろ盾とも言える。


正直、いつ訪ねてこなくなってもおかしくない人たちではあった。

そもそも冒険者なんて命を賭けたギャンブラーみたいなもの。どこかで野垂れ死ぬ可能性だって十分ある。

だから来なくなったとて、恨むつもりは一切なかった。

どこかで死んでるより、俺を忘れて生きてる方がマシだし。


だって元冒険者のルパートさんとマチルダさんは、ヒイロさんとアルネさんを指してこう評した。


「残念だが、ああいうのは長生きしないな」

「ま、お人好しとお節介ってのは冒険者の持ってちゃいけない素質の筆頭だしね」

「センスはそこそこありそうだけど他があれじゃ、経験を積めてもせいぜい初心者帯(十把一絡げ)を抜け出せればいい方かな」


二人の話し声を聞いた幼い俺はむっとして彼らを睨んだものだけど、多分足元に居た俺に気付いてすらいなかった。


一つフォローを入れておくと。当時、怒りを抱いた彼らの言葉だったけど、ルパートさんたちはその話を他の誰にもしなかった。

だからヒイロさんたちは村人の誰にも舐められることはなく、現役冒険者二人が「いつか訪ねてくるかもしれない」という効果は薄れることなく随分と俺を助けてくれた。


「ね、今度はどれくらい村にいるの?」


俺の問いかけにヒイロさんはちょっと困ったように頭を掻いた。

あ、縋ってるように思われたかな。

まあ前科があるから仕方ないけど。


一昨年、つまり前回彼らが訪ねてきたときは冬に突入する前の時期だったせいで、少しでも庇護が欲しくて、虎の威的な役割を押し付けまくった覚えがある。

必死だったんだよ。申し訳ない気持ちはあったけど、背に腹は代えられないし、利用できるものはしないと死活問題だったんだ。


「いいよ、イサークが困ってるなら手伝ってやるから。いつまで滞在すればいい?」


その時と同じような表情同じような台詞で、ヒイロさんが俺の頭に手をおいてぐりぐりと撫でてくる。


ひょろいけど背だけは伸びた俺はちょっと大人に近づいた気がしてたけど。ヒイロさんからみた俺は助け出された時のままか、あるいは一昨年の誰かの力を借りないと冬すら越せない哀れな親ナシ子のままなんだろう。


んで、まだ助けてくれようとするんだから。……ねえ?


「ウチに泊まってってよ。できるだけもてなすからさ」

「はは、無理しなくていいんだぞ」


毎度二人は村長の所に泊まっていたけど、うちだって家族用のでかい家があるんだし。今ならそこそこな歓迎ができるはずだ。


「二人くらい余裕だよ。あ、寝具は借りて来なきゃ」


もう大丈夫だよ、とどうやったら伝えられるだろうか。

出来ればなにか恩返しがしたいんだけどな。


「じゃあ、お言葉に甘えて? お邪魔しようか」

「そう来なくっちゃ! うちの場所知ってるよね、先に行って荷物の整理してていいよ。アルネさん見つけたら伝えとくし。あ、箪笥空いてるとこ全部使っていいから!」

「はは。落ち着け、落ち着け」

「とにかく村長のとこに一度行ってくる」

「大丈夫なのか?」

「え、なにが?」

「……いや、大丈夫ならいいんだ」


はて?

……ああ!

そういや俺って、ついこの間まで村長と面会なんてできる立場じゃなかったか。


「――ヒイロさんとアルネさんにはさ、聞いて欲しい話がたくさんあるんだ」


そうだ。夜はまだ冷えるから、今夜は贅沢にちょっと暖炉に薪をくべよう。

あたたかな夕飯を作って三人で食卓を囲み、テーブルにはランプを灯そう。

日の入りと共に寝入る必要はないし、時間はたっぷりある。

――だから長い話ができる。


にっこりと笑った俺に、ヒイロさんは首を傾げた。


「じゃあ後でウチで」


腑に落ちないみたいな顔をしたヒイロさんを、有無を言わさず家に送り出して俺は村長の家に走り出す。

寝具の手配をお願いしないと。

後でお婆の家に寄ってリンが作り置きしてるメシもパクって来よう。それから乾燥部屋の隅で乾いてる小枝を拾って、……ん?


なんか忘れてるような気が。

大事な、なにか。


「……あーっ!! イムたちがいた! やっべ」


家にはスライムが!

飼ってること説明してなかった!

そいつら野生の悪食じゃないんですぅー!

ヒイロさん、頼むから踏みとどまってー!!











革なのに手()とはこれ如何に。異世界を書くときに困るところですね。

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