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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第五章  三人と一人のはねっかえり娘 とある貴族達と関わる  の話
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02  『それは つまりは時代の移り変わり』

 それから一月ほどの時間が過ぎ、だんだん冬の寒さも本番となってきた。


 この日、ギョクとカガミの二人は、いつもより少し早めに学園から帰ってきたスズに請われ、三人で冒険者ギルドを訪れている。

 スズの同級生にして、この国の大貴族として名高いアマテラ家の長女であるテスラが、どうしても二人に面会を願ってきたのだという。


 三人が冒険者ギルドに入ると、待ち構えていたかのように執事服の女性が声をかけてきた。

 ギョクたちにも見覚えのあるアメノという名の女性執事は、久しぶりに顔を合わせたギョクたちへの挨拶もそこそこに、冒険者ギルドの二階へと先導していく。元中年達が日頃から利用している、一階のロビーに置かれたテーブルではなく、二階に設けられた応接室を使うらしい。

 以前拠点にしていたヤーアトの街でならば、個室での打ち合わせも何度か経験したことがあったが、大貴族すら利用するというイズクモ支部の個室に入るのは初めての三人である。否応なしに緊張が高まっていく。


「どうぞ。お嬢様がお待ちです」


 と、うやうやしくドアを開けるアメノに従い応接室に入ると、そこには言葉通りに三人を待ち構えるテスラの姿があった。

 未成年のため未だ貴族として序されてはいないとはいえ、それでも大貴族の子女であるテスラが、一介の冒険者に過ぎない三人に先んじて待っていたのである。たとえあちらから持ちかけてきた面会だとしても、平民相手には考えられない礼儀の払い方だ。


(マズイ、かもしれないな……。ここまでされると、どんな無理難題でも呑まされかねない)


 緊張の面持ちのテスラににっこりと笑いかけつつ、警戒のレベルを二つほど引き上げるカガミであった。



§


§§§


§§§§§



「まぁ、挨拶もろもろはこの際すっとばそうや。俺たちに話があるって聞いてたけど、一体どんな用事なんだ? 嬢ちゃんには、学園でスズが良くしてもらってるみたいだしな。大抵のことなら聞いてやらんでもないぜ」


 挨拶もそこそこに、ふかふかのソファーに胡坐をかいたギョクが口火を切った。近所の気の良いおっちゃんが、見知った子どものお願い事を聞いてやるような口ぶりであった。いやはや、つい数秒前、厄介ごとに巻き込まれないようにと心構えをしたカガミの心中は察して余りある。


 にこやかな表情を変えず、内心でギョクを罵倒しまくっている神官少女に気付きもせず、テスラは三人に向かって話を始めた。


「皆さんも当然ご存知の通り、我がアマテラ家はこの国が開闢以来の大家ですわ。その歴史は、たとえ王家であってもひけを取らぬほどの重厚さがございます。本邦における歴史ある貴族といえばアマテラ家、そう言い切っても過言ではございませんことよ」


「うん。ぜんぜんご存知じゃなかったけど、そうなんだね。で、お家の自慢話がしたかったの? そんなコトのために、わざわざウチのお姉ちゃん達を呼びつけたの?」


 テスラが出した前置きに、やけに突っかかるスズであった。同級生と一緒のところを家族に見られ、なんとなく突っ張った態度をとってしまう思春期の反応である。先ほどギョクが口にした、『スズが良くしてもらっている』という言葉も、微妙に引っかかっているのかもしれない。

 いつも一緒に過ごしている時とは少し違うスズの姿に、ギョクたちは被保護者の少女がはたらいた無礼を嗜めつつも、思わずクスリとしてしまう。



 一方、そんな照れ隠しの延長線上にあるようなスズの反応に唇を尖らせ、テスラは話を続ける。


「違いますわッ! 話はこれからです。……その、我が家が歴史ある貴族だというのは、今申し上げた通りなのですが、比類する大家が他にないというワケではございませんの。国内を見渡せば、同じ程度に代を積み重ねた門閥というのも当然ございますわ。その中の一つに、オサノ家という名家がございますの……」


 聞けば、アマテラ家とオサノ家とは、元々は一つの家から分化した血筋らしい。詳しい経緯は省くが、この国の歴史上無視できないほどの功績を上げた兄弟を、それぞれの祖として栄えてきた名門なのだそうだ。

 そんな二家の関係は、表立っての対立は無いものの、それでも同じ血統に連なる貴族としてなにかと意識されていたのだという。


「しかも、私のお父様と今のオサノ家のご当主様は互いに同年代であったこともあり、何かにつけ比較されることも多かったと聞いておりますわ」


「なるほどねぇ。……お貴族様も大変なんだな」


「と言いましても、面と向かってどちらが優れていると言い合うような仲ではございませんのよ? そんなはしたない真似など、貴族としてはありえませんもの。貴族は常に、優美に互いを高めあうのですわ」


 などと、スズとの勝った負けたの口喧嘩を最近の日課にしているお嬢様がのたまっている。まぁこの場合、相手が平民だから良いのだろう。いやもしかすると、妙に気安いお嬢様であるテスラが、貴族としての例外なだけなのかもしれないのだが。




 テスラは続ける。


「そんなわけで我が家とオサノ家の方々とは、家格も似たような位置付けですので、顔を合わせる機会も多いのですわ。そして先日、とある貴族の主催したパーティでも、ワタクシのお父様とオサノ家のご当主様が同席いたしましたの」


 貴族のパーティというものは、言ってみれば政治の一環である。

 誰が、いつ、何処で、誰を招いて行ったかということが、そのまま主催者の社会的地位を主張する。また、そこで交わされる他愛も無い会話の一つ一つは政治の動向と直結するものであり、ちょっとした所作が派閥間抗争の決め手となる。

 民主主義だの開かれた政治だのが微塵も存在しない貴族政治において、喧々諤々の議会などまずもって存在しない。全ての政策は、大貴族達による水面下の多数派工作によって決定されるもので、それはつまり、何かにつけて開催されるパーティの中で、でやんわりと行われる格付け行為に左右されるのである。

 まさに、政治とは会議室で決まるのではない。全てパーティ会場で決まっているのだ。


 そんな貴族のパーティにおいて、オサノ家の当主がある話題を出してきたのだという。


「オサノ家ご当主様は、最近家に招いた凄腕の冒険者を、とてもご自慢に思ってらっしゃるようなのですわ。昨今の貴族にとって、腕に長けた冒険者を出入りさせることは非常に重視されておりますもの」


「そうなのか? お前さんたち貴族にとっちゃ、荒事専門の冒険者なんざ、格下の消耗品みてぇなモンだと思ってたんだが」


「確かに、ワタクシ達青い血が流れる者達にとって、市井の冒険者を下に見る風習はれっきとしてございます。でも、皆さんはご存じないかもしれませんが、貴族にとって自家に招いている冒険者というものは、決して軽んじられるものではございませんの。自分達が差配できる冒険者達とは、即ちその家の武力に直結しますもの」


 現在の貴族たちは、過去にこの国が諸外国との戦争に明け暮れていた頃、戦場で何らかの功績をあげた者たちの子孫がほとんどである。もちろん、政治や経済で優秀な結果を出した者たちが序列されている事例もあるが、基本的には武家の末裔と言って良い。


 とはいえ、ここ数百年にわたる平安の時代と共に貴族における武芸は形骸化し、強さよりも貴族的優雅さにこそ比重が置かれてしまっているのだった。

 もちろん国の一大事があれば、先陣を切って軍靴を並べるのも貴族としての責務だ。だが、実際に今の門閥貴族達を戦場に連れて行ったとして、モノの役に立つのはほんのヒトツマミ以下であろうことは想像に難くない。


 そんな今時の貴族において、自分たちの代わりに物理的戦力となりうる冒険者という存在が見直され始めている。自家に有力な冒険者を招き、いざという時に備えてその力を支配下に置いておく事こそ、貴族における責務であるという風習が広がっているのだそうだ。



「なるほど、ですわね。……でも私たち冒険者の側からすれば、貴族の方たちとの関係が変わったようには思えないのですけれど。未だに貴族向けの依頼を請けることが出来るのは、その……上級冒険者達に限るという方針に変わりはないのですし」


 貴族から見た冒険者についての考えを聞き、カガミは遠慮がちに口を開いた。

 先日のテスラとのいざこざの時にも口にしたように、この世界の冒険者ギルドにおける上級冒険者とは、対魔物戦闘における第一線を引いた者たちであることに変わりは無い。貴族の依頼のほとんどは、現役引退前の小遣い稼ぎとして、世情と小手先の技術に長けた者たちが請けているのが現状なのである。

 貴族側がどれだけ冒険者に戦力としての質を求めていようと、返ってくるのは別方向での質の高さなのだ。


 この国で国家間戦争が絶えて数百年。脅威と言えば、不定期にやってくる魔物たちだけを指す言葉へと認識が変わり、既に長い時間が経っている。かつては大軍を擁した騎士団も形骸化し、国の戦力と言えるモノは、いまだ細々と存続している国営軍だけになって久しい。

 そんな風に情勢が変わっている最中、依頼主である貴族のニーズが変わってきていても、冒険者たちはそれを知らずに従来の対応を行っている。



 カガミが指摘した齟齬に、テスラはバツが悪そうに片眉を下げた。


「えぇ、確かに仰るとおりなのだと思いますわ。自分達の元へやってくる冒険者が一線を退いた者たちであるという事実に、未だに貴族の大半は気付いておりません。ワタクシも、以前貴女方に指摘された後で当家に出入りしている冒険者達の力量を確かめましたが、それほど突出している者は一人としておりませんでしたもの」


「そういった変化に対応するには、やはり時間がかかりますものね。いずれは冒険者側の体制も変わるかもしれませんが、今しばらくは現状のままなのかもしれません」


 などと、テスラの言葉に当たり障りの無い返事を返しているが、カガミ内心で事の真相を探っていた。


 貴族側が気付いていないのは当然かもしれないと思う。生まれてこの方、平民達に(かしず)かれて生きてきた貴族達にとって、自分達の要求が無視されているなど想像すらできないのだろう。

 求めるモノがあれば、それが与えられるのが彼らにとっての当然なのだ。満足に至らない事はあるかもしれないが、ハナっからないがしろにされている可能性など考慮せずとも不思議ではない。


 だが、冒険者側に貴族の要求が認識されていないのはどういうわけだ?

 冒険者だってれっきとした客商売。いかに荒くれ者の集団とはいえ、依頼主たちが何を求めているのかという情報を軽視するような者ではこの家業は勤まらない。――どこかで情報が滞っている?




 そんなカガミの疑念をよそに、テスラはいよいよ本題に入る。


「なんにせよ、ワタクシ達貴族が高い力量を持った冒険者を手元に置くことを重視しているのに変わりはありませんの。そしてそれが、貴族としての優劣を見定める要因に成りえるのも確かなのですわ」


「了解だ。そこまでの話はわかった。……で、そろそろ俺達をここに呼び出した用件に入ってもらえねぇか?」


 浅く腰掛けたソファーの上、グイッと身を乗り出して貴族の令嬢に顔を寄せたギョク。その愛らしい顔立ちでも、隠しようもない野性味を前面に押し出した魔法少女に、テスラは思わず唾を呑む。

 幾つかの鼓動の音を聞いた後、この国きっての名門であるアマテラ家の息女は口を開いた。


「先ほどお話したオサノ家に出入りしている冒険者は、非常に高い武力を有しているのだそうですわ。それは単なる上級冒険者の枠に入らぬ、突出した力の持ち主なのだとか」


 そしてギュッと拳を握り、ギョクたち美貌の冒険者二人に向かって頭を下げるのだった。


「貴方達も、非常に優れた一線級の冒険者なのでしょう? お願いですわ。どうか我がアマテラ家の代表として、オサノ家の擁する冒険者と武を競って下さいまし!」

お読み頂きありがとうございました。



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