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危機俺!  作者: 一集
第一部 イサークの奇行と愉快な仲間たち
2/54

2話 そうだ、成果を押し付けてみよう。



俺の植えた棘の木は順調に大きくなった。

チビたちは別に生垣に突っ込んで行ったりはしてない。

……今のところは。


最初に苗を触りまくって指を突き刺してたのが幸いしたのか。

人間万事、塞翁が馬ってか?


もちろん村人たちも気付いた。

こんなにょきにょき伸びる木があったら驚くに決まってるし。

……が!

がっ!!


「棘の木か、考えたな」


感想はそれだけだった。


え、ねえ。この成長速度にツッコミ待ちしてる俺がここにいるんですが。

放置ですか?

俺のドヤ顔がお気に召さないからわざとスルーしてるんじゃなくて?

マジで気にならないの?

嘘でしょ!?


ちなみにこの疑問の答えは我が心の女神ドナがくれた。


「へえ、棘の木ってこんなに早く育つんだねえ」


はじめて知った~。

と喜んでる顔になんとなく和んだけど。


そういうことかよ!

でもそうだよな、幻想と書いてファンタジー。

何らかの力が作用したと考えるより、最初から成長が早い植物だったと考えた方が自然ってことね。


そもそも棘の木なんてGと同じく駆除対象。

狩人たちも自分の探索ルートに生えてたら邪魔以外の何物でもないから、見つけ次第刈ってしまう。

すでに刈るのが手間になるほど育ってる場合は迂回ルートを探すのみ。

だから棘の木の成長速度なんて知ってる奴いないんだなー……。

ぬう、こんなところに思わぬ敗因が。


俺の常識って、この世界の常識じゃなかったらしい。

ため息が出ちゃう、だって元は異世界人だもの。


意気揚々と説明したかった俺は地味に凹んだ。


チビの中でも特に俺にべったりだったリンの親父さんが、遊び場にリンを迎えに来た時に、腰丈程まで成長した棘の木を見ながらしみじみと言った。


「邪魔なだけだと思ってたが、こうしてみると便利なものだな」


ちなみにもう魔石はただの石になっている。

ここから先は自然育成だ。


大人たちに――、

大きくなってからでは棘が邪魔で運べない。

かといって苗から大きくなるまで面倒は見れない。

ところがどっこい、棘の木は成長が早いのでした。

盲点盲点、てへ!

といった反応をされた俺は一体どうしたら……。


「よくやったな、イサーク」


ぐりぐりとリンの親父さんに頭を揺さぶられた。


お?

……おお。


思わず大きな手が乗っていた頭を触った。

なんとなくくすぐったいようなふわふわした気持ちがこそばゆい。

ドナも俺が頭を触った時はこんな気分になってたのかな。


さて、遊び場を囲むまだ幼い棘の木だが、すでに何度か新鮮なゴブリンが採れてたからチビたちもこれがなぜそこにあるのかをあっさりと理解したようだ。

百聞は一見に如かず、ってな。

それからは大変現金なもので、俺がいる時は俺にべったりだったのに、そんなことは忘れたとばかりに安全な檻の中で暴れまくってる。


おにいちゃん、少しさみしいです!


……だが、うん。

子供はやっぱり元気が一番だな。マジで。


しかーし! 俺の手柄を誰にも褒められないのは納得がいかない。

かつての目立ちたがりの性格は一応仄かには残っているらしい。


誰かに自慢したい。

でも誰にだ?


俺の与太話に付き合ってくれそうな村人は、……まあ、いるわけないよね。

いや~みんな忙しい忙しい。

朝は早くから畑仕事、あるいは森に採取や狩り。


俺の最近の主な仕事は子守りだけど、もちろん時間を作っては畑仕事を手伝いにいってる。

なぜって食料配給制だから、この村。

社会主義制度です。

村八分にでもならない限りくいっぱぐれない。――という長所はあれど。

やっぱり多少の贔屓はあるし、役立たずには厳しい目が飛んでくるので手は抜けないワケだ。


独り身はツラいよ。

嫁さん欲しい。

あと何年で成人だっけ……。(遠い目)

でもこの村じゃ俺に嫁いでくれそうな女の子なんていないだろうなぁ~。

臆病者で有名だし。

いつか嫁探しの旅に出るのかな、俺。


そんな厳しい田舎暮らしだけど、最近ではありがたいことにチビたちの親御さんがたまにおすそ分けをくれたりする。

あとアランたちのおかげで以前よりは大分食糧事情が改善してるのが救いかな。


タンパク質万歳。

あの成果は神の御業に匹敵する。


実際、ガチで拝んでみたら威嚇されたけど。

どうやら拝むという行為がない故に、変な踊りによる呪術だと思われたらしい。

……なにそのぶっ飛んだ誤解。


まあ、俺からアランたちに言いたいことは一つ。

無理はするな、だが獲物は持ってこい!

以上。


話を戻そう。

俺の自慢話だ。


実は聞いてくれそうな人に一人心当たりがあった。

ダンおじさんだ。

親戚ではない。


言うて、別に彼が他の人と違って暇をしているわけではない。

畑も割り当てられてる立派な大人だ。

けど普通の大人より随分とその面積は少ない。

一度村から出て帰ってきた、いわゆる「出戻り組」だと聞いたことがあるけど、詳しいことはよく知らない。


彼に力仕事が少ないのにはわけがある。

片腕が不自由なのだ。


どうも村から出ている間に怪我だか骨折だかをして、治療に失敗したパターンだ。

腕はあるが曲がらない。

……異世界こわい。


でもまあ、働き盛りの年齢である上に、外に出ていただけあって村人よりは自衛手段に優れている。

だから力仕事が少なく設定されてる彼の、残りのリソースは「村の見回り」に割り振られている。


内容的には多岐にわたっていて、例えばゴブリン駆除や、村の傍に生えてきた若木、雑草の処理まで片腕で器用にやってるのを見たことがある。

しかも文句の一つも言わず。


長雨の度に消えてしまう、村から出る細い道も毎回丁寧に直してるし。けっこうな重労働だと思うんだけどな。


それでも若干周りから軽視されてるところに親近感を抱く。


言うなればわが村の門番のようなものだ。

訪ねてくる者などほとんどいない田舎の村に門番が必要なのかは置いておいて。


ちなみに嫁さんはいない独り身である。

世知辛い。

俺の未来を見てるようで、つい同情で涙が……。


「ダンおじさん!」

「おお、イサークどうした?」


村をぐるりと周回していたおじさんがちょうど遊び場近くを通ったので、話しかけると気さくに返してくれた。


これがゴブリン騒ぎでアランたちと一緒にいた連中の親だとこうはいかない。

が、俺は特に気にしてない。

だって殺されるわけでもないしな?

飢饉とかなったら知らんが、今のところはその兆候はないし。

サンキュー神さま!


呼び止めたダンおじさんはとてもタイミングのいいことに、自ら俺の手柄について触れてくれた。


「そういや聞いたぞ、この骨喰(ほねばみ)樹の活用法、お前が思いついたんだって? すごいなあ!」


と、ダンおじさんは俺が一生懸命作った棘の木の生垣をよいせと跨いで(・・・)きた。

……説得力ねえな。

ゴブリンと同程度の高さは大人にとってはただの障害物らしい。


「村長がいっそ村を棘の木で囲もうかってこの前の村議で話してたぞ~」


え、俺聞いてない。

や、まあ、いつかはそうしたかったけどさ。

提案すらまだしてないよ。

だって種明かしするタイミング見計らってたから。


てか俺の著作権、いや肖像……、いやいや特許はどこいった?

申請してないから無効?


「見てないか? 東の方はもう骨喰の苗が少し植えられてる。森組が傷だらけで採取してきてたぞ」


あいつら植物の扱いがなってないんだよな、とはダンおじさんの小さな呟き。

ちなみに森組とは昼間に森へ採取や狩りに出かける人間を指す。

アランやドナの両親がそうだな。


実はおじさんが若干不満そうに漏らしたセリフの意味を俺は知ってる。

こんな厳ついなりをしているが、おじさんの趣味はガーデニングだ。

多分本人は気付かれてないと思ってるだろうけど。


俺はこの村ではおじさんとはかなり仲が良い方だ。

浮いてる者同士のシンパシーかもしれない。


菜園ならばともかく、生産性のないガーデニングなんて褒められたものではないから、それは小さく肩身の狭い秘密の趣味。

畑の食物に紛れるようにして植えられている草花や木は自然に育ったものじゃなくて、おじさんがちゃんと世話をして育てたものだ。


雑草を処理しないと畑の作物の育ちが悪くなるだろうって、たまに怒られてるけど……。

うん、ドンマイ。


「骨喰は成長が随分早いんだってな。……しばらくしたら、俺の仕事もなくなってたりしてな」


言いながらダンおじさんが少しだけ苦い顔をした。

ああ、無理無理。慌てて繕ってもダメだって。


うーん、そっかぁ。

生垣が出来るってことは、ダンおじさんの立場が弱くなるって事でもあるのか。

見回りの重要性が減るからな。


ん~、俺ダンおじさんに自慢話がしたかっただけなんだけど。

若干脳筋気味だけど、おじさんいつも頑張ってるし。

俺の両親とも仲良かったから、冬の間とかよく面倒見てもらってるし?


「おじさん、村を生垣で囲うって話、くわしく聞かせてくれない?」

「ん、おお? まあ、構わんが」


突然積極的になった俺に少し面食らいながらおじさんが語ってくれたが、この『棘の木で村を囲もう作戦』、始まったばかりのようだ。


棘の木の採取は森組の仕事ついでだからそう進んではいないようだけど、緊急性がないから誰も急かしたりはしない。

植える作業は手の空いた大人たち。

数が多くないから一日の作業量など高が知れているとのことだ。


「おじさんも苗木の植え付け作業手伝ってんの?」

「そりゃもちろん」

「ふうん……」


なるほどなるほど。

これはいい(ニヤリ)


本当の所、俺が満足する成果はすでに出てる。

元々チビたちの安全確保が目的だったからな。

誰も俺の手柄に気付いちゃくれないし、褒めてもくれないという不満はただの自己満足で、どうしても満たしたいわけではない。


自己顕示欲満載の自分はゾンビ時代に置いてきた。

俺も(前世から)随分と変わったものだ。


つまり、別に今さら名乗り出る必要はないってコトよ。


せっかくだから俺はダンおじさんを贔屓しようと思う(キリッ)


具体的にはとても単純。

まずおじさんのストーカーと化す。

いや、おじさんがどこに苗木を植えてるのかを見たいだけなんだけど。

で、それがわかったらこっそりと根元に魔石を埋める。

さすがに四六時中見てるわけではないから全部ピンポイントでは埋められてないけど、まあそのランダム性もアリだ。


俺がやったのはそれだけ。


数週間もすれば成長度合いは一目瞭然。

村人たちは最初、首をひねっていた。


「苗によって成長する速度が違うとは……」


奇妙なことだ。

種類が違うのか、場所の問題か、はて?と言いながらも深く考えないところにこの世界の文明停滞の原因を見た気がする。


ちょっとは考えろよー!

ともどかしく思うのも、前世の記憶のなせる技だろう。

だって基本的に経験則と反射で生きてるもの、みんな。

そもそも前世を思いだす前の俺も、大概こんな(・・・)だったし。人の事言えねーのよ。


だが俺の根気強さの方が彼らの思考停止力を上回った。

さすがに気付き始めたようだ。


『棘の木の成長は植えた者によって違う』ということに。


なぜか、という疑問に答えられる者はいない。

彼らには厳然とした事実があるだけだ。


『ダンの植えた木の成長率が圧倒的だ』って言うね。


ちなみに当のおじさんは全然気付いてない。

そもそも、自分がどの苗を植えたのかを覚えてないんだと思う。

脳筋め。

だが! その大らかさ、嫌いじゃない。


さて、これが最終的にどう落ち着いたかってーと。


「これから苗木の植え付けはお前に任せることにするわ」

とな。


ダンおじさんが気付いてないのをいいことに、おじさんの評価が上がる前に対策を取った村人たちを聡いと言うべきかセコイと言うべきか。


おじさんは遠回しに「お前、暇だろ?」と言われて仕事を押し付けられた形だけど、特に気にした様子もなく引き受けてた。

もしかしたら嫌味に気付いてない可能性も若干ある。


むしろ嬉しそうだしな?

一生懸命厳つい顔をしてるけど口元がゆるんでるぜ、土いじりが趣味のおじさんよぉ?

ま、そんな顔を見れただけでも良いことだ。


想定通り、無難なところでまとまってくれて俺は一安心。

どこにも角が立たずにダンおじさんの立場も悪くならなかった。

おじさんの仕事が少々増えたけど、少なくなるだろう見回りの仕事の代わりにはちょうどいい塩梅だろう。

つまり、万事解決!


へへ、いいことをした後は気分がいいな。


のん気に口笛を吹きながら歩いてたら突然ぐいと襟首を引っ張る者がいる。

ぐえ、苦しい!

ってか、服が傷むからやめて~!

布は貴重なんですー!


「おいこら、なに他人事の顔してんだ」


聞こえてきた声には覚えがある。


「あ、ダンおじさん」


おや?

これはもしや。


「お前、なんかしただろう!」


……ばれてーら。


「なんのことですかね?」

「俺が気付かないとでも思ってたのか。人の事散々付け回しやがって」


俺に隠密スキルはない。

いや、むしろまだ何のスキルもないけども。


厳つい顔を試みてたダンおじさんは俺があわあわと逃げようとする様子を見て、深いため息を吐いた。


「……落ち着け。別に怒ろうってんじゃない」


あれ、違うの?


俺は何とか逃げようと振り回してた手足を止める。


「で、お前なにをしたんだ」


これはもはや素直に話すべし。

俺はさっさとゲロった。

そもそも最初から隠す予定でもなかったしな?


俺からざっと話を聞いたおじさんは深々とため息を吐いた。


「そりゃあお前、どう考えても村で共有するべき知識じゃないか」


おじさんは善人で常識人。

然り然り。


だからこそだ。


考えてみよう。

そもそもの目的、遊び場の安全確保。

これは完了した。


次の目的。

おじさんの立場向上。

今はこれ。


「まあ、おじさんの言う通りなんだけどさ。……実はタネがちょっと人に敬遠される方法なんだよね」


俺がこれ以上村人にドン引かれてもいいのかと、軽く脅しのジャブ。


「そ、そうなのか?」


うんうん、そうなんだよ。


「それに効果もよくわかってない」

「木は伸びてるだろう? それじゃあダメなのか? お前のことを見直す奴らも増えるんじゃないのか?」


俺?

別に今でも特に困ってないから見直さなれなくてもいいし。


友だちはシャルがいるし、ドナはかわいいし、チビたちはうるさいし、リンのおじさんは頭撫でてくれたし、ダンおじさんは俺の話聞いてくれるし。

アランたちのおかげでたまに肉も食えるようになったし。


つまり、今はおじさんの話なワケ。


「ちゃんと効果がわかってるに越したことないと思わない?」


別に急ぐ話でもない。

きちんと検証してからの資料提出でも構わないじゃないかと、俺は切々と訴えた。


おじさんは、むむむと難しい顔で考えて、


「よくわからんが。お前、ひょろっこいくせに頭ん中じゃ難しい事よく考えてるんだな」


がははは、と笑った。


考えてねーよ、難しい事なんて。

どこに頭を使うような話があった?

いや、ガチで。

マジで。


「そういうわけだから、おじさん。ちゃんと協力してよね」

「ん? ああ、わかった」


ぜっっったいわかってない!

なんで俺の名前が今出てきたんだろうって思ってるだろ!

断言してもいい!


「おじさんの任務は、棘の木での魔石の効果の検証! なにをどうやったらどういう結果が出たか! 逐一記録の上報告の事! 以上! 結論が出るまで他言無用、口外禁止!」

「お、おう?」


俺の圧しに負けておじさんはこくこくと頷いた。

ふんすと鼻を鳴らして俺はおじさんに成果を押し付けられたことに満足して踵を返す。


「あ、おいイサーク」


背中からまだぐだぐだという声が聞こえて、そのままのテンションで叫んだ。


「まだなんかあんのかよ!」

「いや、俺、字書けねーよ?」


あ、うん。

そーね、俺も読めねーわ。


いつも締まらねーなぁ……。











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