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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第五章  三人と一人のはねっかえり娘 とある貴族達と関わる  の話
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05  『それは フラッシュより強く、フォーカードより弱い役の様な』

 日付は進み、パーティ当日がやってきた。

 開始時刻は夕方からの予定だが、ギョクたち三人がアマテラ家の門を叩いたのは、お昼を少しまわった辺りの事だった。


「お待ちしておりました。ギョク様、カガミ様。そしてスズ様」


 重厚な門の前に立っていた門番に来訪を告げると、数人のメイドが出迎えにやってくる。落ち着いたデザインのお仕着せに袖を通したメイドたちは、粛々として三人を館の中へと先導した。

 何処かの電気街などで見られるミニスカートのなんちゃってメイドなどではない、足の運び方一つに至るまで教育の行き届いたメイドたちの姿に、カガミは人知れず悶えている。


(コレだよコレ。やっぱりメイドさんは機能性重視のヴィクトリアンメイドスタイルだよなぁ)


 この異世界でヴィクトリア朝も何もないのだが、清楚なロングドレスに飾り気のないエプロンを着けたアマテラ家のメイドたちは、コイツの琴線を思うさま刺激しているようであった。

 この反応といい、日頃から修道服を着込んだ教会の乙女達といちゃついている所といい、カガミの趣味はそっち方向に尖っているのかもしれない。なんとも業の深いことである。



 後方からのヨコシマな視線に気付きもしないメイド達に連れられた館の中は、大貴族の邸宅に相応しい豪奢な造りであった。

 足元が沈み込むような毛の高い絨毯の上を進めば、高い天井を有した廊下のあちこちには、詳しく見るまでもなく価値があるとわかる美術品の数々が飾られている。金属の窓枠に嵌められた大きなガラスは透明度も高く、それぞれが熟練の職人の手によるものだとうかがえた。下手をしなくても、この一枚一枚が平民にとってのひと財産だ。

 そんな窓の向こうに広がる中庭も、この時期に最も美しく咲く花々を中心にした植え込みが目を楽しませる。聞けばメインで使う客室は、花の時期に併せて季節毎に変えているそうだ。正に、土地と金の有り余った者達の発想である。



 平民暮らしの長いスズだけでなく、消費社会の申し子だったギョクやカガミですら肝を抜かれる程の豪華絢爛な館の中を進み、やがて一つの扉の前にたどり着く。

 無言のまま道を譲り、頭をたれるメイドが開いた扉の先には、この館に暮らす貴族の一家が待ち受けていた。


「お待ちしてましたわ。ようこそ、我がアマテラ家へ」


 スカートの裾を持ち上げながらそっと首を傾けるテスラ。美しく整えられた室内で、いつもの執事を侍らす貴族令嬢の姿は、実にしっくりとくる美しさと威厳を纏っているように見える。

 頭の中では充分にわかっていた事だが、それでもこうやって自宅にいる少女の姿を初めて目にし、三人は等しく、同じような感想を抱いていた。


(なんてこった……。テスラさんが、ホンモノのお嬢様に見える……)



§§§§§


§§§


§



「改めてようこそ、アマテラ家へ。私がテスラの父親にしてアマテラ家の当主だ。本日は、我々の窮地に手を貸してくれると聞いている。よろしく頼むよ」


「勿体無いお言葉です、御当主様。私はカガミと申します。こちらに控える、ギョク、スズの両名と共に、微力ながら砕身を尽くさせて頂きたいと思います」


 テスラの父を名乗ったその男に、カガミは三人を代表して頭を下げる。穏やかな笑顔で一行を迎え入れたその男は、上質な服に通した両腕を広げて歓迎の意志を露にした。


「ハハハ、そう畏まることは無いよ。君たち……特にスズさんの事は、我が麗しの薔薇からよく聞いている。とても優秀な学生さんのようだね。この国の将来を担う貴族として、君の様に優秀な若者と知己を得られたことは喜ばしい事だ。是非、今後も仲良くしてやってくれたまえ」


「もぅ、お父様ったら。人前でその呼び方はやめてくださいといつも言っているでしょう? それにスズさん、勘違いしないでくださいましね。別に私は、いつも貴女のことを話しているのではなくってよ?」


「おやおやそうだったかい、愛しの宝石。学園のある日は毎日、夕食の話題でスズさんの名前を聞いている気がするのだがね?」


 高らかに笑い声を上げるアマテラ家当主。そしてそんな父親をポカポカと殴り、


「もぅ、やめて下さいまし!」


 可愛らしい抗議を繰り返すテスラであった。


(なんスかねぇ。……どこぞの国でやってたホームコメディ見せられてる気分ッス)


(あぁ、随所でわざとらしいスタッフの笑い声が入るアレな)


(ギョクちゃん達の言葉の意味はわかんないけど、なんとなくわかっちゃうのはなんでなんだろう……)


 と、貼り付けたような苦笑いを浮かべる三人であったが、この家の使用人であるメイドや執事たちは、揃って微笑ましそうにこの親子を見守っている。やはりアマテラ家、どこかしら感性がおかしい。



「もぅ、お父様なんて知りませんわッ。それより、挨拶はこのくらいで良いでしょう? 早くパーティの準備に取り掛からねば遅れてしまいますわ。スズさん、行きますわよッ」


「えっ、今から始めるの? まだお昼なんだし、ちょっと早すぎない?」


「何を言っているの。レディの準備に、早すぎなんて単語はありませんわ。身だしなみにかける時間は、多ければ多いほど良いのですもの」


 ベッタベタな仲良し親子にしか見えないテスラたちだが、それでもやはり、娘には恥ずかしいという気持ちがあるようだ。家族の団欒の間と化したこの空間を出て、パーティの支度を始めようと促してくる。


 メイド達に目配せをし、テスラは三人を自室へと誘う。動き出す娘達を前にして、それでも父親の方は残念そうに唇を尖らせた。


「おやおや、もう行ってしまうのかい? 出来れば私も、もう少し彼女達と話をしたかったのだがね。それに、今夜の段取りについても打ち合わせをしておきたいのだよ」


「そうは言いますけれど、お父様。スズさんにはこれから急いでドレスの丈合わせをしてもらわなければなりませんし、ギョクさんにはそれ以上に念入りの準備が必要ですわ。なにせギョクさんは、今夜の主役でもあるのですから」


 不平を鳴らす父親だが、それでも譲ろうとはしないテスラである。事実、彼女の描いた予定では、ギョクの準備にかかる時間には、さほどの余裕も存在しないのだ。

 テスラの言葉に頷いているメイドたちの瞳も、ギョクの姿を捉えて怪しい光を放っている。常日頃から、貴族の麗人を美しく仕上げることに情熱を燃やしているこの女性陣が、珠玉の素材であるこの魔法少女モドキをどのように料理するつもりなのか? いやはや、考えるだに恐ろしい。


 とはいえ、家長であり高位貴族でもあるアマテラ家当主の言葉を無視し、全員でこの場を辞してしまうことは流石に難しい。彼が口にした通り、今夜のギョクの出番について打ち合わせが必要なのも確かなのだ。




 少女達の中で二、三のやり取りが交わされ、一行はバラバラにパーティの支度に取り掛かることが決まった。

 最も準備が必要なギョクは、アマテラ家が誇る敏腕メイド隊に連れられていく。


「さ、ギョク様ぁ。まずは当家自慢の浴室で、全身くまなくピッカピカに磨き上げましょうねぇ」


「うぇっ? いやいや、風呂は大丈夫だって。今日だってここに来る前、ちゃあんと汗も流してきたんだからさ」


「ダメでございますぅ。その美しい銀髪の一本一本まで、責任を持ってお手入れさせて頂きますわぁ」


 いかな天下無双の暴力系魔法少女でも、女性の集団に取り囲まれてしまっては逃げ出すことなど叶わない。両脇をがっしりと掴まれ、メイド隊に連れ去られていくギョクであった。

 果たしてコイツが、これからどんなに悲惨で羨ましい目にあってしまうのか……。それは、もうしばらく後に語らせてもらうとしよう。



 カガミが話を盛りまくったおかげで、特注のドレスを突貫で仕立て上げることになってしまったギョクとは違い、スズにはそこまでの準備が必要なわけではない。今夜の服装に関しても、幸い、テスラとスズの体型にそれほど大きな違いが存在しない為、テスラのドレスルームに保管している物に手を入れるだけで準備は済むのだ。

 それでも、スズがはじめて行う採寸にはそれなりの時間がかかるのは目に見えているし、髪型や小物を選ぶのも、できればじっくり行いたい。


「さ、スズさん。グズグズしてないで私達も参りますわよ。ワタクシが貴女を、何処に出しても恥ずかしくない、立派なレディにして差し上げますわッ!」


「えぇと……お手柔らかにね」


 同年代の友人と共にお洒落をするという初めての体験を前に、いそいそと歩き出すテスラ。長い金髪をなびかせる少女に連れられ、スズは貴族令嬢の私室へと歩き出す。その後ろには、テスラの専属執事であるアメノも続いている。



 そして最後に残ったカガミは、そのまま応接室のソファーに腰掛けていた。服装などに特別な準備が必要無いコイツが、皆を代表して当主との話に応じることになったのだ。


(どうにも今回は、こういう役周りが回ってくるな……)


 と、胸中で愚痴るカガミであったが、とはいえギョクに代わって衆目を浴びる役割になりたいなどとは思わない。これも巡り合わせと諦め、真面目な話を担当させてもらう事にする。

 用意されたお茶で唇を湿らせながら、神官乙女は、ほぅ、と息をつくのであった。


 先ほどまで、少女達の姦しい話し声が響いていたこの応接室には、今はカガミとこの館の主人、そして数人の割りと年かさの使用人たちが残るだけである。誰もが口を噤み、緩やかな静寂が満ち満ちている。

 贅沢に綿を使ったソファーに座るカガミの前で、この国きっての大貴族の男は、口をつけていたティーカップをゆっくりとソーサーの上に置く。


 ――カチャリ。


 真っ白な磁器が微かな音を立てると同時に、男はようやく口を開いた。


「……で、幾ら欲しいのだね?」


「……何のお話でしょう?」


「とぼけるな。我が娘から聞き出した当家の問題にかこつけ、キサマ等下賎な冒険者風情が、いったい幾ら強請(ゆす)るつもりなのかと聞いているのだ」


 カガミの耳に、初めて耳にする声色の、アマテラ家当主の声が届いた。

お読み頂きありがとうございました。


フル○ウスキャラの中では、ステフ(次女)とキニー(足の臭い隣人)が特に好き。



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 ※※短編※※

トイレでアレする花子さん

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 ※※完結済み※※

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