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溜息

お待たせしました…!


よろしくお願いします!!

4日目の朝。


あと2日で委員会は終わる。

今日はワックスがけがある。また教室で2人きり。そして明日は最終の委員会だ。


昨日観たドラマでは、ヒロインが好きな子に告白して、受け入れてもらっていた。


「わたしにもあんな未来あるのかな」


幸田くんに告白して、幸田くんもわたしのことを好きだと言ってくれる世界は、存在するんだろうか。


鏡の前で、スカートだけはいつも通り、でも昨日買ったリップは塗って、家を出た。





教室に入ると、幸田くんはもう学校に来ていて、いつものメンバーと一緒に楽しそうにしている。


わたしはそこを通り過ぎて窓際の自分の席に腰を下ろした。


「あ!ねぇ!翔太、明日のカラオケの話覚えてる?!」

「あー…うん。」


カラオケかぁ…やっぱ行くんだ。


「みんないけるって!!たのしみだね!」

「マミ音痴なのに〜」

「そんなことないし!!」

「あ、そのあとでも前でもいいけど、買い物行きたい!!」

「あ、俺も!翔太付き合ってよ」

「あー…うん、いいよ」


わたしは本を読んでいるふりをしながら丸聞こえの会話に耳を澄ませる。


「あ、そういえば!委員会も明日で終わりだよね!!!」

「うん、そうそう」

「じゃあ明日は翔太のおつかれ会だな!」

「え〜いいよそんなの」

「そうだね!仲良くない子とよく1週間も頑張ったよーーー!」


え。

自分のことが出てくるとは思わなくて、しかもいい話ではなさそう。


「中村さん?だっけ?」

「いつもあそこで本読んでる子でしょ?」

「お前うろ覚えなのかよひでぇ」

「だって喋ったことないんだもん」

「中村さん話しやすいよ」

「えーほんとに?!」

「翔太気遣って話してたんじゃないの?」

「そんなんじゃないって」

「盛り上がらないと会話って言わないの!」


悪意のない言葉がわたしの背中に刺さる。

幸田くんもその会話に入っているのかと思うと泣きそうになる。


お願いだからその人たちの前で、わたしのことを中途半端に庇わないで。

幸田くんもわたしのこと、地味な子だって思ってたんでしょう。


わたしの中で真っ黒な気持ちがどんどん溜まる。


わたしのことを傷つける言葉を出すあの人たちにも、それを中途半端に庇う幸田くんにも腹がたつ。


「中村さんいい子だよ」


頼むからそんな風に言わないで。


「まぁ悪い子ではないんだろうけどぉ」

「なんかねぇ?世界が違うよねぇ?」


頼むからもうわたしのことを話題にしないで。


ガタッッッ


机の鳴る音がして、一瞬教室がシン、となって、またざわついた。

音の鳴った方にいたのは幸田くんで、わたしは思わず幸田くんたちの方を見てしまった。

幸田くんが机を鳴らしたのがわかった。


「もういいじゃんこの話。何買いたいんだよ、どこの店行きたいの」


幸田くんはいつものように笑って言った。

わたしはまた本に視線を戻す。


「あ、彼女のプレゼントなんだけどさ!」

「え、慎吾彼女いたの」

「いたわ!!」

「やだ翔太なんで忘れてんの!!」


あははは、と笑い声が響く。

わたしはその声でわ頭がいたくなった。

ショートホームルームまで15分。たったの15分なのに、わたしにとってはとても長く感じてしょうがなかった。


幸田くんと、仲良くならなければよかった。

中途半端に仲良くならなければ、わたしはこんなに今、理由のつけられない感情に悩むことはなかった。


目が幸田くんを教室で追えば追うほど、幸田くんがすきになる。



*



放課後。

教室のワックスがけ。


わたしはその日一日中、幸田くんの視線から避け続けた。

そういう時に限って、幸田くんがわたしのことを見ている気がしてしまう。


「やだなぁ」


一人でボソッとつぶやく。

みんなが教室から出て行く中、幸田くんのグループの女の子が、幸田くんに声をかけていた。


「翔太!!帰ったらメールしてね!」


ズキ。ズキ。ズキ。


「あぁ、うん」


ズキ。ズキ。ズキ。

痛い。胸が痛い。


視界には自分のスカートと膝が見える。

他の女の子よりは長いスカート。


前を見なきゃ。俯いてたらだめ。

少し顔を上げると、地味なスクールカバンに置かれた手。ネイルもしていない、地味な手。


幸田くんが委員会が終わってからメールをもらうあの子は、制服を今風に着こなして、ネイルをして、メイクをして。


顔をもっと上げると、私の周りにはだれもいない。みんな、誰かに囲まれているのに。誰かといるのに。


今日帰りどこによるか。

今週の土日は遊べるか。

彼氏の話、彼女の話。

すきな人の話。バイトの話。


みんな、楽しそうだ。


わたしには、だれもいない。

何もない。


再び顔が下を向いたとき、


「中村さん」


幸田くんの声がして、横を見ると、にっこり笑って言った。


「ワックス、もらいにいこ」


そして、スタスタと歩き出す。


そして、教室のドアのところで振り向いて、


「早く」


と言った。


「あ、うん…」


心のもやは少し晴れて。

わたしは単純だ。



*




「ご苦労様です」

「おつかれさまです」


委員会代表の人がモップとワックスの入ったバケツをくれる。


「俺が持つから中村さんはモップ持って」


さりげなくわたしよりも先にバケツを委員会代表から受け取った幸田くんは、やっぱり優しい。


「は、はい」


前を歩く幸田くんの背中は思ったよりも大きい。思ったよりも男の子だ。


わたしはその背中にしがみつきたいくらいに幸田くんのことがすきだ。


だから、これほどに、もやもやした感情になる。もう、疲れた。



教室での作業は、黙々と、ただ黙々とワックスをかけることだった。机はもう、別の係りの人によって運び出されている。


わたしたちは、今日は特に話をするでもなく、ただひたすらに、ワックスを塗り続ける。

これでいい。幸田くんの口から、友達の話を聞かされたりしたくない。


ギュッギュッ


モップを持つ手に力が入る。


わたしの心も、ワックスを塗って新しい床のように生まれ変わりたい。


ピカピカに。ツルツルに。

もやを拭き取って。


「中村さん」


幸田くんがわたしに呼びかける。


「な、なに…?」

「今日の、あいつらの…ごめんね」


幸田くん。わたしは幸田くんのこと、すきだけど。どうしようもなくすきだけど。


あなたのそういう優しさは、わたしを傷つけるんだよ。


「多分あいつらも、悪気はないと思うんだけど…中村さん傷ついてるだろうなって思ってさ…」


幸田くんの口から、あの子たちを庇う言葉は聞きたくなかった。


「…いいよ、気にしてないよあたしみたいな子はそういうの慣れてるし」

「中村さん」

「幸田くんも、委員会終わったらあたしとはもう関わらないで済むもん。だから今日と明日が我慢だよ」


思ってもないことが、口からするすると生まれる。


「幸田くんと委員会一緒になってあたしもいろいろ、気持ちがわけわかんないこと多くて、疲れてたし。わたしたち元々世界が違うんだから、しょうがないよ」


笑って、言う。

泣き顔に見られないように。

未練の残らないように。


「…委員会、一緒にならなかったらよかった」


幸田くんは、はっきり傷ついた顔をした。

そして、言った。


「自分で言ってるくせに。なんでそんな、傷ついたような顔するの」


「…え?」


幸田くんは、バケツと、モップをわたしの手から取って、


「返してくるね」


と言った。

そして、


「…俺は、嬉しかったよ、中村さんと委員会なれて」


「え??」


幸田くんの背中が少し寂しそうで。


「でも、中村さんは違ったんだね」


教室のドアを開けて、幸田くんが振り返る。


「俺、これ片付けてから帰るから、中村さん先に帰っていいよ」


なにも言えないでいるわたしを置いて、幸田くんは教室から出て行った。


わたしはまた足元を見つめて、ため息をついた。


これで、これでいい。

元通りだ。


なのに…


上履きに染みができる。


「なんで…っっ」


なんでわたしはまた泣いているの。

なんであんなこと言っちゃったの。


拭っても出てくる涙を止めることは諦めて、わたしは教室から逃げるように立ち去った。



ん〜恋って難しい…!!

恋の定義を考えてしまう今日この頃です。。。

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