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危機俺!  作者: 一集
第二部 モノ作り:冬
21/55

21話 そうだ、ついでに解決策をみつけてみよう。



「お前、例えコレを持ち帰れたとして、絶対家から逃げ出すだろう……」


ダンおじさんが、さきほど満杯にしたはず(・・)の木箱を覗き込みながら言ったが、俺は答えなかった。


答えが明確な問いに答える必要性を俺は感じない! 正論言われて悔しいからじゃないからな!


――結論、スライムの捕獲には工夫がいる。


スライムと言えば、先述したようにゴブリンと共に魔物の底辺の構成要員だ。

が、その中にもれっきとした格差は存在する。


人間側の認識としては、スライムはもはや魔物というよりは、一種の害獣(獣?)扱いだ。

攻撃力に関しては圧倒的にゴブリンより低いし、移動速度もまたゴブリンとは比べ物にならない。


見た目は地面をゆっくりと這う粘性のある小さな水溜まりだしな……。


獲物をジェル状の体で包み込みゆっくりと体内で消化するが、狩りは基本漁夫の利。

身を隠して獲物が寄ってくるのを待つか、偶然死肉を貪るか、腹が空けば草花雑草、泥水ですら食べる。

ちなみにデロ~ンと地面に広がっているのは空腹状態で、丸っこければ栄養状態は良好とかなんとか。


もちろん、移動に難儀しない人間が害を被ることはほとんどないけど、害がないかというと勿論そんなこともない。


スライムは雑食なのである。

そしてどこにでも現れるのである。

主な被害は移動不可能な作物類。

この点においてはゴブリンの比ではなかったり。


不定形生物に柵は意味をなさないし、然もありなん。

いつの間にか作物を荒らす虫に等しく、スライム対策は人間が定住して畑を持ったころから頭を悩ませてきた根の深~い問題だ。

辿り着くまでの妨害工作として小さな溝をいくつもつくったり、堀を引いたり、スライムの嫌がる匂いを撒いたり、かけると固まる粉を作ったり、その努力は計り知れない。


しかも魔物の癖に退治したとしてゴブリンと同じで利用できる箇所もない。


百害あって一利なし。

スライムの、引いてはそれが底辺魔獣全体の評価ってやつだ。


まあ、いま大事なのはそこではない。

スライムの形状の話である。


そう、不定形!

捕まえた入れ物が粗雑な木箱だったりすれば、その継ぎ目からにゅるりと逃げ出すし、蓋がなければ普通に上から出てくる。

密閉性に問題あり、である。


つまるところの、現状だ。

空になった木箱を下から覗けば、現在も絶賛通り抜け中のスライムがいる。


「そもそもスライムを捕獲しようなんて誰も考えないからなぁ。その方法だって確立されてるわけないんだよな。……悪いこと言わないから出直そうぜ? な? 次も手伝ってやるからさ」


ダンおじさんに慰められるように肩を叩かれた。

ぐぬぬと現状に唸っていた俺は同情から発せられた最後の言葉に即座に反応する。


次も手伝うって、確かに聞いたからな!


「絶対だよ!?」


おうおう、それだけは守ってもらおうじゃないか。


だって、一人ではスライム唯一の攻撃、跳躍で気絶できる。

そして気絶したらスライムのいい餌である。

死にはしない(さすがに全部消化される前には目覚める)だろうが、指の一本くらいは美味しくいただかれるかもしれん。


「お、おう。男に二言はない」


ダンおじさんがスライム如き(・・)に躍起になる俺の勢いにちと引いてる。

俺にだけ(・・)大事(おおごと)なんだよ!


ついでにじゃあ帰ろうぜ、と言い出す寸前のおじさんに待ったをかける。

収穫ゼロでは帰れん!


「せめて狩りはしてこう」

「ただでは転ばないヤツだなあ、おまえはホント」

「褒め言葉として受け取っとく」

「紛れもない褒め言葉だよ……ったく」


スライムもまた一応は魔物であるからして、魔石がある。

退治の仕方は簡単で、この魔石を潰せばいいだけだ。


本来は無色透明なので魔石の在処も一目瞭然なんだけど、消化したもの如何によって半透明になったり、緑かったり、土色に色付いてたりするので、実際は魔石が見えることの方が少ない。


弱点が見えてる、なんて生物として欠陥品もいいところだと思うので、案外色のある食材を食べて魔石の在処を隠すのは本能なのかもな。


ま、見えなくたって何回か踏みつぶせば、ついでに魔石も踏み抜ける。

スライムの自衛は人間にはあまり意味がないというオチなんだけど。

弱いって、哀しいな……。


もちろん俺はそんな足跡の付いたプレススライムはごめんだ。

直接スライムに手を突っ込んで魔石を抜き取るという方法をとった。

ダンおじさんが。


おじさん曰く、スライムの消化速度はそんなに早くはないので、一瞬であれば無問題だとか。

そもそも消化態勢に入ってないスライムは安全だとか、さんざん言われて実践もされた。


当然、俺は丁重に辞退させてもらった。

スライム、コワイ。


さて、この日の収穫は命の灯火を失ってデロデロになった死骸がいくつか。

見た目はまんま海岸に打ち上げられたクラゲのようだ。


ダンおじさんが壊すことなく抜き取った、ゴブリンよりさらに小さいビーズ大の魔石も一応取っておく。

今の所使い道は思いつかないけど、まあいつか使うこともあるかも。

俺は貧乏性なんだ。


そのスライム(魔石抜き)は新鮮さが足りないが、これはこれでなかなか……。


「へえ……ふ~ん、ほお」


――面白い。


こうなると俄然生け捕りにしてみたくなる。


実は十中八九スライム捕獲に使える素材に俺は心当りがあった。


布である。


粘性のある液体ならば目の細かい布で掬えることくらいは誰でも知ってる。

スライムは地面には潜れないからこの法則に当てはまるはず。


しかーし、布は当然貴重品!

服以外で布製品が俺に配給として回ってくることはほぼない!

この時点ですでに代用品が必要だった。


「用意できる最低限のもの……」


といえば、編籠が限界だ。


でも、どれくらい目が細かければいいのかはさっぱりわからない。

そして俺には編籠を作る技能もない。


意外や意外、そんな俺の救世主となったのはまさかのリンだった。

とりあえずやってみるかと一人でその辺の葦っぽい草を引っこ抜いて試行錯誤してたら、「なにやってるの?」からの「おにいちゃん、へたっぴ!」「かして!」のコンボでやってくれた。


小さい手ながら器用に動くものだ。

感心してあっという間に編み上がっていく籠を見ていたらリンが得意げに言った。


「おかあさんにもほめられるんだよ!」


実は女の子の家庭作業ではまっさきに母親から習うんだとか。

リンは母親が妊婦ゆえに、他よりは早く教わっているとか。

力の必要な木製の籠なんかはまだ作れないんだとか。


そんなことをついでに話してくれたけど、そう考えると多分、幼い頃に両親を失った上にカミツキガメに変身してた俺は覚えるべきことを覚えてないんだろうなぁ。


村から浮くわけだよね。

家から放り出さなかった村人には感謝。

あと、切り捨てられないだけの収穫を恵んでくれた天候にも感謝。


「お~リン、ありがとな!」


くしゃくしゃと頭を掻き回しながら編み上がった籠を貰って、ついでに注文を付けておく。


「同じ形でさ、目の大きさが違うヤツも作ってくれないか? 今度受け取りに行くわ」

「おにいちゃん! そういうの、ずうずうしいっていうんだよ!」


おお、難しい言葉知ってんな。

リンは将来有望だ。


「ってか、リンがいやなら別にやらなくていいよ?」


無理にとは言わない。

全然いわない。


と、リンは俺を見上げながらなぜか地団駄を踏んだ。

幼子の癇癪は可愛い。


「ずるい! おにいちゃん、いつもずるい!!」


だが言い掛かりはいかんぞー。


「だって、おにいちゃんリンがやらなかったら、どうするの!?」


なぜかギッと睨まれる。


「そりゃ、誰かに頼むさ。自分じゃできないし?」

「やるもん! リンがやるもん~!!」


そしてなぜが泣きながら抱きつかれた。

うむ、さっぱり意味がわからない。


一つだけ言えることがあるとするならば、『かわいいは正義』。


ぐりぐり撫でまわしまくっておいた。




数日後、ぶすっとしたリンからいくつかの簡易編籠を受け取ってダンおじさんと再び村の外に出る。


当然、スライムの捕獲は上手くいった。


目の粗さが1cm程度だと抜けられないみたいだ。

2cmはダメ。

面積が同じ1㎡でも細長いのはやっぱりダメ。


「面倒だけど、これがわかれば畑の被害も少しは免れるかな? 面倒だけど」

「どういうことだ?」

「スライム対策は柵じゃなくて、網目状の格子が有効ってことだよ」


ただし、網目は1cm以下。

作るのに苦労しそうだけど、これから本格的な冬だしな、時間も少しはあるだろう。

問題は上には登ってくるかもしれないってことだけど、そこは、ねえ?

自分たちで工夫しろとしか。


「そんなことずっと考えてたのか! 大したやつだな!」

「いんや? ただの副産物」


ダンおじさんが脱力した。


「そこは自分の手柄にしておけよ。少しは評判よくなるかもしれないだろ……」


そのままそっくり同じセリフをダンおじさんに返したい。

あと、俺の場合はそれくらいじゃ焼け石に水な気もする。


「百歩の道も一歩から! 塵も積もれば山となる! いいかイサーク、コツコツが大事なんだぞ?」

「はいはい」


おじさんの力説を聞き流しながら、どうにかこの面倒から逃れられないかを考える。


そうだ! そもそも1cm格子を作るのは面倒だと思ったが、よく考えたら俺の発言力は弱いので俺が介在しない方がいいってことで、つまり特に俺は面倒じゃない。――のでは!?

完璧な話の展開だ!


そうと決まったらトーマス小父さんたちに丸投げだな。

適当に試すだろうし、必要なら勝手に人を集めるだろう。


ちなみに一週間後にはイザベラの根元には格子状の枝が組まれていた。

知らなかったけどスライムには苦労していたらしい。

イザベラさん、耳が早い上に仕事も速い。


さすがです、イザベラさん。

あと、結構器用だね。




題名変えました。一週間くらい前に。


『危機的状況で示される人間性が最悪だった俺のその後のあと。の、続き。』

内容を過不足なく伝えていて、個人的には大変気に入っていたのですが、一つだけ問題が……。


お ぼ え ら れ な い !!


わあ、大問題w

そんなわけで略題『危機俺』の方を題名にしました。

どうぞ、変わらずのご愛読よろしくお願いいたします。

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