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危機俺!  作者: 一集
第三部 おや、村の様子が?

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56話 そうだ、村の様子を紹介しよう。




そうこうしているうちに春になった。

やはり春はいい。というか、冬以外はいい。


……なんて思ったけど、まあ、そうだな。

今回の冬はそう悪くはなかった。


随分と甘やかされた時間を送らせてもらった。

おかげで以前みたいに「生きるか死ぬか」みたいな、ギリギリの生活に戻れる気がしない。

どうしてくれんだ、このヤロウ。


責任取って二度と俺をあの地獄に送らないでほしい。

気の抜けた今なら、早々に死ぬ自信がある。

そもそもが風邪で死ねる世界だしな。


てかさ、改めて考えてみると――マジで今まで気合いだけで生き抜いてたんだなぁ、俺。

ま、しゃあないか。かつての快適な生活の記憶あるせいで、今みたいにちょっと甘い菓子かじると、すーぐ気持ちも体も元に戻ろうとしやがる。


地球産の記憶を持ってるだけで、まさかハンデになるとは思わないじゃん?

想定外の所で出てきた、前世(?)の弊害だ。


俺だって一応頑張ってはいるが、生粋のこの世界の住民と比べるとその逞しさと強かさはやっぱ天と地よ。

記憶が作る根底。その根っこの部分がゆるく甘く作られているんだろう。


現地民のガワを被ってなんとかごまかしてた部分も、甘々な周りのせいでコーティングが溶け出してしまった自覚がある。


こうなったらもう自分を変えるより、逆にこのゆるさで生きていける環境を作っていった方が得策かもしれない。


……とか思ったこともありました。

なんかさー?

俺がわざわざ道作んなくても、勝手に整備し始めてるよね。これ。


俺は忙しそうな人々をなんとなく眺める。

あっちに行っては力仕事。こっちでは手順の確認。そっちでは怒鳴り合い。

うむ。

人手が足りないと嘆く人々の声がそこらかしこから聞こえてくる。


空いてる手ならあるんだけどね。ここに。一つばかり。

ひらひらと手を挙げてアピールしてみても、誰一人拾ってはくれない。


……暇なんだが?

いや、やりたいことは無限にあるんだけど。


でもさ。活気に満ちたこの村で、俺だけ自分の好きなことばっかりしててもねえ?

という、協調性くらいは俺も持ち合わせている。


なのに、なんか俺だけのけ者なんだよね。

確かに? 「じゃあお前、なんの役に立つの?」と言われたら何一つ自信はないんだけど。

でもでもでも! 自分から言うのと他人から言われるのはなんか違うじゃん!?


なにか手伝う?と傍に寄れば、しっしっと追い払われる始末。

そのくせ話し合いとか会議とかには呼ばれるんだよな。いらんのに。

あれか? 俺が現場で役に立てないから、かわいそうに思った誰かのやさしさか?

そんなん、……むしろ傷つくわッ!


一瞬でも自分が何とかしなきゃとか、思った俺が馬鹿だった。

自分が特別なんて、そんなわけないよな。

人々の先頭に立って導くような役割は、やっぱアイツらみたいな主人公格のやつが担うもんなんだろう。

ちょっとばかし、思い上がったようだ。地味に恥ずかしい。

どうかこのことが誰にもバレてませんように!


そんなこんなで村はあっという間に切り開かれていった。

邪魔な木々を倒し、根を引っこ抜き、地面を均し――。


植林地は村から少し離れた場所にある崖下の、山にしては広い平地を利用することにしたらしい。

そもそもそこらの木々の質がかなり良かったようで、今回の件でかなりの数が伐採され、ハゲとまでは言わないがかなり寂しい見た目になってしまった。


「……なるほど。イサークの言っていたことがなんとなくわかった気がするな」


資源が無限ではないことを、その光景を見て実感した模様。

――んで、こうなってしまったからには、ついでに土地を利用しようってことになったわけだ。


「たったこれだけの時間でこの有様だからな。山全体があっという間にこうなっても、おかしくない」


深刻そうに頷き合う大人たち。

この人らさ。察しが良すぎるというか、物分かりがいいというか、未来の想像が出来すぎというか。

なんか自分らで禿山にして実害出てからやっと気づいた、現代人の俺らがアホみたいじゃない?


元々いい木が生えてたんだ、うまく育てればいい資材が手に入ることだろう。

ま、それも何十年って単位だろうけどね。……いや、待て。魔石、うんん゛ッ! やめよう! これ以上自然に手を加えると、…………イザベラが、……いや吸収率的に……今度……実験が……。


っは!

一瞬思考がどっか飛んでたぞ。


何ごとかを終わらせる前に次の何かに手を付けて、結果なにも生み出さない、という悪い癖があるのは自覚してる。いい加減にしろ、俺!

封印マークを付けてお札を作り、無理やり思考に蓋をした。紙切れ一枚で抑えてるので、たぶん遠からず吹き飛ぶ気はするけど。……ないよりはマシだろう、うん。


さて、村の拡張計画に話を戻そう。

まず作られたのはすべての基礎、倉庫である。


バカでかい木の保管庫だ。

乾燥部屋ともいう。

何を作るにせよ木は必要だからね。


そこには畑連中がそっと肥料用のゴブリンを干しに行って大目玉食らう事件なんてのもあったけど。


「端っこくらい使わせてくれたっていいだろ! ずるい、俺たちも専門の部屋がはやく欲しい」


いい年したおじさんたちが地団駄踏んでる光景は、一応微笑ましい……と言っていいのか? か、な? いや、ダメだろ。


とは言え、そんな駄々をこねてた村組連中たけど、実は彼らの建物も結構優先順位は高い。

そう遠からず希望は叶えられることだろう。


意外なことも一つあった。

俺が希望して、かつあんまりみんなの賛同を得られなかった建物。その名も図書館。あるいは書庫、資料保管室でもいいけど。


提案したときはホント、反応悪かったんだよね。

建造すら危ぶまれるレベルで、「え、そんなのいるか?」みたいな顔されたもん。


その図書館(仮名)が、優先順位がなぜかバカ上げされて、すでに基礎工事に入っている。

なんでや。

と思ってたら村長とお婆の強い後押しがあったからだった。


お婆はね、うん。すごくよくわかるよ。

今、レポートとかの仮保管場所になってるのがお婆の家だから。

最初はよかったんだけど。文字が広がり、かつ色々な計画や研究が進む中、本の増えるスピードが尋常じゃなくなってる。

どんくらいかって? そうだな、遠からずお婆の家が埋まる勢い、ってトコかな。

そのうち床が沈むよ。結構重量あるからね、本って。なんならすでにちょっと歪んでる気がするし(汗)


村長の方はね~。これこそ意外だったんだけど、実は本好きだったらしい。

だってお婆の家に乱雑に積まれた新しい本を見つけた途端、毎日のように通ってきては片っ端から読み耽り。手が回らず本にすらなってない紙の束を見つけた時は怒りながら丁寧に綴じて、ちゃんと分類(雑)までして並べなおしてたからね。


新文字なんか一度目を通しただけで習得したように見えた。けど、さすがに俺の勘違いだろう。

春が来て本格的に計画が動き出すまでずっと、お婆の家に踏み込んだことがなかった先の何十年はなんだったのか、と疑問に思うくらい。俺が寝て起きても居るから、なんなら住んでるのかと勘違いしそうになった。


でもね。村長が毎日入り浸ってるの、本当に嫌そうだったよ、お婆が。

本の整理をしてくれるから何も言わなかったらしい。


「背に腹は代えられんッ!」


そりゃもう苦渋の決断だったんだろう。表情が雄弁に物語ってた。

本当に、本が重荷だったんだね、お婆……。(合掌)


で、だ!

その村長、読んでて気になったのか、あるいは好きが高じたのか。

お婆の作った新文字をさらにブラッシュアップして体系化。……しまいには見事な「文字の教科書」(初心者用)から「口語と文語の違い」(中級者用)、「報告書・論文・記録の違いとその書き方」(上級者用)までさらっと作ってくれた。


お前までチートかよ、この野郎!

優秀過ぎんだろっ、この村の連中。端から端まで!


まあ、おかげさまで?

レポートの書き方が統一されたし、質も均一化が進んだけども……。(諦観)


てか、その村長は最近俺の姿を見ると飛んでくるようになった。

待って欲しい、コレ大丈夫? 村長までイサーク病に罹患したとか言われない? そろそろクローディアさんにガチで刺される気がして、俺は常に後ろを気にして外を歩く羽目になってる。


そんな俺の心知らず、


「イサーク! ここにおったか。おい、ここの書架なんだが、」


図書館の内部完成予定図を手に、オタク特有の早口で村長が何を捲し立てるかというと。

――分類法の話である。


「お前が言ってた十進分類法なんだが、とりあえず概要を作ってみた。こんな感じでどうだ?」


余計なことを言った、と後悔してももう遅い。

いやさ、村長もなんとなくで既に分類はしてたから、その概念があるってのはわかってたわけじゃん?

つい口出しちゃったんだよね。

せっかく図書館ができるなら使いやすくしたいって欲もあった。


「いや、もう好きにしていいと思います」


てか好きにしてほしい。

俺、細かいことわかんないもん。


大体「十進分類法ってのがあって」って大雑把な話しかしてないのに、さっそく自分で区分表作ってくるとか、何事よ? マジで。


「実はここの分類記号の組み立てで悩んでおってな」


俺の答え、聞いてねーし。

てか知らん、知らん、わからん!

難しいこと俺に聞くな!


「ぬう、真面目に聞かんか! すべての知識の基礎になるものだぞ!? ここをしっかりルールとして形作らんと、そこにある『知の遺産』を誰も利用できんようになるかもしれんのだッ!」


お、おう。勢いにドン引く。

でもそれ以上に驚く。

なんつーか? それが現時点でわかってるのがヤバいよね。

なんなの? この人たちの先を見る目。怖いまであるよ。普通に。

うお、鳥肌が。

多分こういうのを天才ってんだろうな。俺には到底、理解できない類の人種。


はあ、なんだかな!

まあいいさ。アランたちと幼馴染な時点である程度の諦めはついてるし。


図書館はそんな感じで村長が館長になりそうな予感。

あの大きさの建物で書架が本で埋まったら、とても一人じゃ手が回らなさそうだけど。

それはとりあえず、言わんとこ。少しくらい苦労したらいいんじゃね? 凡人(以下か?)からそんくらいの嫌がらせは許されるだろう。


ちな、倉庫も図書館もかなり大きな建物だけど、そんなに大きくないという理由で、先に建てられたものもある。

水耕栽培の研究部屋だ。

川の上流にあるので、ちょっとばかり村の中心部からは遠い。


トーマス小父さんは先日からそこに籠りきりになってる。

なんなら最初は寝泊まりしてた。

まるで夫に先立たれたみたいな生活を送る羽目になったシャルとアンナおばさんに泣かれてやめたらしいけど。

健康的にも人生的にもそれが正解だと思うよ。うん。家族大事に。


村に貢献できない俺はひたすら精製水を作る作業をすることにした。

だって手を挙げても誰も拾ってくれないし。

実は溶解液の普及率がヤバいせいで、事故った時の保険がいくらあっても足りない状況だ。


走れ走れ、止まるな、前へ。未来と希望で突き進むことしかできなくなった連中だ。少しくらいの事件や事故は懸念にすらならないらしい。


この精神がこわい。いつか大事故おこりそう。

なら俺一人くらいは安全面に考慮したっていいだろう。


そーいや溶解液といえば、コールが筆記具を手にしてから急速に子どもたちにも浸透していった。

ダメと言っても、――というかダメと言われれば言われるほど子どもは興味が沸くもの。


コールの使っているものだって、大人が使ってるのに比べたらかなり薄めてあるとは言え、溶解液は溶解液。危険物は危険物。


これはマズいと俺は例の規制計画を前倒しにした。

つまり試験制度の導入だ。


完全規制して、好奇心で手を出した大人用の筆記具でうっかり大事故なんて目も当てられない。

なら最初から少しは配慮してる子ども用のものをきちんと使ってもらったほうがいい。


慌てて提案したけど、さすがのグレッグさんも、対象が子どもだけの規制には文句も言わなかった。

そもそも今年の冬あたりを想定して下準備してたのが功を奏し、試験は迅速に実施された。

何でも想定してやっとくもんだね。

ついでに文字のテストにもなって一石二鳥。


初めて行われた試験は実験的な側面が強く、改善点も多かったけど無事に終了。

試験に合格した子どもたちは、ことさら嬉しそうに雑貨屋で筆記具を手に入れていた。


そこで気づいた光景。

売る側のナティアさんが忘れないようにと、試験合格者の名前を書いた木札を後ろの壁にかけて並べてるのを見て、なるほどと思った。


数えるほどの人数しか合格者が居ない今ならまだしも、これから増えると確かにわかんなくなりそう。

売っちゃいけない人(不合格者)にうっかり売ったとか、全然ありえそうだもんな。


今回の子どもたちが初級だとすると、中級や上級もつくるつもりだって言ったのを覚えてたんだろう。

最初から対策ができるのは優秀な証拠。

ぼんやり娘だったナティアさんも、なかなか俺の仲間とは言い難くなってきた。


……だとしても。

木札じゃ、ちょっとキツイか?

情報量的に。


なんなら溶解液の取り扱いだけじゃなくて、この手の試験は増えていくだろうし。

情報の参照に木札はちょっと心許ない。


「ならアレ、か?」


自分の思い付きに、にやりと笑ってしまう。


だって情報って言ったらデータ。

データ化して書き込めるなにか。

個人情報とか、身分証とか全部一緒くたにできたらアツくない?


んで、ファンタジー世界っていったらやっぱ定番のアレでしょ。

実はあるべきものがないと、ずっと思ってたんだよね。(わくわく)


ないなら作ればいいじゃない。

ふーむ。必要なのは書き込める媒体と書き込みできる機器と読み取り端末の三点セット。


「出来なくは、ないよな。今なら」


苦労は死ぬほどしそうだけど。

これはさすがにゴーサインじゃない?




つまりは、いわゆる冒険者カード的な、ね?











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