13話 そうだ、魔道具を触ってみよう。
課題が出た。
しかも難易度が鬼畜。
見たことも触ったこともない道具を直せとな?
制限時間は収穫祭が終わるまで。
つまりは朝日が昇るか、キャンプファイヤーが燃え尽きるかの二択。
俺は夜空と、暗闇を浩々と照らすキャンプファイヤーを見比べた。
うーん……。
自分の記憶を遡ってみても、今回のキャンプファイヤーは例年にないくらい大きい。
木材が大量に使われてる分、火力もスゴイ。
夜はめっきり冷たい風が吹く様になってきた今でも、これだけ熱源があるとさすがに肌寒さも感じない。
しかもさっきまでぽいぽいと追加の薪が投入されていたので、たぶん日が昇るまで燃え尽きることはないだろう。
ちなみに今は薪の供給が止まってる。
俺たちの話を聞いていた者が「じゃ、やめよ」とばかりに手を止めたやがった。
コノヤロウ。
いいけどな、俺の推測通りなら最初から朝日待ちだし!
「ほら、これだよ」
急ぐでもなく、自分の家から目的のものをのんびりと持ってきたマチルダさんが手に持っていた魔道具はランタン。
ねえ、時間制限あるんですけど?
俺のために走っては、……あ、はい、くれないですよね。
生意気言ってスミマセン。
ちなみに興味津々だった村人たちは少々時間が置かれたことで再び祭りに夢中になっている。
食えや飲めや歌えや踊れや。
一年に一度の貴重な機会を俺のことなんかで不意にはしたくないのだろう。
正直、注目が削がれてありがたい。
それにしてもランタンか。
魔道具に詳しいわけではないけど、魔道具の中では推測するにもっとも一般的で簡易的なのではないだろうか。
想定した中では最もマシな類。
だと思おう。うん。
いや、さ? それでもよ?
サーバーがダウンしたから原因を究明して直せって言われるのと、PCが起動しなくなったから見てくれと言われるくらいの違いがあるような気がする。
……多分、気がするだけだけろう。
だって、どっちにしろ素人には難しいことには変わりないし、ずぶの素人からしたら両者の違いなんてわかんなくない?
今の俺は難易度の違いが最低限わかる程度で。手も足もでないことには変わりないな~と途方に暮れてる、パソコンの分解や組み立てなどしたことのない一般的使用者ってところだ。
「ほら、元々壊れてるモンだ。好きに触りな」
マチルダさんがぽいと投げたそれを慌ててキャッチする。
おいー! 気をつけろよ、壊れてたって十分貴重品だぞ!?
俺は思わず拝んだね。
いやはや、なんにしてもありがたや~!
「こんなヤツに渡すべきじゃない!」と、両親を説得しながら自分の家と広場を無駄に往復したアランがぐっと悔しそうな顔をした。
はは~ん、悔しかったらお前も俺と同じ「願い」に変えれば?
ちらっと意味深な視線を流してふふんと笑ってやる。
アランがあからさまにむっとした。
くく、分かりやす過ぎ。やり直し!
……ま、お前と同じ願いが通るなら、俺だってそれにしたよ?
なのにコッチを悔しがるのはなんでなん?
これくらい大目に見てくれてもよくない?
震える手で受け取った魔道具は、他に置く場所がないので仕方なく地面にそっとおろした。
わぁ、本物の不思議道具!(感動)
……今はその真価を発揮してくれてないけど。
うむ、端的に言ってただの光らない置物だな。
「きみは、……本当に物怖じしないな」
「え?」
頭上から感心したようなルパートさんの声がした。
次いでマチルダさんのくつくつとした笑い声。
ランタンを舐め回すように眺めるのに忙しくて、俺は顔を上げもせず、おざなりの返事をした。
「本来ならきみが一生働いても稼げない金額のモノなんだが」
「だって、好きにしろって言ってもらったし」
なに、触っちゃダメなの?
いいんでしょ? そう言ったじゃん。
だったら好きにしなきゃ損ってもんよ。
感動ついでに眺めていたけど、そこそこで切り上げる。
だって、時間制限あるから。
「それでも、だよ」
あー、もう!
ちょっと返事にもリソース割くの勿体ないんで、関係ない話なら黙っててくれます?
一時間か、二時間か、うーん、できたら朝までおなしゃす!
ん、待って待って。黙る前に聞きたいことが!
「これって、開け方は?」
「ああ、ちょっと貸しな。さすがにそれ位は教えてもいいだろう。あたしたちも魔石の交換は自分でやらなきゃならなかったから、これだけは覚えてるし」
ふーん、交換ね。
つまり魔道具も電池式みたいなもん、と。
電池交換程度なら、そりゃ自分でするか。
「でも、コレが壊れたのはそのせいだったと思わないか? そもそもお金がふんだんにある冒険者なら交換だって専門家に頼むものなんだし」
はい? この二人ですら村を出ると貧乏冒険者程度なワケ?
……俺、マジで外に出ないって今心に誓ったわ。
「交換の際は、まずここをこう捻って……、そうするとここが外れるから……ん? 固いな。違ったっけ? こうだっけかな?」
「そうじゃないよ。こっちのつまみを押しながら捻るとここが傘ごと外れ……ないかも」
はいはい、そういうことね。
俺は魔道具が壊れた理由がとてもよく理解できた。
マチルダさんとルパートさんがああじゃないこうじゃないと魔道具を取り合いながら弄ってる。
俺は深いため息を二人に吐いた。
時間の無駄だと悟ってしまったので。
「もういいよ、あとは俺がやるから。それ以上壊さないでくれます?」
「とても心外だ」
真面目腐った顔でルパートさんが不満を口にする。
その割に全然怒気が混じってないのが、なんだかな。こんなんでも、実は食わせ者なんだろうか。
「電池交換がスムーズにできる様になったら前言を撤回させていただきますよ。喜んでね」
「おい、イサーク! 大人に対してなんて口の利き方だ!」
「はいはい、ごめんねー」
お前の相手はまた今度だ。
たぶんルパートさんとマチルダさんは気にしてないから、お前の台詞には一考の余地もないんだよな。
とりあえず二人のコントみたいなやり取りのおかげで、どこが分解できるかはわかったことだし。
まずは全てをバラバラにしてみることにする。
形は俺の知ってる地球産のランタンに似てるけど、随分と簡略化されてるみたいだ。
本物よりLEDランタンとか手持ちのレトロランプの方が近いかも。
上から順に、持ち手部分、傘部分、ガラス部分はなくて、光源部分が剥き出し。
最後は肝心な部分を守るブラックボックスへと続く。
ガラス部分は、光源が炎ではないから風や雨に左右されないので必要ないのだろう。
スイッチらしきものはブラックボックスの前面についていた。
んー。
「なるほど?」
なるほど。
光源は下のブラックボックスと接触しているけど、さっきの二人の会話を聞くに分離可能、と。
「ねえ、これって素材はなに?」
光を発する部分を指して持ち主の二人に聞く。
「覚えてる? ルパート」
「あー……。確か、砂蜥蜴か、草原に出てくる黒い牛みたいなやつ、あれの名前ってなんだっけ? それか、ハライドのワーム、……じゃなければ、たぶん巨大湖の輝魚、あとは」
「とにかく魔石だよ。使い切ったあとの、なんかの魔石」
最終的に投げやりにマチルダさんがそう言った。
おや、もしかしてお二方ってポンコツ冒険者だったのでは?
ではでは?
「ん、使い切った? ……魔石って、使うと色が変わりません?」
ゴブリンの魔石は灰色になるけど?
つまりはほぼ石。
だがこれは少々黄色味が濃い乳白色だ。
「よく知ってるね。そうだよ、使い切ってその色になったんだ」
な~る、魔石によって違うわけか。
魔石ってやっぱり面白い。
で、ゴブリンのように石みたいにならないのならば、こうして他に用途があるものもある、と。
つまりリサイクルってことだな。
「使い切った魔石は脆くなるから、それに直接触るなら気を付けた方がいいかもな」
あん?
光源は自然環境には強いけど、物理衝撃には弱いらしい。
てか、やっぱり衝撃保護のためにガラス部分必要だったんじゃ?
ぼそりと呟いたら、ルパートさんがそれを拾って「たはは」と笑う。
「いやあ、当時は僕たちも先立つものがなくてね~」
予算内で買えるものとなると、犠牲にしなければならないものがあったらしい。
二人とも明るく笑ってるけど、どう考えても削る場所が違うと思う。
あ、いいんです、わかってますから。
ポンコツ冒険者ですもんね、仕方ない。
というか、巡り巡ってこうして今俺が魔道具に触る機会を持てた要因なワケだから感謝の一つでもしておこう。
というかアラン、まさかこの両親を将来の目標にしてたりしないよな?
だとしたら考え直したほうがいい。
お前はもっと上に行けるはず。
魔道具を矯めつ眇めつしてから、カラカラと魔石由来の光源を電球よろしく回して抜く。
するとあとはブラックボックスだけになった。
後ろで「おお~」なんて感心の声が聞こえるけど、分解しただけだからね?
アランの両親がアレなだけで、これくらいは誰でも出来る。
勘違いしてはいけない。こ・れ・が・普通!
さて、ここまできて俺はいまだに魔道具の真髄を見てない。
きっとこれから見れることだろう。
緊張より先にワクワクしてしまうのは仕方ない。
問題のブラックボックスを開けるには少し苦労した。
ってか、夜間だから光源がキャンプファイヤーの炎だけで、ちらちらして見にくいんだよ。
影も強く出来るし!
ブラックボックスは、なんだか寄せ木細工の仕掛け箱を思い出すような作りだった。
面白いけどめんどくさい。
何度も試行錯誤して順番通りに動かすと、唐突にブラックボックスが抵抗なくバラバラと地面に落ちた。
ええ!?
びびびっくりしたー!
こ、壊れてないよね?
突然砕けたのかと思ったけど、分解されただけみたいだ。
ほっとした。
ランタンはいくつかの部品に分かれたけど、俺は転がり出た球状の石とそれが付いていたのだろう円盤を拾い上げる。
もちろん慎重に。
石は電池代わりの魔石。光源部品として使われてる使用済み魔石じゃない方の魔石ね。
こっちは光源と違って色が濁ってない。
まだ使い切ってないということだ。
なのに灯らないってことは、やっぱりどこかに不具合があるんだろう。
そしてもう一つ、手に取ったもの。
「これか」
見つけた。
魔道具の心臓部分。
目が輝いたのが自分でもわかる。
わあお!
かっけえええええええ!
ほぼ想像の中の魔法陣!
なんかよくわからない言語らしきものと無数の線と、記号染みたもので塗りつぶされている円盤。
興奮で顔が歪んだ。
「……すごいな」
思わす恍惚のため息を吐いてしまう。
美しいものを見た時、きっと誰だってこんな反応になる。
しばらく俺は時間を忘れてそれに見入っていた。
「……おい。イサーク、時間はいいのか?」
我に返ったのはそんな一言のおかげだ。
サンキュー、アラン!
なんだかんだお前、根がいい奴よな。
……それにしても、改めて見てみると困ったものだ。
腕組みをして唸る。
文字を知らない俺では手掛かりの一つもない。
なにせ?
俺はこれが現代語か古代語か、自国語か他国語かすらわからないのだ。
これほど途方にくれたことは、両親が死んだときか、ゴブリン事件のときか。……ああいや、あれに比べたらなんてことないな?
これができなくても生活に困ったり、死んだりもしないし。
うん、そう思ったら気が楽になった。
逆に考えよう。
そもそも俺のお願いは「見せてくれ」ってことで、ここまでさせてもらえるのは降って湧いた幸運。
ダメで元々じゃん?
こうなったらわからないなりに隅々まで見させてもらうこととしよう。
もちろんやらずして諦めるのも癪にさわるから精一杯やってみるけど。
「よし!」
自分の頬をぱんと叩いて気合を入れる。
「テラーさん、レンズ貸して!」
「……どれが必要なんだ?」
「一番倍率高いやつと二倍くらいので」
家に取りに帰るのかと思ったらあっさりとポケットから取り出す。
それも、ご丁寧にゴブリン製の皮で包まれていた。
はは、テラーさんらしいね。
レンズに傷をつけないもっとも簡単な方法がこれだと、前にテラーさんが滔々と語っていたことをふと思い出す。
「ありがと!」
礼を言って受け取って、まずは手の平に収まる円盤をレンズで観察。
触った感じ薄い金属のようたけど、銅板のような軟さがある。
その軟らかさを利用して、(推定)魔法陣は直接書き込まれてるらしい。
ここで俺に出来ることは少ない。
とりあえず部品と同じように描かれている文字らしきものをレンズを覗きながら正確に書き出してみる。
紙なんて便利なものはないから地面に木の棒でガリガリと書いた。
書いてからじっと眺めて、
「……いや、文字の解読なんてイチからやってたら時間が足りないな」
そんな結論に至る。
ぱぱっと見ただけでいくつか同じような形は見つけられるから、時間をかければ不可能ではないかもしれないけど。
やめよう。
無理だ。
人生諦めが肝心である。
しゃあないので、分別に切り替えた。
そう、俺は最初に思ったじゃないか。
文字と、線と、記号で出来ていると。
だからその三つに分けてみる。
文字と記号の区別が中々に難しい場所もあったけど、それは状況判断と勘で振り分ける。
ここは合ってると信じるのみよ。
ガリガリと地面一杯に出来上がった三個の魔法陣もどき。
書き写しと模写ではあるけど、中々いい出来だ。
俺、元々絵上手いもんね。
才能あるかも?
文字魔法陣は放置。
参考程度にしておこう。
あとは記号魔法陣と線魔法陣。
これなら文字よりは読み解ける可能性がある。
さて、ここからはパズルの時間だ。
課題:共通項と法則を見つけ出しなさい。
書き出した線魔法陣をちらちら見ながら、同じ項目と思われるものにあたりを付けて、他の似たような箇所にも当てはまるかと試し書きをしては消していく。
難しいことはない、単純な代入法だ。
むむ、それにしても影が邪魔くさい。
見やすさを求め、強い光を放つキャンプファイヤーにじりじりと近づく。
熱いな!
でも我慢できなくもない!
どれくらいそうしていたのか、俺は頭を掻きむしって行き詰っていることを独り言で白状した。
「くそー、なんだこれ? どうやってもただの模様にしかなんねーぞ!?」
さすが魔法陣、簡単にはいかない。
法則はありそうなのだ。
もうちょっとでわかりそうなのに、どうしてもたどり着けない。
「あみだくじかよ! 当たりでも引けって? ……つーか、なんっでこの線は突然途切れるんだ! こっちは明らかに長さが他と違いすぎるしよぉ!」
自分の書いた拡大サンプルが間違っているのだろうか?
銅板(仮)をレンズなしで覗き込む。
横から光を当て、透かして、片眼で見る。
円盤は俺の眼前で他の全ての景色を塞いでいた。
目に焼き付けるように一つ一つの記号や線を視線でなぞる。
シナプスが全力で働いてるのに、全然正解に手が届かない。
「クソっ」
ついつい誰にでもなく毒づいた。
――ら、後頭部から強すぎない物理衝撃と共に何かが降ってきた。
「え?」
衝撃の正体はすぐに知れる。
ただの水だ。
それが頭から滴ってきた。
「よお、少しは頭が冷えたか?」
「……ダンおじさん?」
声に振り返って、久々に夜の闇を目に映す。
暗順応には時間がかかる。おじさんが笑っている気配だけが見えた。
目が、ちかちかと痛んだ。
どうやら結構な時間、瞬きを忘れていたらしい。
ところで、
「なにこれ?」
頭から流れてくる水を指して聞く。
「炎に近づきすぎだ。燃えそうだったぞ?」
「……ええ?」
そういえば前髪がなんだかちりちりしてるし、伝う水が心地いいと思うくらいには額が熱を持っている。
明るさを求めすぎたらしい。
なんだ、そういうことか。
一瞬いじめかと思ったよ。
「ついでに煮えたぎってるお前の頭の中も一旦リセットしろ。いいな?」
がっと頭を握られて、グラグラと揺らされた。あばばばば。
これでもたぶん、撫でてるつもり。
俺は濡れた髪をかきあげながら今日イチの大きなため息を吐いた。
強張っていた肩ががくんと落ちる。
「……目が痛い」
目を瞑って目蓋をぐりぐりと揉む。
「頑張りすぎだな! お前は適当なくらいで丁度いいんだよ、わはははは!」
あと、頭も痛い。
アドレナリンでどうにかなる集中時間は終わったらしい。
そう思ったら体の欲求が湧き出してきた。
「のどが渇いた」
「よしいいだろう、取ってきてやる。他には? なにか欲しいものはあるか? なにが必要なんだ? なにが足りない?」
やっぱり水かな?
あとチラチラ揺れない光が欲しいです。
目が必要以上に疲れるんだよ。
でもこれは今修復作業中でしてね。
直ったら手に入る仕様です。
あと紙。と辞書があったらもっとイージーモードだっただろうに。
欲しいものだらけですよ、まったく。
世の中いつも甘くない。
ん?
……足りない?
たりない。
足りないもの。
そう、か。
そうか!




